59 / 81
59かっこ悪いあなたが好き②
しおりを挟む
兄のまえでは敬意を払えとか、無茶をするなと叱りの言葉をルイは立て続けに夫にしていた。しかし相手の気持ちがはっきりするごとに難しい感情に囚われていく。
レオポルドは自分を心から思ってくれている、それが今回は王太子を攻め立てる結果となった。ルイは当然手放しで喜べるはずもなく、微妙な面持ちで受け止めるのが関の山だった。
「絶対に嫌だ」
「え?」
「離縁なんて嫌だ。無理だ。絶対にルイと離れるわけにいかないんだ……」
レオポルドを自室まで支え導いている時、ふと彼がそうつぶやいてくる。後悔でも兄への詫びでもなく、真っ先にそんなことを口に出す。王宮での禍根など、ちっとも気にしていない様子だった。
「私はレオ様のそばから離れる気はありませんよ?」
「わかっているよ、わかっているけど」
ルイは呆れ笑い、レオポルドの肩を一回小突いてやった。自分が引き起こした物種だというのに、ずいぶんと悠長にいられることだ。執着心はいつも通り。いや、いつもよりも感情がだいぶ重たいか。
「想像しただけで無理だな。頭がおかしくなる」
「なにを、想像したんですか?」
「ルイが近くにいなくなった時のことだ。学校にいた頃に逆戻りとか、少し考えただけでも耐えられないのに。兄上は、俺に、それを強要してきたんだ」
頭に手を置いて、レオポルドは苦しそうに笑みを張りつけていた。
今日は知らなくてもいいことを、ルイもほぼぜんぶ知り尽くした。目の前の彼とマルクスのせいでだ。だから訊かずにはいられなかった。自分とその夫は、これからどうなってしまうのか。同じように王宮に住み続けることが出来るのか。
「レオ様は、きちんと考えがあって私のことを気にかけてくれていたんですね」
「どういうことだ」
「私が王宮に居続けられるように、あれだけの量の手紙を送ってくれていたのでしょう?兄君と王妃様の意向に逆らってまで」
「……」
よくよく振り返ってみれば、レオポルドの異常なほどの執着も、熱のこもった愛情表現も、周りに向けたアピールだったのかもしれない。ルイは現状を深読みしすぎて、今はそうとしか思えなかった。
廊下の終着点に行き着き、彼らは部屋に入っていった。中では早くも従者が周りのものを整えており、怪我の細かい処置をどうぞと言わんばかりであった。
レオポルドはルイに預けていた片腕を解き、そのまま相手の全身を後ろから抱きすくめていた。
「レオ様?」
「そんな打算があったわけじゃない。ただ、お前のことが好きだったんだ」
ひどく感傷的な声がする。ルイのことを見下ろしている相手は、頬を腫らし、顔中を真っ赤に染め上げている。微熱でもありそうな顔の色だった。
「周りのことは関係ない。ぜんぶ俺がそうしたかっただけだ」
「あぁ……そう、そうだったんですね」
「信じられないか?俺の言葉では足りないだろうか」
ふるふるとルイはかぶりを振った。彼の奔放さは今に始まったことではない。誰の手にも負えず、幼いころから王宮の者を困らせていた。何でもかんでも独断する癖があって、現に彼はそのような性格でマルクス王子と対峙していた。まさしく暴れる闘牛か、誇り高い獅子のような風体であった。
腰にまきつけられた腕に力がこもっていく。ルイのことを放すまいと、王子の方は躍起になっている。
「でも、子どもみたいでちょっと格好悪いです」
「う……うん。俺もさっき思い返してみたんだ。自分でも、何してたんだろうって」
王太子の挑発にまんまと乗っかって、怒りに身を任せていた。平民なら極刑でもおかしくない、レオポルドはおかしな挙動を繰り返していたことだ。挙句の果てには剣の鞘を抜こうかという気迫を浮かべて、ルイが止めなければあわや大惨事であった。
「もう少し冷静になってください。あんまり大胆なことをされると、こちらも困ってしまいます」
「ああ。わかっている……」
言葉に気持ちがこもっていない。ルイは話し相手を疑いながらも、次に自分のすべきことに思考を移していた。
レオポルドの傷を処置しなければいけない、大切な尊い顔をどうにか保つために。なのに当人はルイのことを決して自由にしたくないらしく、すがりつくようにしていた。
腰にあてた手の温もりが、ほのかに熱を帯びていく。ルイは掴まれた力の強さに、やや驚きの声を漏らしていた。
レオポルドは自分を心から思ってくれている、それが今回は王太子を攻め立てる結果となった。ルイは当然手放しで喜べるはずもなく、微妙な面持ちで受け止めるのが関の山だった。
「絶対に嫌だ」
「え?」
「離縁なんて嫌だ。無理だ。絶対にルイと離れるわけにいかないんだ……」
レオポルドを自室まで支え導いている時、ふと彼がそうつぶやいてくる。後悔でも兄への詫びでもなく、真っ先にそんなことを口に出す。王宮での禍根など、ちっとも気にしていない様子だった。
「私はレオ様のそばから離れる気はありませんよ?」
「わかっているよ、わかっているけど」
ルイは呆れ笑い、レオポルドの肩を一回小突いてやった。自分が引き起こした物種だというのに、ずいぶんと悠長にいられることだ。執着心はいつも通り。いや、いつもよりも感情がだいぶ重たいか。
「想像しただけで無理だな。頭がおかしくなる」
「なにを、想像したんですか?」
「ルイが近くにいなくなった時のことだ。学校にいた頃に逆戻りとか、少し考えただけでも耐えられないのに。兄上は、俺に、それを強要してきたんだ」
頭に手を置いて、レオポルドは苦しそうに笑みを張りつけていた。
今日は知らなくてもいいことを、ルイもほぼぜんぶ知り尽くした。目の前の彼とマルクスのせいでだ。だから訊かずにはいられなかった。自分とその夫は、これからどうなってしまうのか。同じように王宮に住み続けることが出来るのか。
「レオ様は、きちんと考えがあって私のことを気にかけてくれていたんですね」
「どういうことだ」
「私が王宮に居続けられるように、あれだけの量の手紙を送ってくれていたのでしょう?兄君と王妃様の意向に逆らってまで」
「……」
よくよく振り返ってみれば、レオポルドの異常なほどの執着も、熱のこもった愛情表現も、周りに向けたアピールだったのかもしれない。ルイは現状を深読みしすぎて、今はそうとしか思えなかった。
廊下の終着点に行き着き、彼らは部屋に入っていった。中では早くも従者が周りのものを整えており、怪我の細かい処置をどうぞと言わんばかりであった。
レオポルドはルイに預けていた片腕を解き、そのまま相手の全身を後ろから抱きすくめていた。
「レオ様?」
「そんな打算があったわけじゃない。ただ、お前のことが好きだったんだ」
ひどく感傷的な声がする。ルイのことを見下ろしている相手は、頬を腫らし、顔中を真っ赤に染め上げている。微熱でもありそうな顔の色だった。
「周りのことは関係ない。ぜんぶ俺がそうしたかっただけだ」
「あぁ……そう、そうだったんですね」
「信じられないか?俺の言葉では足りないだろうか」
ふるふるとルイはかぶりを振った。彼の奔放さは今に始まったことではない。誰の手にも負えず、幼いころから王宮の者を困らせていた。何でもかんでも独断する癖があって、現に彼はそのような性格でマルクス王子と対峙していた。まさしく暴れる闘牛か、誇り高い獅子のような風体であった。
腰にまきつけられた腕に力がこもっていく。ルイのことを放すまいと、王子の方は躍起になっている。
「でも、子どもみたいでちょっと格好悪いです」
「う……うん。俺もさっき思い返してみたんだ。自分でも、何してたんだろうって」
王太子の挑発にまんまと乗っかって、怒りに身を任せていた。平民なら極刑でもおかしくない、レオポルドはおかしな挙動を繰り返していたことだ。挙句の果てには剣の鞘を抜こうかという気迫を浮かべて、ルイが止めなければあわや大惨事であった。
「もう少し冷静になってください。あんまり大胆なことをされると、こちらも困ってしまいます」
「ああ。わかっている……」
言葉に気持ちがこもっていない。ルイは話し相手を疑いながらも、次に自分のすべきことに思考を移していた。
レオポルドの傷を処置しなければいけない、大切な尊い顔をどうにか保つために。なのに当人はルイのことを決して自由にしたくないらしく、すがりつくようにしていた。
腰にあてた手の温もりが、ほのかに熱を帯びていく。ルイは掴まれた力の強さに、やや驚きの声を漏らしていた。
200
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる