ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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59かっこ悪いあなたが好き②

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 兄のまえでは敬意を払えとか、無茶をするなと叱りの言葉をルイは立て続けに夫にしていた。しかし相手の気持ちがはっきりするごとに難しい感情に囚われていく。
 レオポルドは自分を心から思ってくれている、それが今回は王太子を攻め立てる結果となった。ルイは当然手放しで喜べるはずもなく、微妙な面持ちで受け止めるのが関の山だった。

「絶対に嫌だ」

「え?」

「離縁なんて嫌だ。無理だ。絶対にルイと離れるわけにいかないんだ……」

 レオポルドを自室まで支え導いている時、ふと彼がそうつぶやいてくる。後悔でも兄への詫びでもなく、真っ先にそんなことを口に出す。王宮での禍根など、ちっとも気にしていない様子だった。

「私はレオ様のそばから離れる気はありませんよ?」

「わかっているよ、わかっているけど」

 ルイは呆れ笑い、レオポルドの肩を一回小突いてやった。自分が引き起こした物種だというのに、ずいぶんと悠長にいられることだ。執着心はいつも通り。いや、いつもよりも感情がだいぶ重たいか。

「想像しただけで無理だな。頭がおかしくなる」

「なにを、想像したんですか?」

「ルイが近くにいなくなった時のことだ。学校にいた頃に逆戻りとか、少し考えただけでも耐えられないのに。兄上は、俺に、それを強要してきたんだ」

 頭に手を置いて、レオポルドは苦しそうに笑みを張りつけていた。

 今日は知らなくてもいいことを、ルイもほぼぜんぶ知り尽くした。目の前の彼とマルクスのせいでだ。だから訊かずにはいられなかった。自分とその夫は、これからどうなってしまうのか。同じように王宮に住み続けることが出来るのか。

「レオ様は、きちんと考えがあって私のことを気にかけてくれていたんですね」

「どういうことだ」

「私が王宮に居続けられるように、あれだけの量の手紙を送ってくれていたのでしょう?兄君と王妃様の意向に逆らってまで」

「……」

 よくよく振り返ってみれば、レオポルドの異常なほどの執着も、熱のこもった愛情表現も、周りに向けたアピールだったのかもしれない。ルイは現状を深読みしすぎて、今はそうとしか思えなかった。

 廊下の終着点に行き着き、彼らは部屋に入っていった。中では早くも従者が周りのものを整えており、怪我の細かい処置をどうぞと言わんばかりであった。
 レオポルドはルイに預けていた片腕を解き、そのまま相手の全身を後ろから抱きすくめていた。

「レオ様?」

「そんな打算があったわけじゃない。ただ、お前のことが好きだったんだ」

 ひどく感傷的な声がする。ルイのことを見下ろしている相手は、頬を腫らし、顔中を真っ赤に染め上げている。微熱でもありそうな顔の色だった。

「周りのことは関係ない。ぜんぶ俺がそうしたかっただけだ」

「あぁ……そう、そうだったんですね」

「信じられないか?俺の言葉では足りないだろうか」

 ふるふるとルイはかぶりを振った。彼の奔放さは今に始まったことではない。誰の手にも負えず、幼いころから王宮の者を困らせていた。何でもかんでも独断する癖があって、現に彼はそのような性格でマルクス王子と対峙していた。まさしく暴れる闘牛か、誇り高い獅子のような風体であった。

 腰にまきつけられた腕に力がこもっていく。ルイのことを放すまいと、王子の方は躍起になっている。

「でも、子どもみたいでちょっと格好悪いです」

「う……うん。俺もさっき思い返してみたんだ。自分でも、何してたんだろうって」

 王太子の挑発にまんまと乗っかって、怒りに身を任せていた。平民なら極刑でもおかしくない、レオポルドはおかしな挙動を繰り返していたことだ。挙句の果てには剣の鞘を抜こうかという気迫を浮かべて、ルイが止めなければあわや大惨事であった。

「もう少し冷静になってください。あんまり大胆なことをされると、こちらも困ってしまいます」

「ああ。わかっている……」

 言葉に気持ちがこもっていない。ルイは話し相手を疑いながらも、次に自分のすべきことに思考を移していた。
 レオポルドの傷を処置しなければいけない、大切な尊い顔をどうにか保つために。なのに当人はルイのことを決して自由にしたくないらしく、すがりつくようにしていた。
 腰にあてた手の温もりが、ほのかに熱を帯びていく。ルイは掴まれた力の強さに、やや驚きの声を漏らしていた。
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