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王宮で開かれた盛大な舞踏会の夜。今日の主役は私だ。
煌めくシャンデリアが天井を埋め尽くし、所々に散りばめられた金銀の装飾が光を反射している。
貴族達の上質なシルクやベルベットの衣装が舞踏会場を彩り、まるで星々が地上に降りてきたようだと思う。
その中で、王太子であるランベルト殿下は、人々の視線を一身に浴び、堂々とした姿で立っていた。
そして、私は彼の傍らに寄り添うのだ。
「ビーチェ」
ランベルトが優しく私を呼んだ。微笑んでみせると、彼はうっとりとした様相で私を見つめる。
私は差し出された手を取って、軽やかに舞踏会場を歩く。
その様子を見た人々の驚く様子が面白くてたまらない。チラチラと私を見ては、ひそひそと囁き合っているのが、視界の端に映った。
社交界の話のネタにするつもりなのか、嘲笑を浮かべている人もいるけれど、これくらいで満足してもらっては困る。
今日は、ランベルトの婚約者であるニナもいるから。
公爵家の令嬢にして、聡明で美しく、穏やかな人格者。
けれど、彼女はこれから“悪役令嬢”になる。私が、そう仕立て上げるのだ。
準備はすでに整えてある。
ニナの前で、わざとランベルトに纏わりついて、二人の仲を険悪にさせた。
それに、彼女を悪人にするためにわざわざ自作自演だってしたのだ。
物を隠された上に壊された。
わざと怪我をさせられた。
悪口を吹聴された。
泣きながらあることないこと訴えかけたら、ランベルトは私の嘘をあっさりと信じてくれた。
彼はニナを一方的に責め立てて、その度に彼女と大喧嘩をしていたのだ。
━━ランベルトの純粋さには感謝するわ。
彼は私の下心になんて、気が付いていない。
こうやって微笑みながら、ニナを蹴り落とすことを考えているなど、夢にも思っていないだろう。
人々の視線が、さらに私たち二人へと集中する。
これからのことを思うと、鼓動が高鳴り、頬に熱が走る。けれど、私は平静を装った。
━━大丈夫。全て計画通りに事は進んでいく。
私の胸の奥で小さく自分に語りかけると、柔らかな笑みをランベルトに向けた。
彼は私の目をじっと見つめながら頷くと、静かに息を吸った。
「皆に伝えたいことがある」
彼の声は、しっかりと会場中に響き渡った。
その瞬間、何事かと会場は静まり返る。音楽隊は、根回しした通り、音楽を止めてくれた。おかげで、これから放たれる彼の言葉の一つ一つが、鮮やかに刻まれるだろう。
「俺は長年の婚約者、ニナとの縁をここに断つ! そして、真実の愛を教えてくれたビーチェこそ、我が伴侶に相応しいのだと、ここに宣言をする」
言い終わるや否や、ざわめきが一斉に広がった。
貴族たちの目が、私とニナへ交互に向く。
息を呑む音、囁き声、驚きの視線。その全てが、私の胸に心地よく響いた。
ニナは動揺を見せず、真っ直ぐに私を見た。その瞳には、怯えも怒りもなく、ただ静かに私を非難しているようだった。
「ここまで愚かだとは思いませんでしたわ。私はあなた達の『真実の愛』とやらに付き合うつもりは毛頭ありませんの。これ以上、あなた様と関わり合うのは、こちらから願い下げます」
彼女はそう言うなり、踵を返して、会場を後にした。
その背中を見送りながら、私は殿下の腕の中に身を預けた。
「ランベルトさまっ」
甘ったるい声で彼を呼ぶと、彼は私に向かって優しく微笑んでくれた。
私はそのことに、とても満足した。
彼の視界には、もうニナなんて映らない。彼は私だけ見ていればいい。
そう思いながら、私は彼にしがみつく。
すると、彼の細く柔らかな指が私の手に絡みついてきた。
私は、彼に抱きしめられながら微笑んだ。
━━上手くいった。全てが完璧よ。
彼から伝わる温もりと鼓動の早さ。それを感じながら、私は腹の底で純粋な彼を笑い、哀れなニナに同情を寄せた。
煌めくシャンデリアが天井を埋め尽くし、所々に散りばめられた金銀の装飾が光を反射している。
貴族達の上質なシルクやベルベットの衣装が舞踏会場を彩り、まるで星々が地上に降りてきたようだと思う。
その中で、王太子であるランベルト殿下は、人々の視線を一身に浴び、堂々とした姿で立っていた。
そして、私は彼の傍らに寄り添うのだ。
「ビーチェ」
ランベルトが優しく私を呼んだ。微笑んでみせると、彼はうっとりとした様相で私を見つめる。
私は差し出された手を取って、軽やかに舞踏会場を歩く。
その様子を見た人々の驚く様子が面白くてたまらない。チラチラと私を見ては、ひそひそと囁き合っているのが、視界の端に映った。
社交界の話のネタにするつもりなのか、嘲笑を浮かべている人もいるけれど、これくらいで満足してもらっては困る。
今日は、ランベルトの婚約者であるニナもいるから。
公爵家の令嬢にして、聡明で美しく、穏やかな人格者。
けれど、彼女はこれから“悪役令嬢”になる。私が、そう仕立て上げるのだ。
準備はすでに整えてある。
ニナの前で、わざとランベルトに纏わりついて、二人の仲を険悪にさせた。
それに、彼女を悪人にするためにわざわざ自作自演だってしたのだ。
物を隠された上に壊された。
わざと怪我をさせられた。
悪口を吹聴された。
泣きながらあることないこと訴えかけたら、ランベルトは私の嘘をあっさりと信じてくれた。
彼はニナを一方的に責め立てて、その度に彼女と大喧嘩をしていたのだ。
━━ランベルトの純粋さには感謝するわ。
彼は私の下心になんて、気が付いていない。
こうやって微笑みながら、ニナを蹴り落とすことを考えているなど、夢にも思っていないだろう。
人々の視線が、さらに私たち二人へと集中する。
これからのことを思うと、鼓動が高鳴り、頬に熱が走る。けれど、私は平静を装った。
━━大丈夫。全て計画通りに事は進んでいく。
私の胸の奥で小さく自分に語りかけると、柔らかな笑みをランベルトに向けた。
彼は私の目をじっと見つめながら頷くと、静かに息を吸った。
「皆に伝えたいことがある」
彼の声は、しっかりと会場中に響き渡った。
その瞬間、何事かと会場は静まり返る。音楽隊は、根回しした通り、音楽を止めてくれた。おかげで、これから放たれる彼の言葉の一つ一つが、鮮やかに刻まれるだろう。
「俺は長年の婚約者、ニナとの縁をここに断つ! そして、真実の愛を教えてくれたビーチェこそ、我が伴侶に相応しいのだと、ここに宣言をする」
言い終わるや否や、ざわめきが一斉に広がった。
貴族たちの目が、私とニナへ交互に向く。
息を呑む音、囁き声、驚きの視線。その全てが、私の胸に心地よく響いた。
ニナは動揺を見せず、真っ直ぐに私を見た。その瞳には、怯えも怒りもなく、ただ静かに私を非難しているようだった。
「ここまで愚かだとは思いませんでしたわ。私はあなた達の『真実の愛』とやらに付き合うつもりは毛頭ありませんの。これ以上、あなた様と関わり合うのは、こちらから願い下げます」
彼女はそう言うなり、踵を返して、会場を後にした。
その背中を見送りながら、私は殿下の腕の中に身を預けた。
「ランベルトさまっ」
甘ったるい声で彼を呼ぶと、彼は私に向かって優しく微笑んでくれた。
私はそのことに、とても満足した。
彼の視界には、もうニナなんて映らない。彼は私だけ見ていればいい。
そう思いながら、私は彼にしがみつく。
すると、彼の細く柔らかな指が私の手に絡みついてきた。
私は、彼に抱きしめられながら微笑んだ。
━━上手くいった。全てが完璧よ。
彼から伝わる温もりと鼓動の早さ。それを感じながら、私は腹の底で純粋な彼を笑い、哀れなニナに同情を寄せた。
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