紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

文字の大きさ
11 / 23

11 母の遺産

しおりを挟む
「お嬢、ご当主様がお呼びだよ」

 私の十六歳の誕生日が間近に迫ったある日、私は珍しくお父様に呼び出された。

「そのままの格好じゃ不味いから、これに着替えてからお行き」

 使用人は私にそう言うと、鮮やかな着物を渡してきた。
 その着物は以前、真央が地味だからいらないと言って奥に仕舞い込んでいた着物だった。

 今の私の箪笥には、継ぎ接ぎだらけで裾が擦り切れたような着物しか無い。だから真央のお下がりの着物でも、私にはとても贅沢品に感じる。

(こんな着物を着せて私を呼ぶなんて……一体どうしたんだろう……?)

 散々私を放置していたお父様が、突然私を呼び出すなんて只事じゃないと思う。

(……もしかすると、私の成人と関係があるんじゃ……)

 私は以前怜央が言っていた話を思い出す。
 怜央は私を自分のものにしたがっていた。お父様が成人するまでは駄目だと抑えていたみたいだけれど、もうすぐ私は十六歳になってしまう。

 なら、この呼び出しは私の成人に関するものの可能性が、すごく高い。

「お嬢、準備はできたのかい? 早くしないとあたしが怒られちまうんだから、さっさと行っておいで!」

「は、はい、ただいま!」

 私は逃げ出したい気持ちをぐっと抑え、急いで身支度を整えた。

 そして大広間へ向かうと、襖の前で「琴葉です。お呼びでしょうか」と声を掛けた。

「入りなさい」

「失礼します」

 お父様の声がしたので襖を開くと、そこには義母と双子たちもいた。

 いつもなら遅いだの何だのと罵声を浴びせられるはずなのに、今日はやけに大人しいな、と思っていると、見知らぬ男性がいることに気が付いた。

 私が誰だろう、と思いながら座ると、お父様が男性を紹介してくれた。

「こちらは陰陽省専任の弁護士である西園寺様だ。ご挨拶なさい」

「……はい。初めまして、西園寺様。私は天花寺琴葉と申します」

 私は西園寺さんに向かって、両手をついてお辞儀する。

「私は西園寺俊成と申します。どうぞよろしく。……ふぅむ。琴葉さんは柚葉さんにとても良く似ていらっしゃいますね。もう少し大人になればさぞや美しい女性になられるでしょう。将来がとても楽しみです」

 西園寺様はそう言うと、私を懐かしそうな目で見た。
 柚葉はお母様の名前で、お母様のことを知っている人と会うのは今回が初めてだった。
 私はこの人が知っているお母様のお話があるのなら、是が非でも聞かせて欲しいと密かに思う。

「お、恐れ入ります……」

 久しぶりに人から好意的な目で見られた私は、つい恥ずかしくなる。
 それに西園寺様は髪が真っ白な私を見ても、全然表情が変わらなかった。私を一人の人間だと……ただの人間なんだと認めてくれているようで、そのことが今はとても嬉しい。

「今日私がこの天花寺家に来たのはね、前当主である柚葉さんから預かっていた遺言書を公開するためなのですよ」

「ええっ?! 遺言書?!」

 西園寺様の言葉に驚いたのはお父様だった。その様子に、お父様は遺言書の存在を知らなかったのだとわかる。

「はい。柚葉さんと私で正式な手順を踏んで作成した遺言書です。確実性が高く最も無効になりにくい遺言方式ですから、どうぞご安心下さい」

 驚くお父様に西園寺様はにっこりと微笑んだ。そんな西園寺様に、お父様は複雑な表情をしている。

「では、皆さん揃われたようですし、これから柚葉さんの遺言をお伝えします」

 そうして西園寺様が公開した遺言の内容は、この屋敷を含んだ広大な土地と夜見ノ森周辺の不動産、金禄公債や株券などの金融資産、さらには蔵にある代々の当主が集めた骨董品に、天花寺家の由緒ある品々を、次期当主である私が十六歳になった時に譲る、という内容だった。

「え……っ?! 今の当主は私です!! それなのに、琴葉に全てを譲るということですか?!」

 遺言の内容に驚いたお父様が声をあげる。義母や双子たちも動揺を隠せないようで、顔が真っ青になっている。

「はい。柚葉さんは天花寺家の次期当主に琴葉さんを指名していらっしゃいますしね。というか、そもそも天花寺家は女系ですよね? 代々の当主はその家の娘だと決められているはずですが」

「そ、そんな馬鹿な……っ?! で、では俺は、一体……?!」

「父君は琴葉さんが成人するまでの代理当主ですね。琴葉さんが成人した時点でその任は解かれることになっています」

「な……っ?!」

 西園寺さんの言葉にお父様が絶句する。
 お母様が亡くなってからずっと、お父様は義母と一緒に天花寺家の財産を好き勝手に使い込んでいた。
 でもこれから私が当主となれば、もう自由に使えなくなってしまうのだ。
 ショックを受けるのは当たり前だと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

処理中です...