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一話
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「この化け物」
そう罵られ、石を投げられて私は故郷から身一つで追い出された。
私はただ、傷つきいまにも息絶えようとしている恋人を助けたかった。それだけだったのに。
私は王都から離れた小さな田舎町で、仲の良い夫婦のもとに生まれた。裕福ではないながらも幸せな生活を送っていたが、そんな日々は両親の突然の死によって終わりを迎えた。二人が残してくれたお金はそんなに多くなく、生きていくためのお金を稼ぐために街の定食屋で働き始めた。両親の死を嘆く暇もなかった。
昼も夜も必死に働き続ける毎日の中、私は彼、ハドリーに出会った。客としてきていた彼は働いている私に一目惚れをしたらしく、毎日のように店に通ってはくどいてきた。最初のうちは戸惑っていた私だったが、彼の熱意と誠実さに打たれ、彼と付き合い始めた。両親を失ってから初めて幸せだと思える日々。そんないつまでも続けばいいと願っていた日常は、しかし、ある日彼が真剣な顔をして告げてきた言葉をきっかけに崩れ落ちた。
「明日から、ドラゴンの討伐に向かおうと思う」
──その言葉を聞いた瞬間、衝撃のあまり一瞬息を止めた。
ハドリーは依頼を受けて魔物を狩り、依頼料やその毛皮や牙を売ったお金で生計を立てる、いわゆる魔物ハンターを生業としていた。なので魔物の討伐に向かうことは何も珍しいことではなかったのだが、ドラゴンの討伐となると話は違う。
通常魔物ハンターが討伐の対象とするのは、普通の動物とそれほど大きさの変わらない、姿形も狼や鳥などの野生動物に似た魔物ばかりだ。だがドラゴンはそうした魔物とは何もかもが違う。体長は小型のものでも成人男性の2倍を軽く超え、凶暴で、鋭い牙を持ち炎を吐くので殺傷能力も桁違いである。ドラゴンを狩るつもりが返り討ちにあって命を落とすハンターの話など聞き飽きるほどに聞いている。
暖房の効いた私の部屋で彼が夕飯を食べている穏やかな時間。そんな時に放たれた、予想もしていない言葉だった。
「嫌だ、そんな……どうして? そんなことしなくても、今まで通り仕事をするだけで十分じゃない。どうしてそんな急に! あなたの身に何かあったら!」
「ごめん、でももう決めたことなんだ」
「どうして……?」
彼を失ってしまうかもしれないという恐怖と悲しみで、ボロボロと涙が溢れ出した。
彼は私の目元を指で拭いながら、宥めるように言った。
「大丈夫だよ、僕一人で向かうわけじゃないし、信頼できる仲間も一緒なんだ。その中にはドラゴン討伐の経験者もいる。それに今回討伐に行くのは小型の種類だし、大型のものほど危険じゃない。心配しないで」
「心配するに決まってる。行かないでほしい……」
私の言葉に、彼は「ごめんね、それはできない」と困ったように笑った。
「討伐が成功して報酬が入ったら、ジョアンに伝えたいことがあるんだ。絶対、無事に成功させてみせるから、待っててほしい」
その時私は、両親が死んだ時のことを思い出していた。
遠い町の親戚に会うため二人で隣町に向かった両親。すぐに帰ってくると言っていたのに、二人は戻ってこなかった。この街に帰る途中で盗賊に襲われ、そのまま命を落としたのだという。
もうあんな思いをしたくなくて、どうにか引き止められないかと思ったけれど、彼の決意はどうしようもなく硬そうで、私の言葉で曲げられるとは思えなかった。それなら、私にできるのは彼の無事を祈ることだけだ。
「わかった。本当は行ってほしくないけど、止められそうにもないし……。その代わり、絶対無事で戻ってきてね。待ってるから」
また涙が出そうなのを隠したくて、ハドリーにぎゅっと抱きつくと、彼も抱きしめ返してくれた。
彼の、魔物と戦うために鍛え上げられた身体。その体温を感じながら、私はこの温もりが一生失われないことを願った。
そう罵られ、石を投げられて私は故郷から身一つで追い出された。
私はただ、傷つきいまにも息絶えようとしている恋人を助けたかった。それだけだったのに。
私は王都から離れた小さな田舎町で、仲の良い夫婦のもとに生まれた。裕福ではないながらも幸せな生活を送っていたが、そんな日々は両親の突然の死によって終わりを迎えた。二人が残してくれたお金はそんなに多くなく、生きていくためのお金を稼ぐために街の定食屋で働き始めた。両親の死を嘆く暇もなかった。
昼も夜も必死に働き続ける毎日の中、私は彼、ハドリーに出会った。客としてきていた彼は働いている私に一目惚れをしたらしく、毎日のように店に通ってはくどいてきた。最初のうちは戸惑っていた私だったが、彼の熱意と誠実さに打たれ、彼と付き合い始めた。両親を失ってから初めて幸せだと思える日々。そんないつまでも続けばいいと願っていた日常は、しかし、ある日彼が真剣な顔をして告げてきた言葉をきっかけに崩れ落ちた。
「明日から、ドラゴンの討伐に向かおうと思う」
──その言葉を聞いた瞬間、衝撃のあまり一瞬息を止めた。
ハドリーは依頼を受けて魔物を狩り、依頼料やその毛皮や牙を売ったお金で生計を立てる、いわゆる魔物ハンターを生業としていた。なので魔物の討伐に向かうことは何も珍しいことではなかったのだが、ドラゴンの討伐となると話は違う。
通常魔物ハンターが討伐の対象とするのは、普通の動物とそれほど大きさの変わらない、姿形も狼や鳥などの野生動物に似た魔物ばかりだ。だがドラゴンはそうした魔物とは何もかもが違う。体長は小型のものでも成人男性の2倍を軽く超え、凶暴で、鋭い牙を持ち炎を吐くので殺傷能力も桁違いである。ドラゴンを狩るつもりが返り討ちにあって命を落とすハンターの話など聞き飽きるほどに聞いている。
暖房の効いた私の部屋で彼が夕飯を食べている穏やかな時間。そんな時に放たれた、予想もしていない言葉だった。
「嫌だ、そんな……どうして? そんなことしなくても、今まで通り仕事をするだけで十分じゃない。どうしてそんな急に! あなたの身に何かあったら!」
「ごめん、でももう決めたことなんだ」
「どうして……?」
彼を失ってしまうかもしれないという恐怖と悲しみで、ボロボロと涙が溢れ出した。
彼は私の目元を指で拭いながら、宥めるように言った。
「大丈夫だよ、僕一人で向かうわけじゃないし、信頼できる仲間も一緒なんだ。その中にはドラゴン討伐の経験者もいる。それに今回討伐に行くのは小型の種類だし、大型のものほど危険じゃない。心配しないで」
「心配するに決まってる。行かないでほしい……」
私の言葉に、彼は「ごめんね、それはできない」と困ったように笑った。
「討伐が成功して報酬が入ったら、ジョアンに伝えたいことがあるんだ。絶対、無事に成功させてみせるから、待っててほしい」
その時私は、両親が死んだ時のことを思い出していた。
遠い町の親戚に会うため二人で隣町に向かった両親。すぐに帰ってくると言っていたのに、二人は戻ってこなかった。この街に帰る途中で盗賊に襲われ、そのまま命を落としたのだという。
もうあんな思いをしたくなくて、どうにか引き止められないかと思ったけれど、彼の決意はどうしようもなく硬そうで、私の言葉で曲げられるとは思えなかった。それなら、私にできるのは彼の無事を祈ることだけだ。
「わかった。本当は行ってほしくないけど、止められそうにもないし……。その代わり、絶対無事で戻ってきてね。待ってるから」
また涙が出そうなのを隠したくて、ハドリーにぎゅっと抱きつくと、彼も抱きしめ返してくれた。
彼の、魔物と戦うために鍛え上げられた身体。その体温を感じながら、私はこの温もりが一生失われないことを願った。
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