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後日談 黛家の妊婦さん2
(155)素敵な夫 ★
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前話の途中、ショッピングセンターでの短いおまけ話。
※別サイトと一部、内容が異なります。
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七海と黛がランチを食べているのは、ショッピングセンター内のビストロだ。七海は『きのことボロネーゼ』のグラタンランチ、黛は肉ランチセットの『牛サーロインの岩塩包み焼き』を選んだ。
ペロリと前菜のサラダとスープ、メインの肉を平らげてしまった黛がランチセットに付いているパンを齧りながら如何にも食べたりたりなそうな様子だったので、七海は自分のグラタンを半分融通した。既視感を感じたのは気のせいでは無い。つい先日出張で北海道からやって来た兄に、キッシュを分けたばかりだった。
「女性客がメインのカフェだから男の人には少ないよね。もう少し何か頼もうか?」
「いや、それよりパン買って帰ろうぜ。これ結構イケる」
「あ、それ嬉しいな。最近一回にちょっとしか食べられないから、直ぐにお腹がすくのよね」
「なら、パン買って本屋寄って帰るか。あ、ヨガ教室も見て行くのか?」
「入口の様子だけね。スマホでマタニティヨガのクラスがあるのはチェックしたんだけど……雰囲気が合うかどうか、チラッとお店を覗いてみようかなって」
「じゃあ行くか」
黛がスッと立ち上がり、ソファ席に座る七海の横に移動すると手を差し出した。七海が手をそっと預けると、もう一方の手を腰に回し力強く立ち上がる動作をサポートしてくれる。女性客ばかりが多い場所でのスマートな立ち居振る舞いは流石に目立つ。しかも今日の黛は素敵仕様なのである。最近は忙しさのあまり髭面&ボサボサ頭でいる事が多く、プライベートでこのようにちゃんとしているのは久し振りのことだった。キラキラしたモデルか俳優みたいな見た目の黛は、カフェに足を踏み入れた時からチラチラとあちらこちらのテーブルから注目を浴びていた。
黛のイケメン行動にはすっかり慣れてしまったはずの七海ではあるが、やはりこういう時は少し恥ずかしい。周りを見ないようにそっと視線を遠くに飛ばした。
レジに行く前にパンを選ぼうと思い、トレーに手を伸ばすと当然のように黛にそれを奪われる。
妊娠してから特に、黛は過保護なくらい荷物を奪うようになってしまった。しかし最近は特に、七海は有難くお礼を言って甘える事にしている。大きいお腹を抱えているとトングでパンを取るために屈むことも一苦労だったりする。こういう時七海は実感するのだ、紳士的な態度が初期設定の『素敵な夫』を持てて自分って幸せ者だなぁ、と。
「どれが良い?」
「えーと、ね……ソーセージのパン。あと食パンかバゲット。どっちが良いかな?」
「俺は食パン!トーストが食べたい」
「じゃあ食パンお願いします」
「了解」
それから清算のためにパンの乗ったトレーを注文票と一緒に提出しようと振り返った所で、ちょうど後ろに立っていた相手と顔を見合わせることになる。それは見覚えのある顔だった。
「……あっ!こんにちは!」
「あっ……こんにちは」
それは妊婦検診で会ったクリニックの若い看護師だった。彼女は七海の膝で眠りこけてしまった黛を見て優しく声を掛けてくれたのだ。
「体調にお変わりありませんか?」
「はい、順調です」
「それは良かったです」
ニコリと笑顔を浮かべる看護師に挨拶をさせようと、七海はトレーを持って主人を待つ犬のように立っている黛を振り返った。しかし犬と言っても愛想の良い小型犬では無い。ちょうど飼い主にしか懐かない気位の高い猟犬と言ったところだろうか。だから黛は七海の知合いに、特に知らない女性には自分から愛想良く話し掛けるなどと言うことは無いのだ。
「黛君、検診の時の看護師さんだよ」
すると飼い主に号令を受けた猟犬のように、黛はやっとこちらを向いて、儀礼的な笑顔を見せた。
「ああ、いつも妻がお世話になっています」
瞬間的にポッと頬を染めた看護師が、その後ハッと息を飲んだ。そして戸惑うように声を上げる。
「えっ……え?」
彼女の怪訝な様子に七海は首を傾げる。黛に見惚れる女性は多いが、このように戸惑われるとは思わなかったのだ。それに彼女は一度黛と顔を合わせているのだ。
「ええと……こちらが旦那さん?ですか……?」
「あっ……」
そこでやっと看護師の戸惑いに見当が付いた。七海にも覚えがある……付き合う以前七海のマンションの前に待ち伏せしていた怪しい無精髭の男を、てっきり不審者だと思って避けようとしたことがあったのだ。
「そうです!ごめんなさい、あの時は忙し過ぎて身なりに構えなくて……この人、あの時と同じ人間なんです……」
「えぇっ!おなっ……じ??」
目を丸くして看護師は、今度こそマジマジと、一瞬だけ見せた笑顔を引っ込めて愛想の無い様子で立っている黛のキラキラしい顔を遠慮なく検分し始めた。
やはり、別人だと思っていたらしい。
「あっ……その、こちらこそ申し訳ありません。失礼な態度を……」
「いえいえ、そんなことは……あっじゃあ、私達はこれで失礼します。また検診に伺わせていただきますね。よろしくお願いします」
「あ、はい……」
申し訳なさのあまり、七海はペコペコ頭を下げつつ早々にその場を後にした。黛を従えてレジで清算を済ませ、チラッと振り返ると看護師と連れの女性がまだこちらを見ていたらしく、パチッと視線が合ってしまった。
慌てる女性達にえへらっと笑って会釈をして、七海は荷物を抱えた黛を促してカフェを後にしたのだった。
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『(144)妊婦検診』の裏話でした。
黛は元来は見た目を気にしないタイプなのですが、仕事や学校の公ではちゃんとしています。これもイケメン行動と一緒で玲子からの指導の賜物です。だから忙し過ぎて疲れている時は、油断してボサボサになることも……。
お読みいただき、ありがとうございました!
※別サイトと一部、内容が異なります。
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七海と黛がランチを食べているのは、ショッピングセンター内のビストロだ。七海は『きのことボロネーゼ』のグラタンランチ、黛は肉ランチセットの『牛サーロインの岩塩包み焼き』を選んだ。
ペロリと前菜のサラダとスープ、メインの肉を平らげてしまった黛がランチセットに付いているパンを齧りながら如何にも食べたりたりなそうな様子だったので、七海は自分のグラタンを半分融通した。既視感を感じたのは気のせいでは無い。つい先日出張で北海道からやって来た兄に、キッシュを分けたばかりだった。
「女性客がメインのカフェだから男の人には少ないよね。もう少し何か頼もうか?」
「いや、それよりパン買って帰ろうぜ。これ結構イケる」
「あ、それ嬉しいな。最近一回にちょっとしか食べられないから、直ぐにお腹がすくのよね」
「なら、パン買って本屋寄って帰るか。あ、ヨガ教室も見て行くのか?」
「入口の様子だけね。スマホでマタニティヨガのクラスがあるのはチェックしたんだけど……雰囲気が合うかどうか、チラッとお店を覗いてみようかなって」
「じゃあ行くか」
黛がスッと立ち上がり、ソファ席に座る七海の横に移動すると手を差し出した。七海が手をそっと預けると、もう一方の手を腰に回し力強く立ち上がる動作をサポートしてくれる。女性客ばかりが多い場所でのスマートな立ち居振る舞いは流石に目立つ。しかも今日の黛は素敵仕様なのである。最近は忙しさのあまり髭面&ボサボサ頭でいる事が多く、プライベートでこのようにちゃんとしているのは久し振りのことだった。キラキラしたモデルか俳優みたいな見た目の黛は、カフェに足を踏み入れた時からチラチラとあちらこちらのテーブルから注目を浴びていた。
黛のイケメン行動にはすっかり慣れてしまったはずの七海ではあるが、やはりこういう時は少し恥ずかしい。周りを見ないようにそっと視線を遠くに飛ばした。
レジに行く前にパンを選ぼうと思い、トレーに手を伸ばすと当然のように黛にそれを奪われる。
妊娠してから特に、黛は過保護なくらい荷物を奪うようになってしまった。しかし最近は特に、七海は有難くお礼を言って甘える事にしている。大きいお腹を抱えているとトングでパンを取るために屈むことも一苦労だったりする。こういう時七海は実感するのだ、紳士的な態度が初期設定の『素敵な夫』を持てて自分って幸せ者だなぁ、と。
「どれが良い?」
「えーと、ね……ソーセージのパン。あと食パンかバゲット。どっちが良いかな?」
「俺は食パン!トーストが食べたい」
「じゃあ食パンお願いします」
「了解」
それから清算のためにパンの乗ったトレーを注文票と一緒に提出しようと振り返った所で、ちょうど後ろに立っていた相手と顔を見合わせることになる。それは見覚えのある顔だった。
「……あっ!こんにちは!」
「あっ……こんにちは」
それは妊婦検診で会ったクリニックの若い看護師だった。彼女は七海の膝で眠りこけてしまった黛を見て優しく声を掛けてくれたのだ。
「体調にお変わりありませんか?」
「はい、順調です」
「それは良かったです」
ニコリと笑顔を浮かべる看護師に挨拶をさせようと、七海はトレーを持って主人を待つ犬のように立っている黛を振り返った。しかし犬と言っても愛想の良い小型犬では無い。ちょうど飼い主にしか懐かない気位の高い猟犬と言ったところだろうか。だから黛は七海の知合いに、特に知らない女性には自分から愛想良く話し掛けるなどと言うことは無いのだ。
「黛君、検診の時の看護師さんだよ」
すると飼い主に号令を受けた猟犬のように、黛はやっとこちらを向いて、儀礼的な笑顔を見せた。
「ああ、いつも妻がお世話になっています」
瞬間的にポッと頬を染めた看護師が、その後ハッと息を飲んだ。そして戸惑うように声を上げる。
「えっ……え?」
彼女の怪訝な様子に七海は首を傾げる。黛に見惚れる女性は多いが、このように戸惑われるとは思わなかったのだ。それに彼女は一度黛と顔を合わせているのだ。
「ええと……こちらが旦那さん?ですか……?」
「あっ……」
そこでやっと看護師の戸惑いに見当が付いた。七海にも覚えがある……付き合う以前七海のマンションの前に待ち伏せしていた怪しい無精髭の男を、てっきり不審者だと思って避けようとしたことがあったのだ。
「そうです!ごめんなさい、あの時は忙し過ぎて身なりに構えなくて……この人、あの時と同じ人間なんです……」
「えぇっ!おなっ……じ??」
目を丸くして看護師は、今度こそマジマジと、一瞬だけ見せた笑顔を引っ込めて愛想の無い様子で立っている黛のキラキラしい顔を遠慮なく検分し始めた。
やはり、別人だと思っていたらしい。
「あっ……その、こちらこそ申し訳ありません。失礼な態度を……」
「いえいえ、そんなことは……あっじゃあ、私達はこれで失礼します。また検診に伺わせていただきますね。よろしくお願いします」
「あ、はい……」
申し訳なさのあまり、七海はペコペコ頭を下げつつ早々にその場を後にした。黛を従えてレジで清算を済ませ、チラッと振り返ると看護師と連れの女性がまだこちらを見ていたらしく、パチッと視線が合ってしまった。
慌てる女性達にえへらっと笑って会釈をして、七海は荷物を抱えた黛を促してカフェを後にしたのだった。
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『(144)妊婦検診』の裏話でした。
黛は元来は見た目を気にしないタイプなのですが、仕事や学校の公ではちゃんとしています。これもイケメン行動と一緒で玲子からの指導の賜物です。だから忙し過ぎて疲れている時は、油断してボサボサになることも……。
お読みいただき、ありがとうございました!
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