ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜

いくしろ仄

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過去と現在

21. 宿屋で全回復できたら最高

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僕とソリクッカの睡眠中、森での最後の夜の間に密かに行われたフェジンとラルクラートのデュエルジャンケンの結果。
クリソッカとフェジン、僕とラルクラートが二人部屋で、アンテルーレは個室で休むことに決定。

ソリクッカとスカシタンの二人は知らないだろうけど、今までも宿で部屋を取る時には大人と成人前の子供がペアになるように、デュエルジャンケンの勝者から順にペア決めしてきたんだよね。

……それまでよりも今回は苛烈なデュエルが行われた事をここにご報告しておきましょう。
案外手のかからない僕と、めっちゃ面倒なソリクッカ。どちらと同部屋がいいか考えるまでも無いからね。

デュエルジャンケン。
騎士の間では誰もが行う物事を解決する一つの冴えたやり方。
見てて面白いよ?

片足を軸に一回転ターンしてみたり、アンダースローからのジャンプをしたり、両手を高く広げて片足立ちからの半ひねり背面出し、とかさ。
トリッキーな激しい動きで相手を翻弄する作戦なんだって。

僕から見たら小学生がめっちゃ張り切って給食のプリンをかけてジャンケンしているようにしか見えないんだけどさ、本人たちは大真面目の本気なんだ。
一体いつの何処のどの勇者が流行らせたんだろう??尊敬しちゃうよ、アホすごいなーー。


「では、シュアクーン様。おやすみなさい」

「うん。おやすみラルクラート」

同室のラルクラートに就寝の挨拶をして目を閉じる。
多分今頃ソリクッカが「寝る前には〇〇をしないと……」とかなんとかごちゃごちゃ言ってそう。そんなの森の中ではしてなかったのにねぇ?

僕はクリソッカの事は脳内からポイッと追い出して早く眠ることにした。だって明日早起きして確かめたい事があるんだもん。







柔らかな地面(お布団)でゆっくり寝た僕は予定通り早い時刻に目を覚まして一人で食堂に下りてきた。昨晩はあんなに賑やかだった食堂にまだ人はまばら。

厨房に続く出入り口近くの壁を見上げる。────あった!
やっぱりそう。

この国に僕は召喚されてきたんだ。
お金と勇者基本セットを持たされて放り出された場所。
右も左も分からずとにかく国の端っこまでやってきた僕に初めて親切にしてくれた宿。
それがここ。
まだあったんだね。お店の名前もそのまんまで女主さんに親切だったおばさんの面影が残っている。

僕が見つけたのは僕のサイン。
昨日はテンプラを食べるのに力を使い果たし、地走り鳥を食べられなかったことに意気消沈して、周りを観察する余裕があまり無かった。
壁にはびっしりと勇者のサインが掲示されている。僕のが中心よりちょっと↑くらいの場所にある。
だって僕のサインが最初なんだもん。壁に貼ったの。

多くの勇者の訪れて舌鼓を打った店。
それがここの店の売りなんだ。
あの時の僕が親切にしてくれた宿のおばさんに提案した客寄せ方法。
それをずっと代々続けていたんだね。
保存魔法や保護加工、その時々時代時代其々の保管魔法がかけられた勇者のサインが壁一面を埋め尽くしている。

偽勇者も平安時代の妖怪くらい跳梁跋扈してたけど、偽物のかけた魔法は勇者のほど強力じゃ無いから、いつかはサインが劣化して朽ちていく。
その見分けかたは気が遠くなるほど長く時間のかかる方法だけど、僕が教えたそれも覚えてて歴代の経営主がここまでやってきたようだ。
びっしり並んで貼られたサインの所々に空白があるのがその証拠だろう。

「うっわ、僕のサイン、字ぃきったねェ」

描き直したいけれど、もうどうしようも無い。
なので僕は宿を出る時に身分を明かして隣国のマルオバール王国第二王子シュアクーン一行として寄せ書きサインを一枚書いて残して行こう。……王子も舌鼓を打った美味しい料理。少しは恩返し、出来るかな?もしかしたら僕の子孫かもしれない宿屋のおかみさんにさ。


それにしても。宿屋で一晩寝て起きたら全回復なんて勇者チートでもなきゃやっぱ無理なものなんだね。





「なんでもシュアクーン様は勇者アキクーンがお気に入りなのだとか。ロンディからそう伺っていたので、この宿屋を選んだのです」

わゎ!びっくりした。
自分の大昔にしたサインを眺めていたら起きてきたフェジンから声をかけられた。え、ラルクラートが選んだわけじゃ無かったのか、ここの宿。




昨晩僕らも聞かされた、他国から訪れる客におかみさんが決まって語って聞かせる話。宿屋で代々伝えられているこんな話があるのだという。

大昔。おかみさんよりもずっとずっとずぅーーっと前の宿屋夫婦が経営する今のこの宿屋“秋の背赤熊亭”が建てられるずっと前のお話。

昔は名前が違っていただろうが、この秋の背赤熊亭では大昔から勇者だと名乗る人には食事をご馳走することにしていた。その食事と引き換えに勇者からのサインを一つもらって壁に掲げるのが決まりごととして代々受け継がれて来ていたんだ。


そこで「そーらご覧、あれだよ」と、おかみさんがたくさんのサインのある壁を指差し、客たちは興味を惹かれながらそれらを目に映す。客の視線が壁に集中するとおかみさんは続きを語りだした。

ある時。自分は勇者だと名乗る男が宿屋を訪れた。そこで当時の秋の背赤熊亭のおかみさんは彼に温かな食事を振る舞い、サインを頼んだ。しかし。そのサインは勇者のサインでは無かったんだ。
宿にはもう一人、勇者と名乗る若者が先に投宿していて、食事を食べ終えた男の書いたサインが偽物であることを暴露した。


「わたしらには良く判らないが、勇者たちは勇者たちのするサインには特有のルールみたいなモノがあるらしいんさね」

おかみさんは客たちが更に壁に貼られているサインに見入っている事に満足げにして続きを語る。


「それが、本当なのか嘘なのか。
勇者でも聖女でもない我々には判別がつかない。だが、若い勇者が激しい追求の末、その男を宿から追い出したその結果。
翌日、火付けにあい宿屋は全焼してしまったのさ」

客の一人の喉がゴクリと鳴る音が聞こえ、客の熱心な態度におかみさんは上機嫌に続きを語る。

「燃えてあとかたもない宿屋の跡地。不幸中の幸い、多少の怪我人は出たが宿屋の客もあたしの先祖も無事だった。なにせ宿には若い勇者が泊まっていたからねぇ」

やっぱ勇者はすげえんだな、と安堵の息を吐きそれぞれが勇者について思うことを互いにガヤガヤと話しだす客たち。
そこにおかみさんの声が響く。

「でもね!」

客たちは口をつぐんで固唾を飲みおかみさんの続く言葉を待った。

「宿は燃え落ち、瓦礫の山。でも瓦礫の中に勇者のサインだけは綺麗なままでソックリ燃えずに残っていたのさ!」

客の口から「おおーー!」と自然に声が漏れ出る。

「しかもね、あんた!びっくりな事に偽物勇者のサインは全部灰になっちまってたんだよぉ!!勿論あの追い出された男の物もね!」

その後、さすがは勇者だ!と客たちはもりあがり、料理の追加や酒を頼む声が威勢よくあがる。
客を満足させてついでにたくさんよ注文をもらって良い笑顔のおかみさん。

そんな歴代勇者に愛された宿屋それがラルクラートが押さえてくれた宿屋。秋の背赤熊亭の逸話。



勇者のお気に入りを豪語する店は数あれど。
ちゃんと勇者の訪れた証ぇあるサインが多くあることを証明するだろう逸話。

「ここの宿屋に火をつけたのは、当時の宿屋のライバル店とも、どこかの貴族家とも、王族が裏から手を回したのだとも云われております。
その後、店は通常よりも素早く再建され地域の住人からも、国内外からの旅人にも、天ぷらを食べに訪れるすべての人々から愛される宿屋としてこうして続いているそうですよ」


「へぇ、お店はすぐに建て直す事が出来たんだ。その頃からすごく繁盛してたのかな?」

「それはですね。その宿屋に投宿していた若い勇者が、宿屋に何かあった時にと、商人ギルドに積み立て金を残していたのだそうですよ」

ラルクラートの話では。
その焼け落ちた宿屋は、勇者がこの店に何かあった時に使ってほしいと託していったお金で再建されたのだという話が広まって、何かあった時の保険として、商人ギルドにお金を貯蓄するのがその出来事の後からこの国のお店を経営する人々の間で流行ったのだそうだ。

積立貯金みたいなもんなのかな?今ではすっかりそれが定着して設備が壊れた時、嵐などの災害、店舗の老朽化や食器や備品の入れ替えなどの時に使うのだそう。


「この宿屋の名物メニュー。それは
一人の勇者が名付けたテンプラの盛り合わせセットの名前。そこから始まったと言い伝えられているのだそうですよ、シュアクーン様」

宿屋に訪れる勇者たちは無料で振る舞われる食事に必ずそれを頼んだ。揚げたての天ぷらに笑みをこぼしながら、もしも自分だったらとテンプラのセットのアイディアをどの勇者も店主に語って聞かせた。

それがここのテンプラセットの由来であり、太っ腹なここの主人は
他の店や料理人たちにこのテンプラセット名の使用を無料で許可した。

普通ならあり得ない。
儲けのタネは独占するし、なんなら商人ギルドに登録して長期間金をとる。
しかしそれをせずに女主は分かち合った。だからこんなにテンプラは国民から愛され国で広く食されるようになった。

宿屋を訪れた勇者たちが考案したいくつものテンプラの組み合わせを表した料理名。
長い歴史を持つ宿屋、秋の背赤熊亭では季節や食材に合わせてそのメニューの入れ替えが行われている。


「宿屋の言い伝えによると、その若い勇者とはシュアクーン様の大好きなアキクーンと呼ばれる勇者だったのだそうですよ」

お名前も少しばかり似ていらっしゃいますよね?と、少し得意気に壁にある僕のサインを見上げるラルクラート。



あ、うん。知ってる。
だってそれ、僕だもん。

────でも。
僕が出発した後、宿屋が全焼したのは知らんかった。



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