137 / 230
過去と現在
25. いしの力で願い叶える
しおりを挟むほっそーーい道。
片側は緩やかな崖。
崖の反対は結構切り立った斜面。
以前はこんな道じゃなかったんだけど少し前に崖崩れを起こして道幅がここだけ狭くなってしまったのだという。
そんな所々が細くなった道。念の為騎乗せずにシュアクーンたちは馬を引いて進んでいた。
「うわー、草の上に土が被ってる!」
シュアクーンが下の方を覗き込んだりしながら危ない崖側を歩いていると。
「…?っ、とっ、おっと、と、とと……」
手綱を持つ馬に襟首を咥えられ強引にぐいんと危なくない奥側へと引き摺られる。
「うわー!この辺なんか崩れた跡がある!」
次に抉れた部分にシュアクーンが近づくと。
「?…………ととっ、と、と、おっと、と…??」
また襟首を咥えられ強い力で引き戻される。
引く馬の顔をそっとを伺えば、ぶるぶるふしゅりと息を吐く音。
蹄で地面を強く掻いて、ここからこっちは危ないから出てきちゃダメ!と、まるで仕方のない子ねっ、めっ!と叱っているような雰囲気の目つき。
多分、群れとして認識している中で一番小さいシュアクーン様が心配なのだろう。首を大きく上下させる優しくて賢い馬。
それに対して不服そうな顔をするシュアクーンがポツリと呟く。
「……やはりナメられている…?」
細くなっていた山道から下り、山あいを抜け、シュアクーン一行は眼下に見えていた川の流れに逆らう様にしてポクポクと蹄を響かせ進んでいた。
空は快晴。気持ちの良いお天気。
ゆったりとした歩みの馬を道脇に寄せて止め、んーーっ、と、馬上で伸びをしていたシュアクーンに馬首を向けてラルクラートが話しかけた。
「明日にはこの先に在る牧場に行って替え馬手配しようと思っています」
「え?牧場!!羊とかいる??」
「いますよ。人懐っこい牧羊犬もね」
「僕、羊見るの初めて!!」
「そこらは牧畜が盛んな一帯で、祭りでは子供が羊の背にしがみついて走るレースが開催されます」
「えーー!!僕もやりたい!やりたい!」
「残念ながら、今は祭りの時期ではありません」
ラルクラートはくすくす笑うけど、僕なら絶対に一等取れるのに!
「確かにシュアクーン様は乗馬がお上手になられましたね。もう基礎はバッチリです。
恐らく、長く連なるパレードの一頭になっても周囲と合わせて上手に行進なさることでしょう」
旅の間にそれなりに乗ってるからねっ!並足も速足も駆け足もギャロップも全然イケますよ!!習うより慣れろを実践しましたから。
なんなら今すぐ手綱をかえして華麗にターンをキメテやりますとも!!
「もう、国に帰ったらあの先生クビにしちゃおぅかなぁー」
「おやおや、不穏当な発言ですね。しかし、帰ったら本当に教師は替えてもいいのかもしれませんね」
今後は障害物を飛んだり、馬車の操作を習ったりしたい。そんな希望をラルクラートに伝える僕。
「そうですね。この旅の中で、馬の基本的な扱いは習うことが無いくらいにはなるでしょうからね。
あとは少し特別な走らせ方とか影の使っている方法とか、そのようなモノをレクチャーして差し上げた方が良いのかもしれませんね」
これはワンチャン僕の乗馬の教師がラルクラートにぃ!?というアツい展開が帰国後に待っている?かも!??
そこに先に進んでいたフェジンが戻ってきて、再びぽっくりぽっくりと話しながらゆっくり馬を動かしていた僕らに歩調を合わせ馬首を並べてきた。
「この道をだいぶ行った先に牧場がありますが、今はそのすぐ先に見える脇道に入って下さい。そこでお昼にいたしましょう」
それだけ告げると軽く馬を走らせ少し先行して「シュアクーン様こちらに」と分かれ道で手招きするフェジン。
シュアクーンの頭の中は??でいっぱいだ。
「?なんで牧場へ行く道から逸れてわざわざ河原まで下りたの?」
馬から下り、フェジンの後について河原におりて行くと、先に到着していたアンテルーレとソリクッカが石を積み上げて竈を作っていた。
ラルクラートに馬を預けて案内されるまま、フェジンの後に続くシュアクーン。
「ここは勇者アキクーンが願掛けをした場所と伝えられている岩があります」
え?ここ?石がゴロゴロしている何の変哲も無い河原だけど??
勇者アキクーンだった頃の記憶を掘り起こして探ってみてもなーーんも思い当たる節はなく、首を傾げるシュアクーン。
「ほら、対岸に大きな赤っぽい岩があるでしょう?」
真っ直ぐ指す方を見ると。
ふむふむ。確かにあるね。大きな岩が並んでいる中に赤っぽいのが。
「あの岩は希積岩と呼ばれており、願いを込めて石で水切りをして、あそこに届けばその願いが叶う、と云われているのです。
強く願う意思の力がその願いを叶える力となってあの岩まで届くのだと」
うーーん。この場所かどうかわからないけれど確かに何度か河原で水切りして遊んだ記憶はある。
今も何も言われなくとも無意識のうちに地面を見ながら水切り用の平たい石を探してたもの。
「ほら、岩の下部分が削れているでしょう?それはここを通った勇者の方々の当てた跡だと云われています」
あーー、勇者の皆さんも水切りしたんだ、ごめん、僕の言った適当がそんな事になると思わなかったや。
「今では勇者もおりませんが、旅人が旅路の安全祈願に、商人は旅先での商売の成功を祈って水切りしていくそうですよ」
ほうほう。そんなに願いが叶うよ!なんてラッキーポイントになっているなら、今の僕もやるべきだよね?ね?届いたら願い叶うんだもんね?ね?
足元の手頃な石を拾ってピュッとカッコよく水面に放つ。
「とりゃっ!………………、当たったー!!」
「シュアクーン様、身体強化は使ってはいけない決まりとなっておりますよ」
「えっ?そんな決まりあるの??僕知らないよ??」
「決まりごとは守りませんと、願い事も叶いませんよ」
あ、なんか思い出してきた。
あの赤褐色の大岩。
勇者アキクーン時代。
ここで水切りに夢中になってムキになっていた時に。
護衛していた商隊の人に「対岸のあの岩まで水切りで届いたら願いが叶うんですよ」と適当嘘こいたら
それがまだ伝説として残っていたんだ。
「て、ことは!岩に当てた人の願いが叶った、ってえ事だよね?」
その後しばらく身体強化をせずに頑張ってみたものの。
シュアクーンの石が対岸に届くことはなかった。
「くっそぉーー!当てたのって勇者だけなんじゃないのっ!?」
魔昆虫避けを焼べた火を囲みながら昼食を取るシュアクーン一行。
「それでも川の中ほどまで飛んだではないですか。素晴らしいと私は思いますよ」
「きっと良い石が見つかればシュアクーン様でも、…もう少し成長なされば当てることが出来ますよ」
フェジンが慰めラルクラートが元気づける。
しかし、成長した後でなんてここには来れないだろうということは皆んな分かっている。自由に行動出来ない立場のシュアクーンには“今”しか無い。
「どぉれ、後で私もやってみようかね!でも今はご飯を食べてしまおう、サシバシが飛んできたら敵わないだろ?」
「そうですよ、そのようなことよりも早くご飯を食べてしまいましょう。冷めてしまいます」
ソリクッカにまで注意されてぐぬぬぬぬと唸るシュアクーン。
そして────噂をすれば影がさす。
「ぅわあーーー!!」
ガッ!とソリクッカの食器に背後からサシバシの長い嘴が差し込まれる。
「な!なんで!なんで僕のに!!」
サシバシは人を見る。
食べ物を取りやすそうな人に忍び寄り盗み食いするのだ。
時には空から、時には背後から。
焼べてあるのは魔昆虫避け。
魔鳥相手には何とも無い。
「……サシバシをこんな近くで見るのなんて、初めてだ」
しかし、そこはソリクッカ。自分の知識にあるサシバシのデータをボソボソと垂れ流しながら少し離れた場所まで運んだソリクッカの昼ごはんを突いているサシバシの観察を始めた。
「貴族の子息がサシバシに食べ物盗られるだなんて、普通ありえんことだからな。好きなだけ観察させてやろうさね。…シュアクーン様、サシバシに盗られ無いように早くお食べな?」
このサシバシという魔鳥。恐らく気配を薄くする魔法の使い手なのだろう。
僕も初めて目にする忍者みたいなサシバシをぼーっと見ていたらアンテルーレから再度叱られてしまった。
「さあて!ひと当てするかね!!」
まるで競馬か宝くじを当てるような言いぐさで肩をまわすアンテルーレ。
「ふふん!僕の華麗な手際をとくとご覧あれ」
たっぷり時間をかけて選別した石を手に自信あり気なクリソッカ。
「そおれ!」
「とりゃあああああーー」
それぞれが其々のフォームでそれぞれに掛け声をあげて川に水切り石を放つ。
かッカーン、カッツーん、と見事に石は二個とも当たった。
「……二人とも。身体強化はダメなんだって!!」
「ええーー、そうなのですかぁ?」
「そんなの!無理だろッ!!」
その後、身体強化なしで全員が挑戦したが、当てられたのはラルクラートのみ。
「ねぇねぇ、ラルクラート。何か願い事したの?」
「それは秘密ですよ、シュアクーン様」
シュアクーン一行の目的地、エルフの里まではまだまだ遠い。
1
あなたにおすすめの小説
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる