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過去と現在
27.羊の皮を被った魔獣
しおりを挟む囲われた柵の中にはたくさんの羊たち。
シュアクーンの外套と荷物を預かって、羊と戯れるシュアクーンを慈愛の眼差しで微笑ましそうに眺めているフェジン。
その手にはクリソッカの荷物もぶら下がっている。
牧羊犬も遠くに、気持ち良さげに寝そべってるのが見える。
けれども、どうも居眠りしている様子で大ピンチなシュアクーンの為にはちっとも役に立ちそうもなかった。
「やだよお、噛むなヨォ!こら!喰むなってば!!」
服の裾を必死に取り返そうと頑張るシュアクーン。
べぇェェエエエ
べぇェェエエエ
ンべぇエェエエーー
四方八方周囲には羊が群れ、すっかり取り囲まれてしまっているシュアクーン。
ポケットから出してもらっていたツルレンジャーたちが羊の背を八艘飛びにしている。
多分、レッドとその後を追うブルーは訓練の一環として。時々風を打ち出して舞い上がっているグリーンとブラックは純粋に遊んでいる。ゴールドは危険だからお留守番。で?イエローは?イエローがいない??
シュアクーンは自分の服を羊から取り返しながらキョロキョロとする。と。群れから少し逸れた場所に佇む小型の羊、子羊?の口元に今まさに飲み込まれんとするイエローの残骸が……。
「ぅわーーん!イエロぉおおお!」
シュアクーンの声に応えてか、五七五を点滅させながらモシャモシャされているヨダレに塗れた発光イエロー。
「羊にも大人気ですね、シュアクーン様は」
微笑ましげにシュアクーンとツルレンジャーたちを眺めているフェジン。
いや、そんな呑気なイエロー助けてよ!ってか先ずは僕をここから救い出してぇえええ!
シュアクーンの目の端から涙が溢れそうなほどに溜まった頃。戻ってきたアンテルーレが救出してくれた。
え?ソリクッカ?羊に触ろうとして逃げられまくってましたケドなにか?
両脇に手を入れられて宙に吊り下げられたシュアクーン。集ってくる羊の群れから抜け出すのに体裁が悪いだのなんだの、そんな贅沢言ってられないのだ。
「大丈夫ですか?ラルクラートと、あちらで買い取る馬を見せてもらうのでシュアクーン様を誘いに来たのですが……」
アンテルーレの周囲にはまだ羊たちが密集して返せ返せと猛烈に鳴いてる。
「行く!行く!早くこっから離れて!」
アンテルーレにお姫様抱っこされてその場を離れるシュアクーン。羊たちの無慈悲な襲撃の前にはカッコ悪いだなんて言ってられない。
シュアクーンの上にはここからの離脱を察したツルレンジャーたちが、ぴょぴょいと乗っかって来ていた。
「アンテルーレぇ、イエローが食べられちゃったあ」
「ああ、アイツはマヨウコウですね」
まだ口の辺りが点滅発光している小さな羊を見てアンテルーレが教えてくれた。
「マヨウコウ?」
「羊の魔獣です」
「危なくないの?こんなとこに混じってて」
アンテルーレの説明によるとマヨウコウは成獣でも小羊くらいの体格しか無くて、子羊よりも若干脚が長いのが外見上の特徴。
普通の羊の中に放しておくと羊たちがマヨウコウを子羊と勘違いしてソイツを守るために結束して、肉食獣や魔獣がやってきても逃げ惑う事なく立ち向かうんだって。それが為に、牧羊犬だけが肉食魔獣と戦うという状況を回避できるのだそうだ。
「それこそ、勇者アキクーンの時代ではマヨウコウは害獣でしたが、今ではこうして飼い慣らして互いに益としているようですよ」
昔のマヨウコウは魔獣の中でも捕食される側なので牧場の家畜に紛れて難を逃れたりしていたそうだ。
でもそこは小さくても魔獣で、羊の群れに紛れて牧草を食べ尽くしたり、出産のために肉を欲して羊そのものを盗っていったりしてたんだって。羊が羊を食べてるだなんてそんなホラー、夜の森の中で遭遇しなくて良かったよ。
「今は出産時期には隔離して卵を産まなくなった鶏の肉などを与えるそうです」
「ウジュラも飼ってるかな?」
「そこは存じませんがあっちの方に鶏舎がありましたよ。マヨウコウも美味しいらしいですけど私はまだ食べた事がありません」
味を想像して舌なめずりをするアンテルーレが長い脚で柵を跨ぐとそれ以上は羊たちは追ってこれなくなった。一つ柵を越えて通路になっているそこを進みゲートから柵の扉を押して出る。
背後でまだ、返せ!戻せ!と団子になってかたまって鳴いている羊を置き去りに、ヨレヨレの羊のヨダレ塗れのシュアクーンを抱えてアンテルーレはラルクラートの待つ建物へと向かって歩く。
うーーん。マヨウコウなりに群れを守ってたのかも知れない?もしかしたら光ってるイエローを異分子と判断してやっつけた、という事なのかな??
シュアクーンは牧場内ではツルレンジャーをしまっておくことにきめた。
「あはは、シュアクーン様はよっぽど羊たちに好かれているのですね」
「笑い事じゃ無いよッ!ちょーっと羊と戯れようと思っただけなのに、最初の一頭の毛をモフってたらいつの間にか囲まれちゃってさ!」
井戸を借りて服を軽く洗ってくれているアンテルーレにぷりぷりと怒って訴えるシュアクーンは、身体を拭った後ブラックから服を取り出して着替えを済ませてサッパリとしていた。
「災難でしたね、シュアクーン様」
「あ、ラルクラート!ここの羊たちってば酷いんだよっ!!」
シュアクーンは如何に羊たちに酷い扱いをされ、イエローまで捕食されてしまったことを語って聞かせた。
「ははは。マヨウコウは実は雑食ですからね、草でも飼料でも紙でもなんでも食べますよ。もしも食べるものがなかったら、きっと衣服も家の柱も齧って食べてしまうでしょう」
住んでいる家をマヨウコウにぐるりと取り囲まれて齧られる所を想像してシュアクーンはゾッとした。
「大丈夫ですよシュアクーン様。お城は丈夫な城壁に囲まれていますし、お城の外壁は木ではありませんから」
アンテルーレの言葉にほっとするシュアクーン。
「僕の国にはマヨウコウは住んでないよね?」
「そうですねぇ。野生のものはいません。しかし、そのうち牧地を持つ者がマヨウコウの有用性を知ったなら牧羊を生業とする者の中には飼う者がでてくるかも知れませんね」
「僕、大きくなったらマヨウコウ禁止の法律を提出するぅ!」
「ははは、是非、御提出下さい」
アンテルーレとラルクラートが笑うけど、羊の唾ってクッサいんだからねッ!マヨウコウも臭いに決まってるよ!!二人ももぐもぐされちゃえばわかるのにッ。
その頃。
ソリクッカは、彼に追いかけられて逃げ惑う仲間を助けるために奮起した羊たちに頭突きをくらいたおしていた。
どうやらその羊たちに頭突きの方向や角度を指揮しているのはイエローをもしゃもしゃしたマヨウコウの様だ。
微笑ましげにソリクッカを見守っている様にみえるフェジンの目は…笑っていなかった。沢山の羊の放たれた牧草地の真っ只中、何故かフェジンの周囲に羊たちが寄ってくることはなかったという。
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