140 / 230
過去と現在
28. 椎の実って団栗のことだよね
しおりを挟むアンテルーレとラルクラートは呑気に笑うけど、羊の唾ってクッサいんだからねッ!マヨウコウも臭いに決まってるよ!!
二人ももぐもぐされちゃえば思い知るのにッ!!
シュアクーンがまたプンプンぷりぷりと一人で怒っているとどこからか子供たちの歌声が風に乗って聞こえてきた。
声のする方を向いてみたら、子供たちが手をあげ下げしてお遊戯付きで歌ってる。うん?コレって大きな栗の木の下?で???
♫
白々しいのー木の下でぇー
あーなぁたーと、わーたーしぃー
なーかーよぉーく、食べましょお
美味しい椎の、木の下でぇー
♪
空々しいのー木の下でぇー
ベェーベェー、なーくーよぉー
みぃーんーなーが、お友達ぃ
美味しい椎の、木の下でぇー
♬
美味しい椎の、木の下でぇー
たーくぅーさーん、羊毛ぉー
とーれーるーと、嬉しいなぁ
白空椎の木の下でーーー♪
シュアクーンは、えーー!?替え歌じゃん!と思ったけれど、今現在、召喚された勇者も聖女も居ないから誰にも共感、賛同してはもらえない。
「ああ、あの歌はむかーーしにここを訪れた勇者が作ったと言い伝えのいる童歌なんです。
この辺の子供たちが手遊びしながら歌って遊んでいるのをよく見かけますよ」
いつ“よく見かけた”のかは深く追求せずに、シュアクーンはラルクラートの説明に耳を傾けた。
「歌詞の“白々しい”というのは、殻を割ると少し虹色っぽい照りのある中身の椎の実で、それをたくさん羊に食べさせると、パールのように光り輝く真っ白なたっぷりとした羊毛がとれるとされています」
「へぇー、嘘っぽいけど本当なのかなぁ」
ラルクラートに疑いの眼差しを向けるシュアクーン。
「そして“空々しい”は椎の実の殻斗つまり、あの可愛らしい帽子を外すと帽子との繋がる部分が少し青味がかった色をしている椎の実を指しています。
羊にたくさん与えると少し薄青味がかった綺麗で繊細な白い綿毛のような羊毛がとれるとされているのです」
「秋の深まる頃に子供たちがお小遣い稼ぎに拾いに行くんだね?」
「さすがアンテルーレ、実際そのようです。残念ながらまだその時期には少し早いのですが」
「馬が喜ぶなら僕も拾いに行こうかと思ってたけど、…ちょっと残念」
シュアクーンのその言葉に、アンテルーレとラルクラートは顔を見合わせ微笑んだ。
「うわーー!!ゲコゲコがいたーー!!」
「うーーん。行軍中なら食糧として捕まえるんですが……今は食糧に困っていないので放置ですね」
「そうですね、ゲコゲコも淡白で割と美味しいんですよ、ね?アンテルーレ」
ゲコゲコはどこにでも生息しているカエル魔獣。身体強化魔法の様なことをして脚力を上げ、高く遠くまで飛んだり、ジャンプしながら器用に舌を長く伸ばして獲物の虫を捕獲して食べる。
大きな個体は小動物などもを捕食するが、特に毒もなく食べることもできる魔獣だ。
周囲の環境に合わせて体表の色を変化させる事が出来、わざと二色の色に分かれた場所に置いてみたり、体表とは別の場所に移してみたりして子供の良い遊び相手となっている。
しかし、たまに露店で鶏肉のフリをしてしれっと並んでいる事があるから騙されないようにしなくてはならない。
牧草に合わせてかシュアクーンの見つけたゲコゲコは、とっても綺麗な緑色をしていた。
金色の目に真っ黒な縦長の瞳。王冠を被って短い赤いマントを着けていてもおかしくないくらいのツヤやかで綺麗な緑色のゲコゲコ。
「まてぇーー!」
しゃがんで両手で押さえようとするとピョンと逃げるゲコゲコ。
しゃがんではピョン。
しゃがんではピョン。
夢中で追いかけるシュアクーン。
ツルレンジャーも一緒になって追いかける。…さっきツルレンジャーはもう出さない!なんて誓いはどこへやら。
ツルレンジャーに助けてもらいながらやっと捕まえて持ち上げた時に、シュアクーンは馬を連れた牧場の人たちとラルクラート、アンテルーレにすっかり囲まれてしまっていた。
「シュアクーン様。この鼻筋の通った流星のついたこの子がいいですよ!」
「鼻梁白の美しいこちらは大人しくて坊ちゃんでも扱いやすく……」
「いーや、シュアクーン様。こちらの黒鹿毛のが良い馬ですよ!」
「しかしね、多少は気性が荒くとも私は若くて良く走る方を勧めます。乗っている内にすぐに慣れますよ」
「そんな蹴り癖のあるのなんてダメですよ!ほーーら、ご覧になって下さい!こちらの馬は……」
「え、うん、うん……、そうなんだね。そうなんだ。うん。うん。うん…………」
ぐるりと自分を囲んだ馬と人。
周囲を見上げて一々返事をかえしていたシュアクーンは急に下を向いてしまった。
「シュアクーン様。どうしたのですか?下を向かれて」
「もしや、具合でも悪くなったのですか?」
首に手を当てて小さな呻き声を上げているシュアクーンを心配し始めるラルクラートとアンテルーレ、そしてツルレンジャーたち。
ツルレンジャーはシュアクーンの周りをうろうろと羽根を振りながら回りだして、ちょっとした生け贄の儀式の様相を呈してきている。
「うーーん。ごめん、大騒ぎしないで。
単に首痛くなってきただけだから」
周りは全員大人で会話するのに上ばっかり向いていたから首が痛くなってしまったシュアクーンだった。
「えっと、僕、大人しいのが良いかな?蹴り癖のある子はちょっと僕には難しいよ」
みんなシュアクーンを心配して口を閉じたのを良いことに、そう素早く主張したシュアクーンの一言により馬選びは決着をみた。
────が。
シュアクーンの足元には、その手にしっかり捕まえられている緑のよりも、もっとずっとデカいゲコゲコがいつのまにやらのっそりと忍び寄ってきていた。
やたらとでかいソイツは、シュアクーンを見上げて、ガゴとひと鳴きした後で、ツルレンジャーたちを食べようと舌を伸ばして追い始めたので、慌ててシュアクーンはツルレンジャーたちをポケットに避難させなくてはならなくなった。
「ぅわーーん!やめて!やめて!食べちゃだめぇーーー!」
▫️▫️□▫️□▫️
「シュアクーン様?ちゃんと御手手は洗いましたよね??」
「よーーくゴシゴシしないとダメですよ?」
「お腹を痛くしてはいけませんからね、手は綺麗に洗ってから食べましょう」
「本当ですか?よく洗い流しましたか?」
「洗ったよ!さっき!ゴシゴシしたし!!」
もーー!!僕そんなにもうお子様じゃないのにッ。
牧場でずっと綺麗な緑色のゲコゲコを持ち歩いていたシュアクーンはアンテルーレ、ラルクラート、フェジン、オマケにクリソッカの全員から注意を受けていた。
買い取り交渉を終わらせて今日一泊する宿に移動した一行。
今日のお宿は“家鴨の嘴亭”。入り口にお花の植った花壇の可愛らしい佇まいの宿だ。…と、いうか民家に毛が生えた食堂兼宿屋という感じ。
「こんにちは!何に致しますか?」
愛想よくした男の子がメニューを渡してくれる。一つのグループに一つしかメニュー表をくれないのが普通なのに人数を見て二つ持ってくるあたり、この子は気が利く子なんだとおもわせる。
牧畜が盛んなここら一帯では、ステーキやベーコン、チーズなどがよく宿で提供されている。僕は豚舎は見かけなかったけれど、牛や豚も多く飼育されているんだってさ!そういえば羊の囲いの奥には牛がたくさん居たっけ。
「私はこのジャジャマンポテトとかいうのをもらおうか。酒との相性抜群!というおススメ文句が気に入ったね」
どうやらアンテルーレは飲む気満々のよう。
フェジンは、羊肉(マトン)と野菜の炒め物とほくほく(じゃがいも)バターのせ。
ラルクラートは牛(ランプ)ステーキとチーズの盛り合わせ。チーズの盛り合わせは横から「それ二つ!」とアンテルーレが口を挟んでた。
クリソッカは生意気にも子羊肉(ラム)のステーキを頼んでいる。
僕?僕は……
「この、カレーというのをお願いします!!」
「かしこまりました!」
一つ一つ、ちゃんとメモを取っていた男の子が元気に答えて、そして僕に尋ねた。
「カレーはアウス地方の物を取り寄せた当店自慢の一品ですが、子供には少し辛いと僕は思うのです……大丈夫でしょうか」
どうやら辛いのを心配してくれたようだ。なので僕は元気にそれに答えた。
「大丈夫です!ダメだったら誰かが代わりに食べてくれます!」
ってさ。
カレーはすぐ来て僕はお先に!と食べていた。カレーのスパイシーで強烈な匂いに皆んなのお腹の鳴る音がする。肉は牛肉。ゴロゴロのじゃがいももにんじんも玉ねぎも、よく煮えていてとっても美味しい!!
そうこうしているうちに、他の料理がどんどん運ばれて来てみんな美味しそうに食べ始めた。
カレーはそこまで辛く無くて僕でも充分食べられる程度の物だった。
「お待ち遠さまです!」
僕がまだちょっと物足りないな、と皿を眺めていたら、いつのまに追加注文をしたのか大皿を持ったお姉さんと、さっきの男の子が大きな半円のチーズを抱えてテーブルにやって来た。
────これは、アレだ!!
「ラクレット!誰が頼んだの!?僕も食べる!食べる!」
皿の上には温野菜とソーセージが雑に盛られていて、そこにとろーりとろけたチーズがどっさりとかけられた。
「わーー!美味しそう!一度食べてみたかったんだ!!」
「ほう、これが“ラクレット”という料理ですか。非常に興味深いですね、チーズをかける料理というのは……」
クリソッカが蘊蓄をジャアジャアと垂れ流し始めたけれど、そんなのは現地の人の口から聞きたいよ。…お前は壊れた蛇口か何かか?
3
あなたにおすすめの小説
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる