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過去と現在
34.ツルレンジャーショー
しおりを挟む「まったく。一体全体どの様なおつもりで?こんな調子では将来殿下を支える立場として……」
ぅわあ。兄上はよくこんなの側近として置いとくよなぁ。きっと普段から口うるさいに違いない。僕なら耐えられる気がしないよ。
「将来の事を考えると今から頭が痛…」
「じゃあ、僕のお楽しみの分は僕が自分で稼ぐ!それなら文句無いよね!!!」
本当は商会で稼いだお金を下ろしてきてもらっているから僕の買い食い分は僕のお金なんだけど、クリソッカはそんな事知らないから国から出ているお金で僕が勝手に飲み食いしていると思ってるんだ。…あ、飲んでるのはお酒じゃなくてジュースだよ?
程なくして。
シュアクーンは幾つかの店を覗いた後、人がそこそこはいっている食堂の人と交渉して、芸をみせて金をとる道端で芸を披露して小銭を稼ぐ大道芸人の真似事をしようと画策した。
「さあさあお立ち会い!どうぞ皆様ご注目下さい!!」
手に持つのは硬化魔法をかけた輪っかにした縄。その辺に落っこってた荷造り用のボロ縄だ。
「さあ!ツルレンジャーショーの始まりだあ!!」
大きく手を振るとシュアクーンの手の中から五つの色が飛び出した。
ブラックとグリーンが最初にテーブルの上に着地を決め、イエローは点灯点滅、回転しながら。ブルーとレッドがブーメランのように弧を描いて滑空してテーブル目掛けて戻って来た。
一度、五羽で揃ってビシッとポーズ。その後はグリーンが風を起こし、一羽ずつ走って順にシュアクーンが両手に持つ縄の輪くぐりをしてみせた。…走るその姿は少し滑稽で、それが大いに客を沸かせた。
ん?ゴールド?彼はポケットで待機、じゃなくて僕の護衛任務についてもらってるよ?
「さあ!取り出しましたるは何の変哲も無い一枚のこの白いハンカチ」
お次に。と、取り出したハンカチをシュッとなぞり、真っ直ぐ剣のように伸ばして見せるシュアクーン。
身体強化をする労働者は多く存在するが、物質に硬化魔法をかける者は稀だろう。
それだけで観客たちはおおっ!と声をあげた。
「おおっと!そこのあなた。ただただハンカチをピンとさせただけだとお思いですね?」
急に話しかけられたオジサンが店内の客たちからの注目を一身に浴び少しギョッと目を大きくする。
「テーブルのパンをお借りしても?僕が食べやすいように綺麗にスライスして進ぜましょう」
その後、シュアクーンは切りやすい形状に硬化し直した自分の白いハンカチでオジサンの丸パンをスライスしてみせ、客から大歓声を浴びてみせた。
「いやあ!盛況盛況!大盛況!君のおかげで店は大繁盛さ!!もし良かったら明日も来てくれないかな?」
客は自分のパンも切ってもらおうと目立つように必要以上にパンを頼んでいた。ちなみに、食べきれない物は持ち帰りオッケーのお店なので、そこは心配しないでほしい。
こうしてシュアクーンはケチのつけようのないお小遣いを手に入れてホクホク。
ちゃっかり明日の約束まで取り付けてしまった。
「なっ、なっ、なっ、な……」
「クリソッカ。もうシュアクーン様の買い食いに文句の一言も吐くことが出来なくなってしまったな」
哀れみの目でクリソッカを見下ろすラルクラート。
「さあ!これで僕の食べたい物をじゃんじゃん食べちゃうよぉ!ラルクラートとソリクッカにも奢ってあげるからね!」
思ったよりも儲けたシュアクーンは、その日はそのまま宿に戻ってしょんぼりホワイトお姉さんの故郷の味を改良したのだという、お姉さん激推しホワイトシチューを二人に奢ってあげた。
▫️▫️□▫️□▫️
外はもう真っ暗。
シュアクーンの今日の相部屋のお相手はクリソッカ。
旅立つ前の荷物の点検や細かな擦り合わせなど話し合いをしたいからと、今日だけフェジンとラルクラートが同室になった。
「抜き足差し足忍び足…っと」
僕はどうしても行きたい場所があって目下、隠密行動中。
お供はもちろんツルレンジャー。
彼らをいつでも出せるようにポケットにセットして、そぉーっと部屋を抜け出した。
鍵?部屋の鍵なんてそんなもんないよ?
よほどの高級な宿以外では、貴重品入れの金庫どころか鍵のついてない部屋が普通。貴重品は自分で抱いて寝るのが基本。
そう言う点では野外で寝る時と変わらない。屋根付き壁あり飯付きベッド有りの野宿って感じだね。野外のように獣や虫の心配はしなくて良いけどさ。
そして、どこに行くかといいますと。
この辺の人間は、〆のラーメンならぬ、〆のうどんを食べるのだと露天のオトウチャンから情報を昼間のうちに仕入れていたんだ。食べてみたいじゃん?〆のうどん。
「どこに行かれるのですか?シュアクーン様?」
そーーっと出て来たのにアンテルーレにバレちゃった。あーあ。
「ゎっ、アンテルーレ。ど、ど、どうしたの?」
「私は寝酒をもらいに行こうかと……シュアクーン様こそ寝る前のおしっこですか?」
うーーん。なんかみんなして僕のこと微妙に小さい子扱いすんだよなー。
「違うよぉ!うどん食べてこようかと思って」
「食べに?出る?こんな遅い時間に?お一人で?」
わーー!つい本当のことが口から出てしまった!!
「すぐそこ!三軒隣!夜だけやってるって言うからさー、そうだ!アンテルーレも一緒に行こうよ」
何とか誤魔化そうと必死なシュアクーン。
もうシュアクーンの口はうどんの口になっているのだ。…このままでは絶対眠れない。
「……いいですよ。ただし!今後絶対に一人で外に行かないと約束してもらうけど。いいね?」
「う、はい。もう二度と一人で抜け出そうとしません。だから、フェジンに言わないで!!?」
バレたら食べ歩きすら禁止されてしまいそうだもの。
勿論お店の場所も昼間聞き込んでおいたから、直ぐにわかったよ。
昼間は遅めに開く普通のカレー屋さんで、他所と違ってパンじゃなくてナンが出て、ライスとカレーが別盛りで提供されている。飲食店にしては小さめのお店。
「すまないねぇ、ウチは酒をださないんだよ。ウチは夜に安価な食事を出すのがメインの商売なんだよ」
卓上の昼間のメニューを見ていたら“母ちゃん”って感じの女性がオーダーをとりに来てくれた。
「ウチの夜メニューはどれも安価だから回転率が命なんだよ。
酒なんて出して、変に長っ尻になんかなられちゃ困るのさ」
恰幅の良いおばちゃんに酒があるか聞いていたアンテルーレが肩を落とす。
カレーうどんと普通のうどんの二つとも食べたくて、わざと小盛りを頼んだ僕は、辛い味付けのカレーうどんを注文したアンテルーレが汗をかきながらズルズル啜っているのを対面に二杯目のうどんをお願いした。
「ハイよ、お待ち!いつものね」
隣の席の赤ちゃんを背負った寝不足気味にみえる若い奥さんの前に澄んだスープの具が少なめなうどんがコトリと置かれた。背中の赤ちゃんはお目目パッチリで威勢よくおててを振り回していて、とても眠そうには見えない。
僕たちの背後では赤ら顔のオジサン二人が仲良くワイワイしながらうどんを啜っている。
「かぁーーちゃん!早く次!あがってるからッ!」
「なんだよッ!うるさいねぇ!わかってるよ!」
「アンタ聞いておくれよぉ、こいつは出戻りでさあ」
「やめろよ母ちゃん!確かに出戻ったけどそんな言い方じゃあ意味が違ってくるだろ!?」
仕上がった料理を手に裏から出てきた息子さんがいうには、他の店で修行をして帰って来たのを母親が出戻りっていうのだとか。
「他所様でしっかり学んで来たのによぉ。だのに、そんな言い方されちゃあかなわねぇよ、まったくさぁ」
「まあさ。でもねぇ、婿に行ったようなもんでしょう?よそ様のお店に取られちまってたんだから」
「違うだろ!?何度も説明したよな?俺!他所で技術を学んでくるってさあ!?」
追加のうどんが目の前に置かれて箸を構える。微かに立ち昇る湯気が美味そうな雰囲気をさらに盛り立ててる。
それにしても。お兄さんの場合は出戻りって言わないよね。
出戻りっていうとさ、実は僕、勇者アキクーンの時に一度お城に出戻ったんだよね。
というか。
僕が勇者アキクーンのときに、一旦城に戻ろうと決心した時も、うどんを食べている時だった。
丁度あの母ちゃんのような店のおばちゃんに、勇者様はどこを目指して旅しているのかと聞かれたんだ。
それに満足のいく答えを返せなかった僕。自分でも何処を目指したら良いのかわかっていなかった。
当然だよね。何処に行き何をしなくてはならないなんて事誰からも教えられてないもの。
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