ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜

いくしろ仄

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過去と現在

38.マジガチバチバチ

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勇者アキクーンの時の僕。
あの頃は何処へ行こうが何をしようが一人で決めて、それこそなんでも自分で好きなように気ままに行動できてた。



「いやぁ!食った食った!!」

アンテルーレの声で一気に意識が現実に引き戻される。
そうだった。今はシュアクーンで夜、お忍びで泊まってる宿の三軒先のお店にうどん食べに来てたんだった。

五杯目をズルズルしてるアンテルーレをほっといて、追加で頼んだ二つ目のうどんも食べ終わり僕は今、デザートのじゃがバターっぽい物をつついている最中。

うーーん。アンテルーレの胃袋って実はブラックみたいな仕組みなんじゃ???


「シュアクーン様?フォークが止まってるが、どうされました?お腹が一杯ならば私が食べて差し上げても……」

アンテルーレが舌なめずりして、手元のホクホクのじゃがいものを注視してるのをボーーっとして見ていた僕の背後から、急に怒声が上がる。


「っんだよ!文句あるってぇのか!?」

「んだよ、お前こそ!この俺に楯突こうってぇのかあ!?」


「なんだとお!?もういっぺん言ってみろ!」

「おお!何度でも言ってやらあ!」

大きな音をたて椅子を蹴立てて立ち上がる二人。

突然の大声にふりむいたら奥の方の席で腹の出っ張ったおっさん二人が胸ぐらを掴み合って争っていた。さっきまで大声で談笑してたのに。って、ん?んん?
あの二人、ま、マーモットみたい。
あ、だんだんより一層掴み掛かり合う二人のオジサンたちがそう見えて来ちゃった。どしよ、コレ。今笑ったら絶対絡まれる。


「おーおー、赤い顔したマルルモットが二匹で騒がしい。ここは食事をするところだろぉ?美味しい料理を大人しくお食べよ」

マルルモットはマーモットに似た手足の短いので有名な魔獣。当然容姿を揶揄した口撃によく使われるのだけど……。


アンテルーレの言葉に気分を害したマーモット…じゃないおっさん二匹はどうやら冒険者らしく腰に吊るした剣を引き抜いてコッチを睨んできた。

おおーーっとお!コレは!?
荒くれ者だ!荒くれ者!!うわーー!王子になってから初めて見た!
よくよく見れば二人とも相当酔っ払っているのか顔が赤く目がすわっている。


「お前!このォー!!」

マルルモットの片割れが剣を振り上げてこちらに駆け出した。狭い店内なのでスピードは無いけれど。しかもひどく酔っ払っているらしく若干千鳥足。

僕の脇の通路を駆け抜け二人に向かって素早く移動したアンテルーレは、剣を振り上げたオッサンの近くの席の椅子を器用に足で蹴り上げ、腕に引っ掛けて盾代わりにし相手の剣をいなしてよけてみせた。

片や金属。無惨にも木の椅子は壊れてしまい、しかし剣は勢いを殺されて。
剣を持つ手を取られ捻りあげられてあっという間にアンテルーレはマルルモットオジサンを制圧してしまった。

アンテルーレが実際に戦っているところを初めて見た。それは僕が勇者だった頃と似た雰囲気で。
盾がなければ厚いお鍋の蓋でもいいよね。
相手は酔っ払い。狭い店内最初の一撃を凌げればいいのだから。食器でも酒瓶でも投げつけとけば良いのさ。マトモにぶつかる必要はない。




「相手は酔っ払い。普段の実力の十分の一も、まともに動けやしないだろうねぇ」

剣を抜いた二人を伸して外に放り出して来たアンテルーレ。
壊れた椅子と放り出した二人の分の代金も店に払って戻ってきたかようだ。ほんと男前。


「あんまり見ないでください、飲み屋でのケンカなんて珍しくも無いですよ。おっと、そういやここは酒を出さないお店でしたね」

軽く笑ってドカリと椅子に座り直したアンテルーレ。

「椅子を器用に蹴り上げて攻撃をいなしてたよね!凄いね!アンテルーレ」


「さあて、仕切り直しさね。何を食べようかねぇ」

あんまり僕が凄い!凄い!いう物だから照れ隠しにメニューを見始めたけど、まだ食べるつもりなんだね。

僕はほったらかしになっていた熱々から程よい温かさになったじゃがいもをほおばる。

『シュアクーン様。この人は喧嘩となれば、おぼんでも鍋の蓋でもなんでも使いますよ。以前にテーブル蹴り倒して盾がわりにしたってのを聞いてます。ホントがさつなんですよコノヒトは』ってロプシンの声が聞こえた気がした。





「これは店からのサービスさ。良かったら納めとくれ」

メニューと睨めっこしていた彼女の前に小さな酒瓶と杯、そしてジャジャマンポテトが並べられる。


「いつもはあんな風な客いないんだけどねぇ。アンタもすまないね、怖い思いさせちまってさぁ。これは持って帰って家で食べとくれ」

おかみさんは酒とジャジャマンポテトをテーブルに置いたあと、赤ちゃんをおんぶした女の人にお土産の包みを渡していた。
女の人の背中を見るとあんなに騒がしかったのに今は首が折れてるのかも?と思うほどかっくりグッスリ眠っている。

女の人は何度も頭を下げなら帰って行った。…これから赤ちゃんと一緒に寝るのかな。お母さんって大変。


「いいのかい?私が騒がしくしたのにこんなにしてもらって」

「いいんだよぉ。私らだけじゃあの二人の相手は骨が折れたろうからさ。それにしても、マルルモットねぇ。今度二人が来た時気をつけないと顔見ただけで笑ってしまいそうだ」

「それは気をつけないと!客の容姿を笑うようじゃ良い店とは言えないからね。…それじゃあ遠慮なくいただくとしようかねぇ」

「ああ。酒は店のでなくて息子の秘蔵の酒だから遠慮なく飲んどくれ」

両手をすりすりしてから杯に酒を注ぎ出す彼女はとっても嬉しそうだ。しかも酒のアテはお気に入りのジャジャマンポテト。

こうして店で扱いが無いからと、飲めないはずの酒にありつけてアンテルーレはご機嫌で。
僕たちはお腹を一杯にして幸せ気分で宿に帰っていった。








翌朝。

「んーーー。僕、朝ごはん、いらなーーい」

「大丈夫ですか?どこか具合が悪いのですか?」

「うーーん。なんかよく眠れなかったからもう少し寝てたいだけぇーー」

「そうなのですか?本当にどこも悪くないのですね?」

「うん。どこも悪くなーーい」


翌朝、当然ながら、朝食をパスしたシュアクーン。因みにアンテルーレは元気にモリモリ食べていたというから、やっぱり彼女の胃袋はブラックみたいな仕様なのでは??


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