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過去と現在
47.出戻り勇者の旅〈三〉
しおりを挟む「わーー。だんだんと前世の記憶を刺激する様な風景になってきたなあ」
エルフの里へと行くには高い山を超えなくてはならない。その遠くに見えていた山が大きく見えてくるほど地形の高低が激しくなっていく。
あと少し、三日くらい歩くと山越え前の最後の宿に辿り着くだろうな。尤もそれは勇者の足で、の話だけど。
「シュアクーン様?お疲れになりましたか?」
「ううん。なんでもないよ」
シュアクーンは目に映る風景を懐かしみながら歩みを進めた。
▫️▫️□▫️□▫️
コジミンと別れた勇者アキクーンは、段々と坂ばかりとなっていく道をひたすらに進み、メーダロソン連山のその麓にある町に着いた。
「うわーー。遠くから見ても凄く高い山々だと思ってたけど近くにくるともっとすごい!
さあて、山登りが始まる前に一休みしましょっか」
勇者アキクーンは町に二つあった宿の安い方に泊まることに決めた。
「後で冒険者ギルドに行って山越えして移動する商隊か何かの護衛の仕事がないか探してこないと。…そんなに都合良くはいかないだろうけど、今は僕一人だけだから路銀稼ぎも自分で頑張らないとな」
護衛の仕事は、お金が入り、旅の食糧調達に困らず、且つ魔王を探しての移動ができる有難い仕事だ。
よい時間になったからと食事をとろうと下に降りたがテーブルについている客は疎らだ。しかし厨房からは良い香りが漂ってきていて思わずアキクーンは腹を鳴らす。
「しっかし。宿はどこも清潔だし食堂は掃除が行き届いてピカピカだし、なにより厨房から漂うこの良い香り。なんでこっちにはあんまり人が居ないんだ?」
「白い悪魔のせいよ」
注文を取りに来たここの宿の娘がアキクーンの独り言を聞いていたらしくそう答えた。
「え?悪魔なんか出るのか?この宿。そりゃ捕まえて見せ物にでもすりゃ一攫千金だ」
「ばかね、違うわよ」
アキクーンの気やすさに笑い声を上げる娘。宿屋の娘の話では、なんでももう片方の宿は牧場と提携していて、元から新鮮なミルクが売り物だったんだそう。
そこに加えて去年から、そのミルクを使った煮込み料理“白のシチュー”を一階の食堂で売り始めた。聞けば宿にお泊まりになられた聖女様が宿に教えた物なんだとか。
「それがね、えらい美味いって評判でさ、ウチはこの有様ってわけ」
娘が言うにはここで食事をしているのは殆どが泊まり客だけであとは長年通ってきている常連さんのみ。なんとか泊まり客があるからやっていけてる状態なのだと言う。
「ふーん。そっかー。繁盛結構、儲かるのはよい事だけど、それで困る人もいるって事なんだね」
「そうね。この街にある宿屋はウチとあそこの二軒だけだから、どうしても比べられたりしちゃうのよね」
しかも二軒ともそんなに離れた場所に建っているわけでは無いから尚の事。泊まる気のある客などは絶対に比較してから決めるだろう。…実際にアキクーンは高級そうなあっちの宿に先に足を運んでいた。
「…どうにかならないものかしらね」
娘は大きな溜息をついてから厨房の方へと戻って行った。
翌日。
勇者アキクーンは久しぶりに爽やかなスッキリとした気分の朝を迎えていた。しばらく夜は地面と仲良く添い寝の生活が続いていたせいもある。
「おはよう。コルン」
「あら、おはよう。勇者さま」
「……やっぱり勇者って分かる?」
「そりゃあね、身に着けているのがぜーーんぶ勇者基本セットなのだもの」
「ええーー。武器か胸当てか何か替えよっかなーー」
「やだ!やめときなさい!そんなの詐欺師だと疑われかねないわ!」
アキクーンは知らなかったが、勇者基本セットにはどの国が出した勇者なのか、わかる印が必ず付けられているそうだ。
「ウヘェそんな事知らなかった」
「そんな事も教えてくれなかったの?あの国は」
呆れ顔のコルンのことをちょっと可愛いなと、アキクーンはその時思っていた。
「はい、お待ち遠様」
朝食を運んできたコルンはそのままアキクーンの前の椅子に座った。どうやら今は暇らしい。
「なぁ、コルン。あっちの宿が名物で繁盛してるなら、こっちも何か名物作ったらどうなんだ?」
「ばかね、そんな事私でも思いつくわよ」
コルンは呆れ顔で剥れるという器用なことをしてみせた。
実は。
安い方の宿に泊まることをアキクーンが『決めた』のではなかった。
ここらに二軒あるうちのやたら高い宿屋の方は僕のことを頭のてっぺんから爪先までをジロジロと検分したあとに。
「ウチにはお泊めできません」をチョーー薄味にして丁寧に何重にも包んだ文言で宿泊を断られた。
年に数度、城からやってくる聖女がお泊まりになられる由緒正しきお宿だそうで、次のシーズンには聖女がやって来て、穢れの溜まりやすい場所をここを宿泊拠点にしながら巡るのだという。
だから、ナニ?
「なので品位を貶めるような客は泊められないのです」というのを装飾過多な煙に巻く言い回しと柔らかな物腰と丁寧さでもって、僕に伝えてきた。
なので、必然的にもう一軒の宿を選択した。というのが『決めた』の真相だ。
っっつぅーか、そんな宿こっちから願い下げだ!!ペッペッぺ!
勇者アキクーンはしばらくこの宿に腰を据えて旅の資金を蓄えることにした。
▫️▫️□▫️□▫️
「ふーーーっ」
コルンは深く深呼吸して気持ちを落ち着けた。
私はこの宿しか知らない。
恐らく一生ここの宿から出ることはない。将来料理人の婿をもらうのか、それとも誰かを雇うのか。
もしかしたら父が新しい女の人を迎えるか。
それは今はわからない。
けれど私はずっとこの宿で暮らすのだろうと思っている。
この宿に泊まる旅人から散々色々な情報を聞かされていた。
どこの村娘たちも口を揃えて言っている。
勇者の子供を育てて暮らす。それはその辺の歳の釣り合いの取れない男に数合わせのようにして嫁に出されるよりかはずっとマシだと。
勇者との子供は皆んな聡くて身体が丈夫。親を大切にし温和で優しい。のだと。
もしもそうじゃなく育ったとしたら、それは育てた人間の影響だ。とも。
小さな集落に勇者が訪れることは珍しいこと。しかし、ここはエルフの里へとメーダロソン連山を経て行く通過地点。今までも何人かの勇者と名乗る男はこの町を通っていった。
チャンスは過去にもあった。でも、今までは踏ん切りがつかなかった。
私は勇者だと名乗るその男に自ら自分の意思で身を任せた。
自分の行く末、運命を委ねたのだ。…本当のところ、好きじゃなかったとは言えない自分がそこにいる。
胸に手を当てるコルンは自分に問いかけそう己の気持ちに答えをだしていた。
早朝、いつもの時刻に仕事におりて来なかったコルンに彼女の父は怒りもせず、何も問わなかった。
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