160 / 230
過去と現在
48.山麓の宿①
しおりを挟むエルフの里に行くには超えなければならないメーダロソン連山。見渡せば、高い山々が間近に聳り立つ雄大な風景が広がっている。
真っ直ぐ直線的に突き進みたいところだが、標高の高い山々に阻まれ、予定では地図上で見ると少し北方へ移動しながら山の低めな部分を通り抜けることになる。
道の先。高く空を見上げると頭上には険しい山肌。
「いよいよメーダロソン連山を超えますよ?皆さん覚悟は良いですか?」
この先はより一層山道が多くなってくる。なので一つ手前で宿泊した町で、川を越えてから手に入れた馬を売却してしまった。
馬に手間をかけるよりも魔法を駆使した方が移動が早いし使い勝手が良いと判断したからだ。
「あれに見えるのがその昔、多くの強い魔獣が住処としており、ドラゴンもその頂に住んでいたとされる高くて険しいイノチラ山です」
連なる山の中に一際高く聳えるのがイノチラ山。
そうそう。だからそこが“魔王”のいる場所の候補の一つだったんだよね。
「今日の宿泊予定地はメーダロソン連山の麓の町にある宿で、昔は魔獣討伐隊や瘴気を祓ってくださる聖女様方の逗留場所として維持管理されていた建物です」
「今では観光に訪れる人々の宿泊施設となっている場所ですね?僕でも耳にした事のある、とても有名な場所なのですよ!」
おっと、ソリクッカの解説蘊蓄マシンガンが火を吹くぞ!その前に僕の意見を聞いて貰おうか。
「そこは却下で!!」
「え?」
「何故でしょう?」
「他に泊まれる様な場所はございませんが……」
「天気も悪くないし、私は野宿でも構わないよ。どうせそこ以外は全部野営だろ?」
勇者アキクーンがメーダロソン連山を超える前に泊まったとされる宿屋は、定説では聖女の利用していた方だとされているけど、僕は転生しても絶対にその宿にはとまらないよッ!
そこの宿。勇者時代にお金が足りなさそうな見た目だからって僕を泊めてくれなかった宿なんだ。…正確にはつまみ出された。
今は別の人が経営してるのかもだけど、正直気分良くない。
「何故なんです!?歴代の聖女の投宿したとされるッ由緒正しい宿屋なんですよ!」
アー、クリソッカがうるさくなっちゃった。
エッヘン!主の意向には誰もが従わなくてはなりません!!
と、いうことで。聖女御用達の宿ではない、もう一軒の宿“高嶺の葉”に宿泊が決定致しました。
「まったく横暴ですよ。二度とこんなところまで来られないだろうというのに……」
いつまでもうるさいねぇ、君は。
「じゃあさ、クリソッカだけアッチに泊まったら?あ、一人が不安ならアンテルーレ、一緒に着いてってあげてよ」
「……わたくしの守らなくてはならない主はシュアクーン様なのですが?」
こっわ。なんでそんなドスきかせてくるんだよぉ。ちょっとした冗談じゃあ無いですか!
「お待ちどおさま、蕪のとろとろ煮込みと地走り鳥のロースト、ミモザサラダそして盛り合わせのパン二つ、お待たせ致しました!」
手早くテーブルの上に置いていくお姉さん。
「残りも直ぐにお持ちします!」
ミモザのサラダは日本式。グリーンサラダに潰したゆで卵を散らしたタイプだ。…フェジンが頼んだに決まってるでしょ?フェジンと仲良く半分こ!だよ!!
「シュアクーン様は何を頼まれたのですか?」
「僕はコレ!」
メニューの一番最後の部分を指差す僕。
「ほう、コースなどというモノがあったのですね?」
アンテルーレの目が光る。コース料理はドリンクが選べてその中にはお酒の文字が。
「僕はりんごジュースにしたよ?」
一応、特にアンテルーレに伝えておきます。山の中腹にある果樹園から新鮮な季節のフルーツを取り寄せています、とおすすめに書いてあったんだもん。
今の時期なら
いちごの様な三角錐っぽい形の“とんがりんご”が食べごろだもの。
「ハイよ、お待たせ!指魚のスープに卵とトマトのチーズ焼き、カリカリポテト揚げに厚切りステーキ肉だよっ!」
今度は年嵩のお姉さんが料理を運んできてくれた。…クリソッカはまだ少し膨れっ面をしている。そんな顔でご飯食べても美味しくないよ?
ゆで卵をスライスしてトマトと交互に挟んでチーズをかけて焼いたものを引き寄せてタバスコの様な辛みソースを一振りするアンテルーレ。
「こりゃ美味そうだ!すまんがこのコース料理を追加で一つ頼む!飲み物は……」
お酒、だよね。
「はーー、食った食った!」
コース料理(といっても定食に毛が生えた様な品数なんだけど)に地走り鳥の燻製肉が入っていて僕は大満足!!
お部屋でベッドにごろりと転がる。
周囲ではツルレンジャーたちがあそ…警戒中。この部屋を出る予定はもう無いからゴールドも一緒になって絡れるようにしてじゃれまわっている。
「では少しラルクラートと打ち合わせしてきますね。…大人しく部屋に居て下さいよ?」
ハイハイと手を振って答える僕。今回はフェジンが勝利を収めたようだ。ジャンケンつええな。
「流石に宿の名前はそのまんまじゃ無かったか」
僕が昔、勇者アキクーンだった頃に泊まったときは“シリシシプの蹄”って名前だった。
この先に進むと突きあたる切り立った崖に住むアイベックスみたいな脚を持つ山羊、シリシシプの生息地があったはず。
そのシリシシプのように切り立った崖みたいな困難でも、どんなギリギリな状況でも切り抜け生き抜いて見せる!って気持ちを込めてつけられた名前だと言ってたんだけどな。…コルンが。
「高嶺の花ならわかるけど高嶺の葉って何考えてつけたんだか」
シュアクーンは大きな欠伸を一つして、ベッドの掛布に潜りんだ。
「……それにしても宿泊者全員に早朝目覚ましサービス付きって言ってたけど、朝に大きな鐘かドラでも鳴らすのかな……」
お腹が一杯なシュアクーンはそのままとろとろと眠ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる