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過去と現在
49.山麓の宿②
しおりを挟む────早朝。
宿で飼われているウブリアーコッコが一羽、開いていた窓から宿の中に入り客室の並ぶ廊下にバサバサと降り立つと伸びをするようにして息を吸い胸を大きく逸らす。
オーココッコォーーーッ!!
高らかな鳴き声と共に、並ぶ客室内から何かが落ちる音、呻き声、色々な物が散らばる音が響いた。
その音たちを聞き満足げな様子のウブリアーコッコは赤い頭をふりふり優雅に廊下を進みつつ何度も雄叫びを上げる。
ココッ、コッ、オーココッコォーーッ!!コォーッッ!!
「あ゛ッ!お前また入りやがってっ、さっきまで小屋で飯食ってたろお前どうやって!?出てけコラッ!シッシッ!!」
コワーッコッコッコ
ココッケッ!ケッコッ、ココッコォーーッ!!
バサササ!ドタタ!部屋の前を前脚四刻に駆け抜けていくウブリアーコッコと宿の人間の争う物音。
シュアクーンは眠い目をこすりながら呻いた。
「宿の、目覚ましつきってこれのことかぁ……」
けたたましくも野太い鶏の声で起こされた僕ら。
昨日のうちに持ち物の確認を済ませ、今日から山登りが始まる。
「おはようございます。シュアクーン様」
「おはよう、ラルクラート」
全員が食卓につくと同時に朝食が運ばれてくる。なんと朝食は全員が同じメニュー。なんと効率的。
「あっ、プリンがついてるッ!」
「やっぱりお子ちゃま」
「なんか言った!?クリソッカ」
「これは貴重な卵を使ったプリンなんです、と申しました」
いや絶対もっとセンテンス短かった!
「珍しい卵、というのは?」
僕に変なモノを食べさせたく無いフェジンが食いついた。あーあ、蘊蓄モード突入決定。
「僕の知るところによりますと……」
このプリンの材料はウブリアーコッコの卵。
ウブリアーコッコという鶏は首から上に羽毛は無くて、見た目はハゲタカよりも頭マルハゲ鳥。
クチバシはオレンジ色。
顔の部分が鶏冠や肉垂れを含め全部赤くて、雌も雄も鶏冠は極赤。顔や首、頭頂部には全て羽毛が無く禿げている。
首の付け根から下には白と黒の羽が生えていて、それは艶やかな黒い羽毛に点々と白いふがはいっている特徴的な模様となっている。エルフの里でのみ飼育されているとされる鶏。…クリソッカ談。
「へぇ、エルフの里特有の鶏なんだーー」
勇者アキクーン時代にこの宿に泊まり、そこに居た女の子、コルンに名物になれるかどうかはわからないけど、と教えたのはこの目の前のプリンと同じ蒸しプリン。
どうやらコルンはそれをなんとか名物に出来たようだ。蒸しプリンは少量ならフライパンを使ってもつくれるからね。
小さな陶器の食器と卵と砂糖と牛乳があれば出来る簡単プリン。この世界では冷やすよりも温める方がカンタンなのだ。
「今朝ほどはウチのウブリアーコッコがお騒がせしまして、本当に申し訳ございませんでした」
「大丈夫。別に怒っている人はいないよ?」
僕たちの会話を耳にして、声をかけてきた宿の主人が僕の言葉にホッとした表情を浮かべる。
「実は、エルフの里でのみ飼育されているというウブリアーコッコをウチで飼育に成功しまして。
そちらのプリンはその卵を使用しております。どうぞご賞味下さいませ」
「ありがとう、食後にいただくとします」
「それは美味しそうですね」
「ええ、楽しみです」
口々に楽しみだと答えるみんな。
────だのに。
「美味い!美味いよ、美味すぎる!濃厚な味わいと香り。こんなプリン初めて食べたよ」
自分の知識には無い“エルフの里の鶏の卵を使った料理の味”を我慢できずに朝ごはんそっちのけで真っ先に口に入れ大興奮のクリソッカ。
あまりのがっつきように飲み物のオーダーが無いか聞きにきた給仕さんがドン引きしている。
…え?僕は最後に食べるつもりだけど?あげないからねッ!こっち見ないでよ!クリソッカ!
どうやら単なる卵ではなく珍しい鶏の卵を使用することで僕の教えたプリンにさらに付加価値をつけたようだ。朝食を頼むと付いてくる小さなデザートにして。
「今朝ほどは、まことに大変失礼しました。あの騒ぎは一羽だけ居る雄鶏の仕業でして。宿の目指す“目覚まし”とは、本来なら小屋から適度な大きさで朝鳴きの鶏の声が聞こえてくるという清々しい感じなのですが……」
まだぺこぺこと頭を下げる宿の主人の話によるとあの朝鳴きを盛大にあげていたのは繁殖の為にと残してある一羽の雄鶏。
ソイツが毎朝逃げ出して早朝の目覚まし役を頼んでいないのにやっている。
この宿は大変古くから続く宿屋で、まだ勇者や聖女がたくさんいた頃の大昔のこの宿の主人のお孫さんがエルフの里から連れ帰ってきたのがウブリアーコッコの飼育の始まりなのだという。
今はエルフの里に行き帰りする予定の商人さんに頼んで仕入れてもらってひよこを手に入れたりしていて、ウブリアーコッコは雛でも気性が荒く雑食。
体が丈夫なので割と雑な扱いでも山越えに耐えられるんだそう。
流石に成獣は連れ帰るのが厳しい(大人しくしていないという意味で)のでひよこが手に入らない時には有精卵を仕入れてもらっているのだそうだ。
何羽も雄が生まれた時には若鶏の時点で絞めて客に出すのだとか。
勿論、自然に卵が孵る時もあるんだってさ。
宿の主人の口上商人の様な弁舌に耳を傾けているうちに僕らはあっという間に美味しい朝ごはんを食べ終わった。
つまり、アイツは己の強運でもって宿屋の皿に乗らずに、この宿屋の鶏小屋に君臨している雄ってことか。
僕らが宿を引き払った後も彼は思う存分朝鳴きをするんだろうな。
旅立つ僕らをわざわざ宿の外まで見送りに出てくれる宿の主人。
「朝はお騒がせ致しまして。是非またお立ち寄りください」
僕らは元から早起きする予定だったから別になんとも思っていないことを改めて宿の主人に伝えた。
「あの雄鶏は脱走の名人で……しかも何故か宿の中で一頻り長鳴きすると大人しく追い立てられるままに小屋の方まで戻っていくんですよ」
別れ際まで朝のドタバタ騒ぎを僕らに平身低頭謝罪する宿の主人。…アイツ脱走常習犯だったんだ。
「因みにウブリアーコッコの小屋はどちらに??」
横からヒョコっと首を突っ込むクリソッカ。
こら!是非鶏を見せてくれ!だなんて、そんな急に無理言っちゃいけません!!あ、フェジンに頭ゴチんとされた。…痛いンだよねーそれ。
そんなの見にいってる暇なんてない。
今日から身体強化魔法などを駆使して僕らは爆速で尾根を超えて、天気が崩れない内に山向こうのエルフの生活圏との境にある必ず通過しなくてはならないフセマテ平原に隣接する最後の町、イチワニワに辿り着きたいと思っているのだから。
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