164 / 230
過去と現在
52.かみかみお肉
しおりを挟むシリシシプと出会ったその翌日。
僕らは運良く山腹の小さな集落に辿り着き、一晩泊めてもらえる事になった。
そこでクリソッカはシリシシプ料理を振る舞ってもらえたんだ。
良かったね!味を知ることが出来て。
一般の人は、毒草を好んで喰むシリシシプの肉をすすんでは食べないが、ここは山間の小さな集落だ。わざわざ狙って狩ったりはしないが、罠にかかっていれば放したりせずに山に感謝して普通に食べるそうだ。
普段はハーブやスパイスを揉み込み塩蔵にして食べるんだけど、今回はなるべく獲れたて新鮮なヤツをとクリソッカのためだけに、罠に掛かっていたのをもらってきて調理してくれたそうな。
それでも、牛乳にしばらく漬けたり色々すりおろしたり潰したりした物を塗り込んだりして臭み抜きみたいなことはしていて、下ごしらえにはかなり手間がかかっていた。
アンテルーレが興味を持って下処理の見学を希望してやり方を細かくしっかり聞いていたよ。
「いただきます!」
僕の前には根菜と干し肉の煮込みが美味しそうな湯気をたてている。パンは固いけどそんなの汁に浸して食べればいいだけだ。
ん?僕らは普通のご飯をいただきましたよ?シリシシプを食べたのはクリソッカだけ。
思っていたよりもずっと不味いからと言って残すわけにもいかず。一応、食べ慣れないと難しいからと少量だけにしてはくれたんだけど。
いつまでもくちゃくちゃしててなかなか飲み込めなかったみたいね。
口を押さえてなんとか咀嚼して咀嚼して咀嚼して……も、飲み込めない。
いつまでも口の中にあるよりも早く飲み込んじゃったら?その方が楽なんじゃ??と思って視線だけで見ていたら、アンテルーレが横から小声で教えてくれたけど異物感が凄くて飲み込めないんだよ、だって。本当、どんな味なんだか。
そしてこっそりと、家人に見られない様にしてアンテルーレがべーっと舌を出す。ぅえーーって感じに。野外訓練の時にでも口にしたのかなあ、そんなに嫌いなんだシリシシプのお肉。
なかなか喉を通らないソレを大量の牛乳でなんとか流し込んでいたけれど、お腹は大丈夫だったろうか?
出立前によくしてもらったお礼にと、宿代代わりにカレー粉を渡した。それでシリシシプが少しは食べやすいものになれればいいのだけれど。
泊めてくれた家に別れを告げ、再び山道をへーこら登る。
休憩の時にはグリーンが気持ち良い風を送ってくれるし、ブルーが出してくれた水で顔を洗ったりもした。…帰ったらミストを出せるように訓練しようかな。
シリシシプを分けてくれたおじさんの話では、ここを少し登るともう少し大きな集落に行き着くのだという。
山に住む人の“少し”って信用出来ないような。そもそも僕らとは歩き方も進む速度も違うよね、多分。
僕はへこーらひーこら身体強化を駆使して教えてもらった山道を進んでいった。
早朝に出発し、足元が暗くなり始める頃。
僕らはシリシシプのおじさんの教えてくれた集落になんとか辿り着いた。…ほら、クリソッカ。あれが集落の灯火だよ?僕ら到着したんだよ?クリソッカ?生きてる?
ゼーゼーヒューヒュー。
呼吸音が聞こえるのみで返事が無い、しかし彼は生きているようだ。
集落の一番手間にある家の戸を叩く。
「すみません。どなたかいらっしやいますか?」
明かりが灯っているので誰かがいることには違いないから意訳すると“ごめんください、開けてください”って事だね。
玄関扉を叩くラルクラートを見てそんなどうでも良いことを考えているシュアクーン。…クリソッカはまだ口がきけないようだ。彼のライフは1くらいか?
中から物音がして、家の戸が開く。
「?どなたですか?」
女性だ。
扉が開かれるとすぐにラルクラートが喋り出す。今晩泊めて欲しいこと。食事を持ち物と物々交換で提供して欲しいこと。勿論、お金で支払う事もできるということ。
スラスラと出てくるのはこっちの要求ばかりなんだけど、相手に自分の話を聞かせる能力に長けているラルクラート。うーーん手慣れてる。
「おい、誰だったんだ?」
「あ、父さん。旅の人たちみたい」
これが勇者御一行だったなら、すぐに扉は大きく開かれて家の中に招かれる。しかし、今はそうでは無いから。
奥で父、母、娘の家族での話し合いが持たれ、僕らは泊めてもらえる事となった。
僕たちは居間のテーブルと椅子をずらしてもらって一部屋で雑魚寝をさせてもらえた。
ソファーでも有れば御の字。
でも雑魚寝でも外で寝ることを考えたら十二分だ。
翌日。
家の仕事や果樹畑の仕事を手伝って、僕らはすごした。
僕にはあまり仕事が無くて娘さんと話しながら一日家の中にいた。
「この辺は今では果樹を育てて生計を立てているけれどその昔は羊を育てて羊毛をとり、フェルトの生産もしてたらしいのよ?」
真っ白で、でも不思議な光沢のある糸を手繰り手を動かし、レース編みをしながら娘さんがここの生活について教えてくれる。
「でもね、山に住む魔獣が強くなっていって羊を守りきれなくなってきて、牧場と並行してやっていた果樹畑に力を入れるようになってったの」
うんうん。知ってるよ。
勇者アキクーン時代に来た時にはここら辺は牧畜が盛んだったもの。なだらかな斜面が多くて日当たりが良いんだよね?
「でも、それも魔鳥に荒らされるようになって……。ほとほと困り果ててしまってね、でも、ある時ここを訪れた旅商人からネストネットの巣を活用する知恵を授けてもらったの」
「ネストネットって森に生息する大蜘蛛だよね。
主に昆虫や鳥を捕食して、性質は大人しくこちらから巣を壊したり獲物を横取りしたりしない限りは何もしてこない」
ただ、気づかずに巣に引っかかってしまうと身動きが取れなくなって誰かが一緒なら助けて貰えるけどそうで無いと下手したらそのまま帰らぬ人に…ってくらい、強力な糸で巣を張るんだよね。
そんな様なのがうじゃうじゃいるからツルレンジャーたちを放して遊ばせる事ができなかったんだ。特に光り瞬くヤツと迷彩カラーのヤツは連んでどっかに行っちゃいそうだ。
「そうね、見た目と違って実際大人しいのよ?
えっとそれでね、それからネストネットの巣を利用して防鳥して、」
そうしたら格段に鳥から特に魔鳥からの被害が減り目に見えて収穫量が増えた。
定期的に山向こうと往復している商人を通じて収穫した果実を麓の宿屋で買ってもらえる様になって。
その果実は他の商人が買い付けにくるくらい良い出来で、魔鳥からも守られて収穫量がその後ぐんと増えて集落は潤うこととなる。
「でも、受粉が大変じゃない?」
ネストネットは虫を捕食する。
だから蜂など虫を使った受粉は出来ないと思うんだけど。
僕が知っている方法は風に任せる、蜂に頼る、人が花粉をめしべに手作業でつける、たくさんの花粉をばら撒く、水に溶かして噴霧器などで吹きかける。しかも、一度では無く何度か受粉させる必要がある。受粉していなければ結実しないから。
天候にも左右されるお仕事でとても大変だ。…雨が降ると折角の花粉が流されちゃうみたい。
専用の機器が有れば楽だろうけどここでは魔法などでやっているのだろうか?
あと、自家不結実性の品種があって、そういう品種は受粉樹となる他の品種を混在して植えてるはず。
家でりんごの木を植えて毎年たくさんアップルパイ食べよう!って思って調べたんだ。僕、その時ミニトマトを育ててて、りんごも簡単に育てられる!!って思ってたんだよね。…浅はかだった僕。
全部アサガオみたいに自前で自家受粉してくれれば楽なのにね。イチジクみたいに勝手に結実してくれるともっと楽。
受粉が全部手作業だとしたらものすごく大変だろうな。
「そこはね、ハナムグクモに助けてもらうの」
そっかーー、蜂じゃ無くて蜘蛛を使うのかーー。
ハナムグクモは花の蜜が好物だから蜂と同じ役割をするんだろうね。…蜂と違って蜂蜜はとれないだろうけど。
それに風に乗って移動するくらいに小さな蜘蛛だから、ネストネットの捕食対象にはなり得ない。
シュアクーンは春、花満開の庭で風に乗って飛んでくるすごく小さな蜘蛛を思い起こした。
「お花を眺めててさ、なんか顔痒い!って思うとハナムグクモがついてたりするんだよね」
なんだか頬が痒くなり無意識にぽりぽりしてしまうシュアクーンにクスクスと笑い声をたてる娘さん。
「ふーー、少し休憩しようかしら。シュアクーンも一緒におやつ食べましょう?」
「うん!ありがとうお姉さん!」
大きくてまあるい綺麗なレース編みを一つ編み終えて端処理をし、娘さんは一旦休憩をとることにした。
娘さんはドナダミの葉を煎じた癖の強いお茶を淹れて、固く焼き締めたクッキーを用意してくれた。…孤児院で食べた僕の歯に勝ったアレよりは固くない。
後日。山の高い場所から果樹畑を見たけど、斜面に陽が当たり木になった実がキラキラと輝いて見えた。実にお日様を当てるのにある程度の葉を落とすんだとか。
そして、キラキラしていたのは果実だけじゃ無くて、防鳥用のネットの様に張り巡らされたネストネットの糸もふんわり風をはらみながら光を反射して揺れていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる