ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜

いくしろ仄

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過去と現在

52.かみかみお肉

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シリシシプと出会ったその翌日。

僕らは運良く山腹の小さな集落に辿り着き、一晩泊めてもらえる事になった。

そこでクリソッカはシリシシプ料理を振る舞ってもらえたんだ。
良かったね!味を知ることが出来て。


一般の人は、毒草を好んで喰むシリシシプの肉をすすんでは食べないが、ここは山間の小さな集落だ。わざわざ狙って狩ったりはしないが、罠にかかっていれば放したりせずに山に感謝して普通に食べるそうだ。

普段はハーブやスパイスを揉み込み塩蔵にして食べるんだけど、今回はなるべく獲れたて新鮮なヤツをとクリソッカのためだけに、罠に掛かっていたのをもらってきて調理してくれたそうな。

それでも、牛乳にしばらく漬けたり色々すりおろしたり潰したりした物を塗り込んだりして臭み抜きみたいなことはしていて、下ごしらえにはかなり手間がかかっていた。
アンテルーレが興味を持って下処理の見学を希望してやり方を細かくしっかり聞いていたよ。



「いただきます!」

僕の前には根菜と干し肉の煮込みが美味しそうな湯気をたてている。パンは固いけどそんなの汁に浸して食べればいいだけだ。

ん?僕らは普通のご飯をいただきましたよ?シリシシプを食べたのはクリソッカだけ。
思っていたよりもずっと不味いからと言って残すわけにもいかず。一応、食べ慣れないと難しいからと少量だけにしてはくれたんだけど。

いつまでもくちゃくちゃしててなかなか飲み込めなかったみたいね。


口を押さえてなんとか咀嚼して咀嚼して咀嚼して……も、飲み込めない。
いつまでも口の中にあるよりも早く飲み込んじゃったら?その方が楽なんじゃ??と思って視線だけで見ていたら、アンテルーレが横から小声で教えてくれたけど異物感が凄くて飲み込めないんだよ、だって。本当、どんな味なんだか。

そしてこっそりと、家人に見られない様にしてアンテルーレがべーっと舌を出す。ぅえーーって感じに。野外訓練の時にでも口にしたのかなあ、そんなに嫌いなんだシリシシプのお肉。

なかなか喉を通らないソレを大量の牛乳でなんとか流し込んでいたけれど、お腹は大丈夫だったろうか?

出立前によくしてもらったお礼にと、宿代代わりにカレー粉を渡した。それでシリシシプが少しは食べやすいものになれればいいのだけれど。



泊めてくれた家に別れを告げ、再び山道をへーこら登る。
休憩の時にはグリーンが気持ち良い風を送ってくれるし、ブルーが出してくれた水で顔を洗ったりもした。…帰ったらミストを出せるように訓練しようかな。


シリシシプを分けてくれたおじさんの話では、ここを少し登るともう少し大きな集落に行き着くのだという。

山に住む人の“少し”って信用出来ないような。そもそも僕らとは歩き方も進む速度も違うよね、多分。
僕はへこーらひーこら身体強化を駆使して教えてもらった山道を進んでいった。



早朝に出発し、足元が暗くなり始める頃。
僕らはシリシシプのおじさんの教えてくれた集落になんとか辿り着いた。…ほら、クリソッカ。あれが集落の灯火だよ?僕ら到着したんだよ?クリソッカ?生きてる?

ゼーゼーヒューヒュー。
呼吸音が聞こえるのみで返事が無い、しかし彼は生きているようだ。


集落の一番手間にある家の戸を叩く。

「すみません。どなたかいらっしやいますか?」

明かりが灯っているので誰かがいることには違いないから意訳すると“ごめんください、開けてください”って事だね。
玄関扉を叩くラルクラートを見てそんなどうでも良いことを考えているシュアクーン。…クリソッカはまだ口がきけないようだ。彼のライフは1くらいか?


中から物音がして、家の戸が開く。

「?どなたですか?」

女性だ。

扉が開かれるとすぐにラルクラートが喋り出す。今晩泊めて欲しいこと。食事を持ち物と物々交換で提供して欲しいこと。勿論、お金で支払う事もできるということ。

スラスラと出てくるのはこっちの要求ばかりなんだけど、相手に自分の話を聞かせる能力に長けているラルクラート。うーーん手慣れてる。


「おい、誰だったんだ?」

「あ、父さん。旅の人たちみたい」

これが勇者御一行だったなら、すぐに扉は大きく開かれて家の中に招かれる。しかし、今はそうでは無いから。

奥で父、母、娘の家族での話し合いが持たれ、僕らは泊めてもらえる事となった。

僕たちは居間のテーブルと椅子をずらしてもらって一部屋で雑魚寝をさせてもらえた。
ソファーでも有れば御の字。
でも雑魚寝でも外で寝ることを考えたら十二分だ。




翌日。
家の仕事や果樹畑の仕事を手伝って、僕らはすごした。

僕にはあまり仕事が無くて娘さんと話しながら一日家の中にいた。


「この辺は今では果樹を育てて生計を立てているけれどその昔は羊を育てて羊毛をとり、フェルトの生産もしてたらしいのよ?」

真っ白で、でも不思議な光沢のある糸を手繰り手を動かし、レース編みをしながら娘さんがここの生活について教えてくれる。


「でもね、山に住む魔獣が強くなっていって羊を守りきれなくなってきて、牧場と並行してやっていた果樹畑に力を入れるようになってったの」

うんうん。知ってるよ。
勇者アキクーン時代に来た時にはここら辺は牧畜が盛んだったもの。なだらかな斜面が多くて日当たりが良いんだよね?


「でも、それも魔鳥に荒らされるようになって……。ほとほと困り果ててしまってね、でも、ある時ここを訪れた旅商人からネストネットの巣を活用する知恵を授けてもらったの」

「ネストネットって森に生息する大蜘蛛だよね。
主に昆虫や鳥を捕食して、性質は大人しくこちらから巣を壊したり獲物を横取りしたりしない限りは何もしてこない」

ただ、気づかずに巣に引っかかってしまうと身動きが取れなくなって誰かが一緒なら助けて貰えるけどそうで無いと下手したらそのまま帰らぬ人に…ってくらい、強力な糸で巣を張るんだよね。

そんな様なのがうじゃうじゃいるからツルレンジャーたちを放して遊ばせる事ができなかったんだ。特に光り瞬くヤツと迷彩カラーのヤツは連んでどっかに行っちゃいそうだ。


「そうね、見た目と違って実際大人しいのよ?
えっとそれでね、それからネストネットの巣を利用して防鳥して、」

そうしたら格段に鳥から特に魔鳥からの被害が減り目に見えて収穫量が増えた。

定期的に山向こうと往復している商人を通じて収穫した果実を麓の宿屋で買ってもらえる様になって。
その果実は他の商人が買い付けにくるくらい良い出来で、魔鳥からも守られて収穫量がその後ぐんと増えて集落は潤うこととなる。



「でも、受粉が大変じゃない?」

ネストネットは虫を捕食する。
だから蜂など虫を使った受粉は出来ないと思うんだけど。

僕が知っている方法は風に任せる、蜂に頼る、人が花粉をめしべに手作業でつける、たくさんの花粉をばら撒く、水に溶かして噴霧器などで吹きかける。しかも、一度では無く何度か受粉させる必要がある。受粉していなければ結実しないから。

天候にも左右されるお仕事でとても大変だ。…雨が降ると折角の花粉が流されちゃうみたい。
専用の機器が有れば楽だろうけどここでは魔法などでやっているのだろうか?

あと、自家不結実性の品種があって、そういう品種は受粉樹となる他の品種を混在して植えてるはず。

家でりんごの木を植えて毎年たくさんアップルパイ食べよう!って思って調べたんだ。僕、その時ミニトマトを育ててて、りんごも簡単に育てられる!!って思ってたんだよね。…浅はかだった僕。

全部アサガオみたいに自前で自家受粉してくれれば楽なのにね。イチジクみたいに勝手に結実してくれるともっと楽。

受粉が全部手作業だとしたらものすごく大変だろうな。



「そこはね、ハナムグクモに助けてもらうの」

そっかーー、蜂じゃ無くて蜘蛛を使うのかーー。
ハナムグクモは花の蜜が好物だから蜂と同じ役割をするんだろうね。…蜂と違って蜂蜜はとれないだろうけど。
それに風に乗って移動するくらいに小さな蜘蛛だから、ネストネットの捕食対象にはなり得ない。

シュアクーンは春、花満開の庭で風に乗って飛んでくるすごく小さな蜘蛛を思い起こした。


「お花を眺めててさ、なんか顔痒い!って思うとハナムグクモがついてたりするんだよね」

なんだか頬が痒くなり無意識にぽりぽりしてしまうシュアクーンにクスクスと笑い声をたてる娘さん。


「ふーー、少し休憩しようかしら。シュアクーンも一緒におやつ食べましょう?」

「うん!ありがとうお姉さん!」

大きくてまあるい綺麗なレース編みを一つ編み終えて端処理をし、娘さんは一旦休憩をとることにした。

娘さんはドナダミの葉を煎じた癖の強いお茶を淹れて、固く焼き締めたクッキーを用意してくれた。…孤児院で食べた僕の歯に勝ったアレよりは固くない。





後日。山の高い場所から果樹畑を見たけど、斜面に陽が当たり木になった実がキラキラと輝いて見えた。実にお日様を当てるのにある程度の葉を落とすんだとか。

そして、キラキラしていたのは果実だけじゃ無くて、防鳥用のネットの様に張り巡らされたネストネットの糸もふんわり風をはらみながら光を反射して揺れていた。




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