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過去と現在
58. きのこのこのこゲンキンなこ
しおりを挟む僕が勇者アキクーンだった時にはフセマテ平原に飛び兎なんていなかった。
ところが今では大量発生中らしい。
ここ、イチワニワの町ではその飛び兎の毛皮を使った剥製やぬいぐるみで商売しているようだ。
勿論、毛皮そのものも取引されている。
なので当たり前ながら、毛皮のその中身は住民たちの日々の食卓にのぼり人々の胃袋を満たしている。
この町では兎の肉は家畜の肉と同じに食べられている。
肉屋に行けば部位ごとに分けられた兎のお肉が売られているのが見ることが出来る。
と、なれば当然。
「ぃらっしゃい!ウチの飛び兎の串焼きはウマイよっ!」
「お兄さん!二本ちょうだい!」
お兄さんの勢いに負けじと声を張る僕。さっきからジュージューと焼ける肉の芳ばしい匂いが漂ってきて気になって気になって。
「おう、坊主、あんがとな!辛いのと甘いのがあるが、甘いの二本にしとくか?」
僕は甘いのと辛いのと一本ずつお願いした。もし辛すぎて食べられなかったら宿にいるアンテルーレにあげちゃうもんねっ。
その後も、飛び兎の耳の壺煮、飛び兎の肉団子の餡掛け、豚まんならぬ兎まん、豚汁ならぬ兎汁を満喫。今はスパイシーなモモ肉に齧り付いている最中だ。
「だーれも正式名称?のレプコルラビって呼んで無いね」
「そうですね。でも、地元ってそんなもんですからね」
そうだね。地走り鳥だって正式名称が種類ごとに付けられているけれど、ぜーーんぶひっくるめて“地走り鳥”で済ませてるもんね。
僕らはひとまわりした後、宿に戻った。ん?当然、夕食にはツノをくれたオヤジさんおすすめの兎のスープを食べるつもり!楽しみだなぁ!!
「ですから!今しか食べられないのですっ!!」
泊まり客の部屋が並ぶ廊下にクリソッカの声が響いている。…傍迷惑な奴。
そのせいで部屋はすぐにわかったのでラルクラートが部屋の扉を軽く叩いて声をかける。
「何を揉めているのですか?フェジン?」
すぐに扉は開かれ、中には三人が二対一の構図で立っていた。二の方がフェジンとアンテルーレ。一の方がクリソッカだ。
部屋の奥に興奮しながら立っていたクリソッカがまた大声で喚く。
「ですから今!今しか無いのですッ」
「何をそんなに興奮しているのさ、外まで聞こえてたよ?」
あまりの声にツルレンジャーたちもポケットから首を長く伸ばして出して何事か?とクリソッカを見ているよ。
宿に戻るとクリソッカが駄々を捏ねていた。嫌味ならよく耳にしてきたけど、駄々を捏ねるとは珍しい。
「あのですねっ“八畳敷”というお店には魔王を倒したと女神がおっしゃられたという勇者アキクーンが食べた五宝キノコ汁がッ!今でも勇者と同じものを味わう事が出来るのですよッ!」
コレが行かずにおれますか!?と熱く語るクリソッカ。そりゃあ僕もこの旅の中で僕(勇者アキクーン)の足跡を辿りたいと思ってはいたけどさ、どうせならって。
でもクリソッカが勇者アキクーンファンだったなんてびっくりだ。
「今までも勇者アキクーンが食したと云われる物は全部美味しかったんです!なら五宝キノコ汁も美味しいに違いありませんッ!そして、勇者アキクーンの話が出るたびに!その度に僕は食したことを自慢したいのですっ!」
────あ、どうやらファンとは少し違うみたい。
こんな機会は二度と無い!と騒ぎ立ててるクリソッカ。
めんどくさくなってきた大人三人は夕食を“八畳敷”に食べに行くことにした。
あーー、僕の兎のスープがぁ……ツノをくれたオヤジさんのおすすめを僕、今日は食べられないみたいです。
やってきました食堂“八畳敷”。
“八畳敷”はその昔、大勢の勇者も泊まった宿屋で現在は食堂をやっている。
その触れ込み通りに壁にはたくさんの勇者のサイン。
その中で勇者アキクーンのサイン色紙が一等上に豪奢な額縁に収められて飾られていた。…キタナイ字が恥ずかしい。なんで僕は店の壁にサインを飾るだなんて事を思いついてしまったのだろうか。
過去の所業がブーメランとなって時空を超えて後頭部に突き刺さる。今、僕はそんな気持ち。
「さ!皆さん、食事を頼みましょう」
めっちゃ張り切っているクリソッカ。クリソッカの声の大きさに店の息子だという男の子が早速注文を取りに来てくれ、五宝キノコ汁が目当てと知ると如何に五宝キノコ汁が素晴らしいか慣れた口調で説明してくれた。
僕はテーブル上に、テンション高すぎるクリソッカが気になってずっとソワソワしているツルレンジャーたちを出してやった。
僕の見ているメニューを一緒になって見ているけど、君たち字は読めるのかい??
食事事情といえば。
この旅の中で散々体験してきた野営では、食糧を現地調達して食事を豊かにするという方法がある。
森の恵みをいただいたり、近くの民家から買い取ったり。
振り返って。
実は女神の与えた勇者の基本能力も万能ではない。
他の勇者のことは知らんが僕の毒耐性は、悪意の毒は弾くが悪意がなければ弾かない。
そうしないと人の作ったポーションとか薬とかが効かなくなっちゃうから。
だから調理した人に善意のかたまりしかない場合の毒キノコ混入にはよく腹をやられた。
ピーピーのピーだぜ。
なので。
ちょっと人間とは生活様式の違うエルフが常食しているモノの中に我々に毒となるモノがあった場合はたとえ勇者でもやられてしまう。というか、実際勇者アキクーンのときにはやられていた。
「ましてや今はただの王子様。自動抵抗なんてあるわけがない」
だから僕は食事の時にはタドット謹製のお箸をつかう。少しでも危険を避けたいから。
「さあ!お待ちかねの五宝キノコ汁ですよ!皆さん、ご賞味あれ!!」
ささどうぞどうぞとクリソッカが勧めるのに、いやお前が作ったんじゃ無いだろと突っ込みながらも箸を進める。
五宝キノコ汁は二種類あってどちらも五種のキノコが入ってるんだけど、僕はキキクラゲが苦手なのでそれが入っていない方にした。…だって人の耳そっくりの形してるんだもの。
はっちゃけクリソッカのフィーバーは続いた。なんと彼は二種類をふた椀ずつ、合計四杯も腹に収めたのだ。
食べた物自慢したいならさあ、他のここにしか無い物を食べても自慢できると思うんだけど?例えば兎のスープとか!
アンテルーレと僕がデザートのとんがりんごパイをちまちま堪能している時にクリソッカが腹を押さえて椅子から転げ落ちた。驚いて見ると脂汗を流してウンウン唸っている。
椅子の倒れる音に店中の客たちが一斉に振り向き、他の客にご飯を運んでいた店の息子が駆け寄ってきた。
「あー、ねー、たまーーに当たる人がいるんです。極々たまーーに!決して毒キノコが混入してたなんてことは無いですから!!その証拠に同じ物を食べた皆さんは何とも無いでしょ!?お腹を抱えている人の体質が合わなかっただけなんですよ!!」
美容に良い!健康に良い!なのに味も良い!良いこと尽くし!!と散々五宝キノコ汁をアゲ褒め散らかし勧めておいてそんなことを言い出す食堂の坊ちゃん。…稀にある事なら予め客に伝えとけコラ。
ともあれ確かに僕たち、クリソッカ以外はなんとも無い。
キノコといば繊維質。もしや溜まっていたモノが……、コホンお通じが良くなり過ぎただけ疑惑もなくは無い。…だって彼、またトイレと友情深めてるし。
カレーで壊し牛乳で壊し。
キノコをたくさん食べて壊れたクリソッカの腹。
そんなことはどこ吹く風とばかりに他のデザートを、弁明に必死な店の坊ちゃんに頼んでいるアンテルーレが平然と一言。
「ま、普段から良いモノしか口にしてこなかったのでしょうね」
なんでみんなして僕のこと見るの?僕はほら、露店の食べ物小さな頃から食べてたからだよ?
ちゃんとお城でイイモノ食べさせてもらってたよ!?僕、王子だよ!?!
ね?ツルレンジャー!?なんで一緒になってこっち見ンのさ!
やっと戻ってきたクリソッカは心なしか身体の水分が失われ頬がコケた気がする。
席に着いたクリソッカに気がついた店の息子が腹痛の薬と水を持ってきてくれた。大変気の利くお子様である。“八畳敷”の将来は安泰だな。
そして店を出る時、代金に薬代もしっかり入っていた。何なら相場よりも少し高めに。
「ありがとうございましたぁ!またのお立ち寄り、お待ちしてまーーす!!」
昔泊まった宿屋の子孫はしっかりちゃっかりゲンキンなゲンキな子だった。
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