ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜

いくしろ仄

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過去と現在

69.様子のおかしいクリソッカ

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本日より三日間。
いくつか協議がなされる予定。
その後購入した荷物を積み込み諸々の調印を済ませ、五日目には国への帰路に着く。…見込みだ。



これからエルフたちとのお話し合い。

広ーいお部屋の長ーーいテーブルを挟んで向かい合うエルフと使節団の人間たち

それとは別に後ろに三つ用意されたテーブルの一つに座る僕は、人の頭越しにエルフ側をじっと見つめていた。


あそこでふんぞり返っている偉そうな爺さまも見かけだけ。
中身は若造かもしれない。

あの紅茶を淹れている落ち着いた雰囲気のオネエさんの中身は実はかなり年嵩のエルフなのかも。


エルフの木偶を操る魔法。
魔法体系としてはゴーレムを創り出しそれを動かすのに酷似している。魔力のパスが繋がっているようだから、多分そのような感じだろう。
でもゴーレムは国を跨ぐほど遠い場所ではパスが切れて動けなくなってしまう。…というか、操る人が視認出来ない状態では上手く動かすのはほぼ無理だと思うんだ。

でも、木偶エルフのその本体はエルフの領地にある。
しかも操っている木偶は旅をするしどこまでも離れても平気。
うーーーーん………。

そこで、僕の頭に一筋の閃きが!!!

《驚愕の事実!!耳長族の耳は受信器だった!?》…なーんて見出しの新聞の紙面が脳内を掠める。

そう、アレは受信器。

そしてあの可愛いアホ毛はそれを更に向上させるために(エルフにとって)近年開発されたものに違いない!
アホ毛がある木偶はきっと新しい個体に違いないのだ!そしてそれがある事によってより操作性が増した……!?


僕はその閃きが、どっかに飛んで消えてしまわない内に持ってきていた紙に素早く書き付ける。国に戻ったらタドットにその思いつきを披露するのだ。

カリカリと書き留める僕のメモを盗み見て隣で遠い目をしている腹心、フェジン。

今朝、団長にハエマスクを届けようとした時にもそんな顔しながら僕のこと止めてたよね?
だって対エルフ用ガスマスクC-Zは最善の対策なんだよ!?団長が骨抜きにされたら交渉事困るでしょお?!!





「────それでですね、お話し合いに入る前に、緊張を和らげるための余興を一つ、こちらでご用意いたしました」

長老の背後のテーブルに座っていた若いエルフが立ち上がって挨拶を始めた。…ん?あ、このエルフ昨日の宴で団長秘書のピアンに給仕していた人だ。


「私、テッセンと申します。どうぞ皆さまお見知りおきを」

軽く礼をとったのち、長老の脇のスペースに進み出てテーブルの上に筒状の何かを二本入ったカゴを置いたテッセン。


「こちらはエルフに伝わる古の魔道具です。
なんとですねっ!ここに熱い飲み物を入れておけば熱いままで。冷たい物を入れておけば冷たいままで保存されるのです!」

カゴの中の一本を高く掲げて見せるテッセン。


「しかもこれはエルフ以外には扱えません。エルフの魔力でのみ動くのです!」

……なんだ?その選ばれし民ムーブ。

ざわざわと。
「マジックバック、か?」
「それは素晴らしい!」
「私たちにも欲しいな」
「あれくらいなら持ち運びも出来そうだな」
などと、人間側から声が上がる。



「さ、フヨウ。ここにその熱い紅茶を注いでくれ」

さっき僕が見ていた落ち着いた雰囲気のオネエさんが湯気の立つお茶をピンクのボトルに注ぎ入れる。

「ボタンも。こちらに冷たい飲み物を入れて?」

楚々としたオネエさんが進みでて水色の筒の蓋を開ける。
カランカランと氷を筒の中に入れ更にそこに冷水を注ぎ入れる様子を満足気に眺める美麗な若いエルフ、テッセン。


「二人ともどうもありがとう。
さてさて、この二本の筒。今日の話し合い終了の後、皆さんに私の言葉が本当かどうか見ていただきましょう」

そう言ってテーブル上のカゴに二本の筒を置いて後ろに下がる。





まあ、それって多分アレだよな。

そのピンクと水色の筒に心当たりがある僕は無邪気なフリして筒を見せてもらうことを画策。…僕!好奇心旺盛な子供!だから!!


「ねぇ、僕それちょっと見てみたい!触ってみてもいいかな」

わざとガタリ!と大きな音を立てて立ち上がり許可の声も聞かずに前方に突進した。
ホント子供っていいよねー。


団長の隣からテーブルに身を乗り出して手を伸ばす。

もうちょいで届かなかったけど、意外なことにエルフの長老、ザクロが僕の手の届く様にこちらにカゴを押しやってくれた。
……団長は事前に木偶エルフの情報をもたらした僕のことを信頼してただ黙って成り行きを見ている。


エルフがこれみよがしに出してきた二本の筒。
古の魔道具……???
え?真空ボトル、だよね?
遠足とか夏の暑い時期に散々お世話になったアレ。魔法瓶。



「あれれぇー?おかしいよぉ?ぜんっぜん魔力を感じないなあ??」

「そういえば…、シュアクーン様は魔法省のタドットに師事しておりましたな。シュアクーン様はエルフの魔力も解ると?
して今の言葉は一体どういうことですか?」

僕のわざとらしーぃ言い様に団長が上手く絡んできてくれる。


「これは“魔術具”では無いってことだね!!」

エッヘン!!と胸を張って主張する。そのあと僕は真空ボトルの説明をした。
作成技術は素晴らしいと思うが、魔力を必要としない仕組みなんだと。
その場に並み居る使節団の皆々様は全員すぐに理解してくれた。…さすがエリート集団、腐っても鯛。


エルフの長老の隣のオジサンが苦虫を口内で潰した様な顔をしてこっちを睨んでいるが知ったことか。
魔力の流れを見れない人間を騙して悦にいるだなんてエルフのエリートは性格に難がありすぎる様だね。
僕のせいでエルフは優秀!選ばれた民!という雰囲気マウント取りはあえなく失敗。

その後、場を騒がせた僕は早々に引っ込められた。
どうせ“王子”という単なるお飾りなんだし、僕がそこに居ても閃きをメモする事以外に何もする事ないから別に良いんだけど!




▫️▫️□▫️□▫️


初日の話し合いの場に挑む前から。

エルフの魅了にヤラレた人間は全員モレナクエルフのやることなす事に感嘆の声をあげて賞賛を連発していた。
酷いと“媚びている”と言っても良いような有様だと、団長より情報が入ってきている。

では、エルフの魅了にヤラレた人間は元には戻れないのか?
それもちゃんと調べておいた。
心身に衝撃を与えることにより、覚醒することがある。…んだってさ。


どこぞの鬼娘みたく雷魔法で電撃を喰らわせる。だとか、10tハンマーで殴られる、だとかね。
中には婚約者が自分の親友と結婚すると聞かされた、なんてのもあった。
そいつは某国の王子様で、婚約者というのは召喚されてきた聖女だったんだけど。肝が潰れるくらいに驚いたから、エルフの魅了から目を覚ませたんだろうね、この王子様は。


他にも色々調べてみてわかった事はある。

エルフ領を出て世界に散らばったエルフたちは、聖女の世界の植物を持ち帰る使命があったらしいね。
考えてみれば、そうでもないと貴重な木偶を使わせてはもらえない。それは至極当然のことなのかも。


“匂い立つような”とか“むしゃぶりつきたくなるような”とか。
本で読んだ文章が自然と思い出されてくる、そんな姿をしているのがエルフという種族。…それが一般的な人間からの認識。

────でもね。
僕はもう真実を知っている。
中の人がどのくらいお年をお召しになられていらっしゃるかがわかんないんですよ?
長命なことは長命なんですけど、結局何千何万歳も生きるなんてことはなく、入れ物が同じなだけで中の人は入れ替わっているんです。

外見はゴージャス美人。
姿は細マッチョなイケメン。
どちらにしても、しかしてその実態は……。
部屋に戻る廊下を歩みながら、ぷるぷるっと身を震わせる。


話し合いの場からの退場を余儀なくされて戻ってきたシュアクーンだったが、彼の部屋では異変が起きていた。


「あれ?クリソッカ?」

目の前で手を振ってみてもぼーーっとして反応がない。
それが再びの木偶エルフによる悪夢だった。


「ソイツはな、素敵なイヤリングだとか何とか褒められてシュアクーン様から絶対外すなと厳命を受けていたにも関わらず、エルフの娘に耳から外してイヤリングを見せてやっていたからねぇ」

えーー!?アンテルーレぇ?見てたんなら止めてよーー。


「クリソッカはそこから段々と様子がおかしくなっていきました」

目がとろんとし、蘊蓄を垂れていた得意げな顔がだらしくなく弛み身体を擦り寄せられ手を握られしな垂れかかられても、それを振り解こうとする様子もない。


「なのでそれを具に観察し、私はシュアクーン様のお言付けをしっかり守ろうと再度心に固く誓ったのです」

えーー?フェジン。そんなどうなっちゃうのかなんて観察してないでそこは割って入ってでも止めて欲しかったよぉ。

さすがシュアクーン様!と持ち上げているフェジンを置いといて、クリソッカにもう一度声をかけてみる。


「なんですかぁ?シュアクーン様ぁ」

うん。返事はある。まだ屍とは化していないようだ。
しかし、接触が濃厚となればなるほど他が目に入らなくなって意識が持っていかれるだろう。あの時の僕、勇者アキクーンのように。



「えーっとねぇ、僕の貸したイヤリングどうしたの?身につけていないみたいだけど?」

「……あぁぁ。ホウセンカちゃんが欲しいと強請りゅので、エルフの国の蔵書三冊とぉ交換する約束でやってしまました」

どうせ予備、持ってるんでしょう?と宣うクリソッカに呆れてしまう。まあ実際、僕たちの分くらいの予備はあるんだけどね。

信頼されているのか馬鹿にされているのか微妙な気分で僕は予備のイヤリングをクリソッカへと渡した。


「どぅも。ありがとごじゃます」

「次、それ耳から取ったらクリソッカはエルフの国においてくからねっ!!」

悪びれもせず予備のイヤリングを受け取り耳につけるクリソッカにビシっと宣言する。
エルフに洗脳された状態のクリソッカと帰りの旅路で寝食を共にするだなんて自殺行為だ。


「クリソッカは、これでまた借金が増えましたね」

フェジンの声に動きを止め大きく目を見開くクリソッカ。瞳には正気と生気の光が……あれ?エルフの魅了解けた??


「なっなっなっんでふえるんですかっ……」

「当たり前だろうが。備品は貸与されているのだから、無くしたら弁償が基本だろう?」

アンテルーレがクリソッカへと追い討ちをかける。


「当然でしょう。材料費や何やらがかかっていないわけがありません」

フェジンのトドメの一言に、胸を押さえて蹲って呻いているクリソッカを床に放置したまま、お茶を飲んで僕らが一息入れていたら。


「シュアクーン様。今日の話し合いは一旦終了ということで」

ラルクラートが帰ってきた。

双方の協議の場に最後まで参加していたラルクラートの話では。

会議の最後にその二つの筒の中の飲み物が数人に振る舞われ、飲んで確かめている間に語られる若いエルフ、テッセンの話に使節団のみんなは感心しきりで唸ったり褒めたり羨ましがったりしていたと。

ええーー、真空さえ作り出せれば僕でも出来る仕組みのモノなのになあ。


「馬鹿にされてばっかりじゃあナンだから、こっちもちょっとしたモノを用意しちゃおうかな」

僕は使節団内の協議には参加しない。要は少々暇を持て余しているのだ。



今日は互いの希望を示して合意出来るモノは即合意。それ以外は午後に各陣営で協議される。

明日の場ではもっと詰めた話し合いがされる。
僕の出番はその時だ。







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