181 / 230
過去と現在
69.様子のおかしいクリソッカ
しおりを挟む本日より三日間。
いくつか協議がなされる予定。
その後購入した荷物を積み込み諸々の調印を済ませ、五日目には国への帰路に着く。…見込みだ。
これからエルフたちとのお話し合い。
広ーいお部屋の長ーーいテーブルを挟んで向かい合うエルフと使節団の人間たち
それとは別に後ろに三つ用意されたテーブルの一つに座る僕は、人の頭越しにエルフ側をじっと見つめていた。
あそこでふんぞり返っている偉そうな爺さまも見かけだけ。
中身は若造かもしれない。
あの紅茶を淹れている落ち着いた雰囲気のオネエさんの中身は実はかなり年嵩のエルフなのかも。
エルフの木偶を操る魔法。
魔法体系としてはゴーレムを創り出しそれを動かすのに酷似している。魔力のパスが繋がっているようだから、多分そのような感じだろう。
でもゴーレムは国を跨ぐほど遠い場所ではパスが切れて動けなくなってしまう。…というか、操る人が視認出来ない状態では上手く動かすのはほぼ無理だと思うんだ。
でも、木偶エルフのその本体はエルフの領地にある。
しかも操っている木偶は旅をするしどこまでも離れても平気。
うーーーーん………。
そこで、僕の頭に一筋の閃きが!!!
《驚愕の事実!!耳長族の耳は受信器だった!?》…なーんて見出しの新聞の紙面が脳内を掠める。
そう、アレは受信器。
そしてあの可愛いアホ毛はそれを更に向上させるために(エルフにとって)近年開発されたものに違いない!
アホ毛がある木偶はきっと新しい個体に違いないのだ!そしてそれがある事によってより操作性が増した……!?
僕はその閃きが、どっかに飛んで消えてしまわない内に持ってきていた紙に素早く書き付ける。国に戻ったらタドットにその思いつきを披露するのだ。
カリカリと書き留める僕のメモを盗み見て隣で遠い目をしている腹心、フェジン。
今朝、団長にハエマスクを届けようとした時にもそんな顔しながら僕のこと止めてたよね?
だって対エルフ用ガスマスクC-Zは最善の対策なんだよ!?団長が骨抜きにされたら交渉事困るでしょお?!!
「────それでですね、お話し合いに入る前に、緊張を和らげるための余興を一つ、こちらでご用意いたしました」
長老の背後のテーブルに座っていた若いエルフが立ち上がって挨拶を始めた。…ん?あ、このエルフ昨日の宴で団長秘書のピアンに給仕していた人だ。
「私、テッセンと申します。どうぞ皆さまお見知りおきを」
軽く礼をとったのち、長老の脇のスペースに進み出てテーブルの上に筒状の何かを二本入ったカゴを置いたテッセン。
「こちらはエルフに伝わる古の魔道具です。
なんとですねっ!ここに熱い飲み物を入れておけば熱いままで。冷たい物を入れておけば冷たいままで保存されるのです!」
カゴの中の一本を高く掲げて見せるテッセン。
「しかもこれはエルフ以外には扱えません。エルフの魔力でのみ動くのです!」
……なんだ?その選ばれし民ムーブ。
ざわざわと。
「マジックバック、か?」
「それは素晴らしい!」
「私たちにも欲しいな」
「あれくらいなら持ち運びも出来そうだな」
などと、人間側から声が上がる。
「さ、フヨウ。ここにその熱い紅茶を注いでくれ」
さっき僕が見ていた落ち着いた雰囲気のオネエさんが湯気の立つお茶をピンクのボトルに注ぎ入れる。
「ボタンも。こちらに冷たい飲み物を入れて?」
楚々としたオネエさんが進みでて水色の筒の蓋を開ける。
カランカランと氷を筒の中に入れ更にそこに冷水を注ぎ入れる様子を満足気に眺める美麗な若いエルフ、テッセン。
「二人ともどうもありがとう。
さてさて、この二本の筒。今日の話し合い終了の後、皆さんに私の言葉が本当かどうか見ていただきましょう」
そう言ってテーブル上のカゴに二本の筒を置いて後ろに下がる。
まあ、それって多分アレだよな。
そのピンクと水色の筒に心当たりがある僕は無邪気なフリして筒を見せてもらうことを画策。…僕!好奇心旺盛な子供!だから!!
「ねぇ、僕それちょっと見てみたい!触ってみてもいいかな」
わざとガタリ!と大きな音を立てて立ち上がり許可の声も聞かずに前方に突進した。
ホント子供っていいよねー。
団長の隣からテーブルに身を乗り出して手を伸ばす。
もうちょいで届かなかったけど、意外なことにエルフの長老、ザクロが僕の手の届く様にこちらにカゴを押しやってくれた。
……団長は事前に木偶エルフの情報をもたらした僕のことを信頼してただ黙って成り行きを見ている。
エルフがこれみよがしに出してきた二本の筒。
古の魔道具……???
え?真空ボトル、だよね?
遠足とか夏の暑い時期に散々お世話になったアレ。魔法瓶。
「あれれぇー?おかしいよぉ?ぜんっぜん魔力を感じないなあ??」
「そういえば…、シュアクーン様は魔法省のタドットに師事しておりましたな。シュアクーン様はエルフの魔力も解ると?
して今の言葉は一体どういうことですか?」
僕のわざとらしーぃ言い様に団長が上手く絡んできてくれる。
「これは“魔術具”では無いってことだね!!」
エッヘン!!と胸を張って主張する。そのあと僕は真空ボトルの説明をした。
作成技術は素晴らしいと思うが、魔力を必要としない仕組みなんだと。
その場に並み居る使節団の皆々様は全員すぐに理解してくれた。…さすがエリート集団、腐っても鯛。
エルフの長老の隣のオジサンが苦虫を口内で潰した様な顔をしてこっちを睨んでいるが知ったことか。
魔力の流れを見れない人間を騙して悦にいるだなんてエルフのエリートは性格に難がありすぎる様だね。
僕のせいでエルフは優秀!選ばれた民!という雰囲気マウント取りはあえなく失敗。
その後、場を騒がせた僕は早々に引っ込められた。
どうせ“王子”という単なるお飾りなんだし、僕がそこに居ても閃きをメモする事以外に何もする事ないから別に良いんだけど!
▫️▫️□▫️□▫️
初日の話し合いの場に挑む前から。
エルフの魅了にヤラレた人間は全員モレナクエルフのやることなす事に感嘆の声をあげて賞賛を連発していた。
酷いと“媚びている”と言っても良いような有様だと、団長より情報が入ってきている。
では、エルフの魅了にヤラレた人間は元には戻れないのか?
それもちゃんと調べておいた。
心身に衝撃を与えることにより、覚醒することがある。…んだってさ。
どこぞの鬼娘みたく雷魔法で電撃を喰らわせる。だとか、10tハンマーで殴られる、だとかね。
中には婚約者が自分の親友と結婚すると聞かされた、なんてのもあった。
そいつは某国の王子様で、婚約者というのは召喚されてきた聖女だったんだけど。肝が潰れるくらいに驚いたから、エルフの魅了から目を覚ませたんだろうね、この王子様は。
他にも色々調べてみてわかった事はある。
エルフ領を出て世界に散らばったエルフたちは、聖女の世界の植物を持ち帰る使命があったらしいね。
考えてみれば、そうでもないと貴重な木偶を使わせてはもらえない。それは至極当然のことなのかも。
“匂い立つような”とか“むしゃぶりつきたくなるような”とか。
本で読んだ文章が自然と思い出されてくる、そんな姿をしているのがエルフという種族。…それが一般的な人間からの認識。
────でもね。
僕はもう真実を知っている。
中の人がどのくらいお年をお召しになられていらっしゃるかがわかんないんですよ?
長命なことは長命なんですけど、結局何千何万歳も生きるなんてことはなく、入れ物が同じなだけで中の人は入れ替わっているんです。
外見はゴージャス美人。
姿は細マッチョなイケメン。
どちらにしても、しかしてその実態は……。
部屋に戻る廊下を歩みながら、ぷるぷるっと身を震わせる。
話し合いの場からの退場を余儀なくされて戻ってきたシュアクーンだったが、彼の部屋では異変が起きていた。
「あれ?クリソッカ?」
目の前で手を振ってみてもぼーーっとして反応がない。
それが再びの木偶エルフによる悪夢だった。
「ソイツはな、素敵なイヤリングだとか何とか褒められてシュアクーン様から絶対外すなと厳命を受けていたにも関わらず、エルフの娘に耳から外してイヤリングを見せてやっていたからねぇ」
えーー!?アンテルーレぇ?見てたんなら止めてよーー。
「クリソッカはそこから段々と様子がおかしくなっていきました」
目がとろんとし、蘊蓄を垂れていた得意げな顔がだらしくなく弛み身体を擦り寄せられ手を握られしな垂れかかられても、それを振り解こうとする様子もない。
「なのでそれを具に観察し、私はシュアクーン様のお言付けをしっかり守ろうと再度心に固く誓ったのです」
えーー?フェジン。そんなどうなっちゃうのかなんて観察してないでそこは割って入ってでも止めて欲しかったよぉ。
さすがシュアクーン様!と持ち上げているフェジンを置いといて、クリソッカにもう一度声をかけてみる。
「なんですかぁ?シュアクーン様ぁ」
うん。返事はある。まだ屍とは化していないようだ。
しかし、接触が濃厚となればなるほど他が目に入らなくなって意識が持っていかれるだろう。あの時の僕、勇者アキクーンのように。
「えーっとねぇ、僕の貸したイヤリングどうしたの?身につけていないみたいだけど?」
「……あぁぁ。ホウセンカちゃんが欲しいと強請りゅので、エルフの国の蔵書三冊とぉ交換する約束でやってしまました」
どうせ予備、持ってるんでしょう?と宣うクリソッカに呆れてしまう。まあ実際、僕たちの分くらいの予備はあるんだけどね。
信頼されているのか馬鹿にされているのか微妙な気分で僕は予備のイヤリングをクリソッカへと渡した。
「どぅも。ありがとごじゃます」
「次、それ耳から取ったらクリソッカはエルフの国においてくからねっ!!」
悪びれもせず予備のイヤリングを受け取り耳につけるクリソッカにビシっと宣言する。
エルフに洗脳された状態のクリソッカと帰りの旅路で寝食を共にするだなんて自殺行為だ。
「クリソッカは、これでまた借金が増えましたね」
フェジンの声に動きを止め大きく目を見開くクリソッカ。瞳には正気と生気の光が……あれ?エルフの魅了解けた??
「なっなっなっんでふえるんですかっ……」
「当たり前だろうが。備品は貸与されているのだから、無くしたら弁償が基本だろう?」
アンテルーレがクリソッカへと追い討ちをかける。
「当然でしょう。材料費や何やらがかかっていないわけがありません」
フェジンのトドメの一言に、胸を押さえて蹲って呻いているクリソッカを床に放置したまま、お茶を飲んで僕らが一息入れていたら。
「シュアクーン様。今日の話し合いは一旦終了ということで」
ラルクラートが帰ってきた。
双方の協議の場に最後まで参加していたラルクラートの話では。
会議の最後にその二つの筒の中の飲み物が数人に振る舞われ、飲んで確かめている間に語られる若いエルフ、テッセンの話に使節団のみんなは感心しきりで唸ったり褒めたり羨ましがったりしていたと。
ええーー、真空さえ作り出せれば僕でも出来る仕組みのモノなのになあ。
「馬鹿にされてばっかりじゃあナンだから、こっちもちょっとしたモノを用意しちゃおうかな」
僕は使節団内の協議には参加しない。要は少々暇を持て余しているのだ。
今日は互いの希望を示して合意出来るモノは即合意。それ以外は午後に各陣営で協議される。
明日の場ではもっと詰めた話し合いがされる。
僕の出番はその時だ。
1
あなたにおすすめの小説
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる