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過去と現在
71.エルフの植物園②
しおりを挟むアヤメさんから許可を得て僕は翌日も植物園を訪れた。
今度はフェジンとラルクラートも連れてきたよ!
勿論ヒナゲシさんからも許可を得た。だってロットに噛みつかれたく無いモン。
アンテルーレ?「護衛の仕事はここには無い。野営の準備も飯の支度もしなくていい。つまり今の私には仕事が無い」なんて言っちゃってさ、アンテルーレにつけられたエルフのお兄さんに次々と酒とツマミを部屋に運ばせてるよ。
騎士として、男所帯で長年暮らしてきたアンテルーレに色仕掛けは通用しないね。
エルフの兄ちゃん、お可哀想に。中身、オッサンや爺ちゃんの可能性あるんだけどアンテルーレにはそれさえも関係ない。
そしてクリソッカは相変わらず、牡丹灯籠よろしくホウセンカちゃんのところに通い詰めている。
ちゃんと一日一冊、本を持ち帰っているあたり約束は守られている様だし今は放っておこうかな。
ズキンヘッドの引く馬車の中。
僕の向かいには何故か妙に張り切っているフェジン。
「私は文官としてシュアクーン様のお役に立てているとは思えません!」
そんなことは無い。
昨日の話し合いの場で僕が読み上げたモノは全部フェジンが用意してくれていたものだし、もしもこのような事を言われたら、質問されたらという質疑応答も思いつく限りレクチャーしてくれた。
「なので私は今日、活躍するつもりでいます!それはもう大活躍します」
フェジン。そんな肩肘張らなくても。もっと楽しもうよ、ね?一生に一度だよ?きっとこんな遠くに来るのなんて。……というか本音を言えば二度とゴメンだけどさ、王命なんてね。
「稲ですか?現在“白薔薇”では陸稲栽培を行なっています」
今日案内についてくれたのはケイトウさん。ここの植物園“白詰草”の責任者の一人で、昨日会ったロットの飼い主のヒナゲシさん、まだ会ったことのないオミナエシさんの三人が主たる管理責任者なんだってさ。
ケイトウさんの足元をチョロチョロと歩くシルバーテイルフォックス。その銀色に輝く毛皮は高値で取引されている。
「すごくなれているんですね」
「ええ。日が落ちてからの見回りでは、コイツのおかげで楽させてもらってますよ。地面を明るく照らしてくれるのでちょっとした段差にも躓くことは無いですね」
ラルクラートが感心して色々聞いている。…飼ってみたいけどこの辺の魔獣は連れ帰っても死んじゃうっていうしなーー。
いいなー、シルバーテイルフォックス。綺麗でシュッとしてかっこいい!
シルバーテイルフォックスは体毛は灰色がかった色をしていて毛先が光に透けて輝き煌めくさまが、まるで銀色のようだと毛皮が高値で取引されているキツネ魔獣。
実は身体を自在に光らせる事ができる。急激な強い光で獲物の小動物の目を眩ませて動きを止めたり鈍くさせるためなんだ。発光するなんてイエローみたいでしょ?
「水田ですか?大森林の奥の更に山際の方、メーダロソン連山の麓にある湖の周辺には水田がありますよ」
水の管理が大変なので、“白薔薇”では陸稲栽培でいろんな実験をしながら米を育てているんだってさ。
ケイトウさんが色々と案内しながら質問にも答えてくれる。
米が薬草としてエルフに認識されたにのは、なんとなく予想がつく。
米がありご飯があったという事は、召喚された日本人たちは具合が悪くなると皆必ず“おかゆ”を所望し食べただろう。
それで具合の悪い時に柔らかく煮てスープ仕立てで食べるものとして知る人ぞ知る的な食べ物として密かに定着した。…実をいうと僕ももっと小さな頃に熱を出した時に食べさせられた記憶がある。
僕は禁書庫の本からエルフの国が原産地だと知ったわけだが元は異世界産の米だ、しかもここは魔力の最も濃かった地域の一つ。魔力障害が良い方向に働いたとしたなら実際薬効もあったろう。
米は薬草。熱を出した時に、身体がだるい時に食べるタマゴ粥。
暖かく食べやすく滋養もある。
「あ!こっちこっち!この先だよ」
「あんまりはしゃがれると転んだりして危険ですよ?シュアクーン王子」
そして、僕の一番見せたかった草花ゾーン。ここに露草が咲いているんだ。
ん?水がぴゅーーって飛び出している。
んん?スプリンクラー??
「ああ、あの半自動水撒き器が気になりますか?」
僕が首を捻って水がびゅっびゅと出ているのを立ち止まって見ていると、ケイトウさんが教えてくれた。
吸血蔦の性能を利用して作られた道具。
あっちで足漕ぎポンプで圧をかけるとそれが伝わって穴の開いた部分から水が飛び出す仕組みなんだって。
「水車とかだと水車か水の流れを止めない限り、ずっと水撒きして水をまきすぎちゃうんですよねー」
お喋りをしながら、ケイトウさんがしゃがんで土に埋まっている水を送るホース部分を持ち上げて僕たちにみせてくれる。
「中が空洞になってますし、吸血するために収縮する性質がありますし丈夫ですし、水撒きに打ってつけなんですよー」
畑の真ん中でピュッピュッと水が飛び散るのはまさにスプリンクラーそのもの。
吸血蔦は知っていたし、なんだったらクリソッカが何度も襲われていた。でも、こんな使い方を思いつきもしなかった。
僕はエルフとの文明の進歩の差をそこに激しく感じた。
便利道具の知識があってもこの世界の何を使えばそれを再現できるか、またその素材が最適かなんて人間一人の知識や試行錯誤では限界がある。
だが、エルフは人よりずっと長命で、しかもあの牡丹灯籠な手段をとれる。…必要な人材を自主的に誘引できるのは強みだろうな。
あのピンクと水色の筒もそうして作られ出来上がったモノなんだろうね。
フェジンが詳しく仕組みについてケイトウさんに質問し、懸命にメモをとっている。自国に戻ってその技術を伝え、うまく活用してもらうつもりなんだろう。
ほら、フェジンはちゃんと役に立ってるよ?
“ツユクサ”というと、梅雨時期に雨に濡れて咲く青紺の花を想像するが、コチラでの“露草”はそれとはちょっと違う。
朝顔のように朝に咲き昼には萎むはずの花は僕たちが見に来た昼過ぎでもパリッとしっかり萎れずに咲いて風にそよいで揺れている。
二枚の綺麗な青色の花弁。その花の部分がより大きく変化して花粉は飲み物に入れて服用すると解熱鎮痛効果と倦怠感軽減の効果が見られる。
この花粉の効果についてはケイトウさんからの情報だ。
ちょっと何かにひと匙きな粉を入れるとか、酢を入れてとか。そんな健康に良い食物なイメージが頭をよぎる。
「ねぇ、フェジン。土とかさ、僕の国とかと違いあるのかな。肥料とか何か違ったりするのかな」
「……そうですね、後で詳しい話をお伺いしておきます。ですのでシュアクーン様はそんなにご心配なさらないでも大丈夫ですよ」
植物園から馬車への移動の途中。
どこからか迷い込んだのか鈍臭そうな獣の後ろ姿が。
「なんですかね?道の真ん中に」
あの後案内人のケイトウさんと、なんだか専門的な話を始めちゃったラルクラートを植物園に置き去りにして、植物園を一通りまわった僕とフェジンは部屋に戻ることにした。
僕らのゆく道のど真ん中にはエルフの森に生息するタヌキらしき生き物。
そっと忍び寄りガシッとその身体を持ち上げたシュアクーン。
「俺はコイツと旅に出る────」
「シュアクーン様森に返してきてください」
「お前の名前は今日からチョコキャラメルだよ」
「シュアクーン様」
あぁ、タヌキはもう死んでしまいました、皆さんさようなら~の顔をするタヌキらしき生き物。
それを見たシュアクーンは俄然面白くなってきて、タヌキ(仮)をそっと地面に置いて少し離れて呼んでみる。
「チョーコチョコチョコチョコほらこっちおいでチョコ~~」
「お前も何してるんだ、早く逃げなさい、ほら」
手振り付きで口笛ふいてチョコキャラメルを呼び寄せようと試みるシュアクーン。
それを見ていたフェジンが手でタヌキ(仮)の体を押して逃がそうとして。触られ押されして、びっくりしたタヌキらしき生き物はその場でコトリと倒れて気絶した。
「あーー!フェジンがこぉろしたあーー!」
「い、いえ!?違います!わたしはただ体を押しやっただけで!!」
タヌキ、まさかお前。
巻き込まれ召喚とかではないだろうな?
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