ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜

いくしろ仄

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過去と現在

96.およこしなさい

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────そう。
シュアクーンはすっかり安心して気を抜いていた。




「ときにシュアクーン。そこの兎ですが……」

かちゃりとソーサーにカップを戻した王妃様。


「そこで従者の腕に大人しく抱かれている額に宝石のついた兎、それをこちらにおよこしなさい?」


セレが飽きないようにと周囲が見えるように再び抱えていたフェジンの腕の中で、ぬいぐるみのフリをしていたセレの耳がピクリと動く。

今回、フェジンをお供に決めたのにはそれなりの理由があった。

アンテルーレは妹のところをクビになって僕のところにきた。
だから印象があまり良く無いだろうと思い、今回はフェジンを伴って来た。

それに、フェジンは僕のところに来る以前は魔法省でそれなりの地位にいた人間だから、王妃から無理難題を突きつけられても表情一つ変えずに控えていられるだろうとも思っての人選でもある。


「……兎を連れてこいというのは、単にご覧になりたかった訳ではなく?」

「いいえ、見たかったのもあります。あのこに相応しいかどうかしっかりとこの目で確かめたかったもの」

“あのこ”とは多分ロゼルーテのことだ。



「妹のロゼルーテにはこちらを」

僕はフェジンに合図をして、ワゴンに乗せてあったネストネットの糸でできたフード付きポンチョを侍女へと渡してもらった。


「それは?」

「こちらはネストネットの糸で編んだ品です。どうぞお納め下さい」

「ネストネットとはあの大蜘蛛のことでは?……綺麗な糸なのね」

侍女から受け取ったポンチョをはじめは怖々と摘むように触ってから、広げて繁々と見つめる王妃様。


「ネストネットの糸を加工するのに長けた果樹を生業とする地域がございまして、そこではこのようなポンチョを作って生活の助けとしていました。
ネストネットの糸なので、防水魔法無しでも大変よく水を弾いてくれます」


「まあ、大変珍かなものですのね」

「そうですね。山間部の村での事でしたし、そう数は無いと思います。この辺では聞いた事もございません」

糸を編んでポンチョを作ったのはアミネットだから、ちゃんと柄や形の流行りは押さえているはず。

しばらく模様を指で辿ったりフード部分を持ち上げていたりしていたが、ロゼルーテへの土産のポンチョはすぐに下げられてしまった。



「これはこれで良い品です。しかし、わたくしはその生きた宝石の付いた兎をロゼルーテに譲って欲しいとお願いしているのですよ?」


ケーキにザックリとフォークを入れて上品に口に入れる王妃。
自分が咀嚼している間によく考えてから答えを返せという無言の圧力。





あぁ…これがお兄ちゃんだから妹に譲りなさい……異世界でも変わらず存在するんだな……。

連日、外で愛嬌振り撒いていたから今更これはぬいぐるみなんですなんて言い訳は通用しないんだろうな。

シュアクーンは目線で合図を送り、セレはフェジンから王妃の侍女の手に委ねられた。

ばび!なんて耳と両足を立てたセレ、王妃はその様子を見て大変ご機嫌だ。ぬいぐるみなんだとは隠しきれないその動きに、聞いた噂通りと確信したのだろう。



『ちょ、シュアシュア!シュアシュア!助けてシュアシュアアア!!』

脳内のセレが喧しい。
でもまぁお姫様の飼い兎って待遇悪くないと思うし。達者でな!ウサ精霊!また会う日まで!!


「では、僕はこれで失礼させていただきます」


こうして僕はクールに右手を挙げて退室したのだった…。

『シュアしゅあーーーーーーー!!!!』








▫️▫️□▫️□▫️


セレには大人しくしてもらって“これはぬいぐるみなのです”とできればやり過ごしたいと思ってた。
でも。城の侍女たちの噂になっていたから、…無理だったね。
王妃まで知ってるとは思わなかったよ。

セレがいなくなり、シンとした部屋で王妃とのお茶会での会話を思い起こす。


「王妃様は僕の飛び兎の事をどちらでお知りになられたのでしょう?」

「兎のことは、ルバルテルから聞きました。今、城の侍女たちが夢中なのだそうですわね」

るーばーるーてぇーるーおーまーえぇええええ!!
僕に恨みでもあるんか!?
…あるな。昔、王様が孤児院祭りに来たいって言った時に断ってルバルテルの顔潰したことがあったからな。




「セレは、セレは元気にやっているだろうか?」

アンテルーレが元気なく小さく呟いて外を見ている。

アミネットの話ではたくさんのミルクとたくさんのクッキーを毎日貪り食ってるらしいからそんな心配いらないと思う。

ただ。妹のいる離宮からは出してもらえないみたいだけど。




「シュアクーン様」

「何?トレネーク」

「ラルクラートから少しご相談があると……。お時間よろしいでしょうか」

すっかり静かになった部屋に今度はラルクラートから僕に相談があるのだと知らせが入る。

まだ、宝物庫に入る許可の連絡も来ていないし、急いで何かをしなくてはならないことも無い。

「いいよ。話を聞こうか」








その日の午後。
ラルクラートは僕の部屋にやってきた。


「今後、定期的に“エルフの心臓”を買い付ける為に我々はエルフの里と国の往復を命令される事でしょう」

エルフの里との往復。
その拠点を他国に作りたい。

人員を配置して、そこで生活させて。それには仕事をさせ稼がせながら暮らさせる必要がある。
この世界ではニートなんて怪しすぎる職業ナンバーワンだろうね。その生活費一体どこから出てくんの?って感じでさ。


「拠点を作るには何かしらの生活の基盤が必要です。そのまま土着するのなら結婚が手っ取り早いのですが、この度は我々の安心して過ごせる場所づくりという観点からその様な手は使えませんから」

女神は戦争の無い平和な場所に転生させてくれたと思ってたけど、やっぱりその様な情報戦みたいな隠密行動はしているんだね。


「それで露店商を?」

「はいそうです。そこで、商会をお持ちになり、確実に資産を増やしておられるシュアクーン様にご相談するのが良いのでは、という話となりまして……」

ラルクラートは旅の間僕と露店巡りを一番していたもんね。


「露店ならば、開けるも閉めるも店主の腹づもり一つ。
旅の人が立ち寄っても不思議ではない。しかも、店を開く場所は自由に変えられる。
そこで、シュアクーン様にお知恵を拝借しようということになりました」

んーー。忍者会議でそう意見が纏まったのかな?


「んじゃさ、一先ず拠点にする予定の国がどこなのか教えてよ」

予定している国は三つ。
そのうちの一つはトレネークたちの足型をとって送る予定のあの靴屋のある国だ。

これからエルフの里に定期的に訪問するからこその対策というのはわかる。
情報のやり取りのための拠点としてから、宿の手配、着替えの手配、旅の路銀、持ち物や消耗品。揃えて用意するものはいくらでもある。


「ラルクラートも行くの?」

「はい。旅に同行した私は貴重な情報源ですからね」

「じゃあ、しばらくは城には居ないね」

困ったような笑顔を浮かべるラルクラート。
いつからいつまでが不在となるかは秘匿情報なんだろうね。


どうかお知恵をお貸し願いたい。との言葉を残して、その日一旦ラルクラートには引き取ってもらった。



お茶会のすぐ後出した僕の手紙の返信という形で王妃様から贈り物のお礼の手紙をいただいた。

セレ(飛び兎)の取り扱いについての注意事項を書いた手紙を届けてもらったんだ。
王妃様からの手紙には、「約束は問題無く守るので何も心配せずともよい」って書いてあった。…約束守るのは王妃様じゃなくって妹なんだけどなぁ。

その他には。

花の名前が知れた事により、一層周りにあの花の意匠の鉢カバーが持て囃され、王妃様はオオイヌノフグリ……もとい、星の瞳をデザインした物をつけた鉢植えカバーをご褒美として自分の配下の者に下賜するようにしたのだとかが記されていた。

花言葉は、忠実、信頼、清らか。
なのだそうだが、花言葉は女性の方が男性よりも断然気にかけている。一部の女性重視の男性は別として、ね。


セレはなんとかやっている様だ。
その手紙には兎についての記述は何も無かったから。

そんな内容の手紙をポイと投げ捨てる様にして、シュアクーンは、ラルクラートの相談事について考えはじめた。





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