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ご褒美転生
16.露店のオヤジとホットスリーブ
しおりを挟む「お久しぶりです。お元気でしたか?」
トレネークが声をかけた彼は孤児院出身で、今でも孤児院にあれこれ寄付をしている露店商人だ。
彼には串物の市場調査の折に大変世話になっていた。
「おー、久しぶりだなぁ旦那。
今日はなんの用だい?まさかオレの串揚げが恋しくなったとかじゃねぇだろう?」
串焼きにも色々な物がある。
味も肉も、串の種類も様々だ。
塩胡椒のシンプルなもの、独自のタレを売り物にしている店。
腸詰やこの露店のような揚げ物を売る店もある。
露店の肉は大抵が魔獣の肉だ。危ない動物は狩って肉として消費する。
魔獣ではない家畜の牛や豚、羊や鳥は主に食事のできる店で扱われている。
だが、露店の焼き鳥だけは違う。
聖女が雇用促進の為に広めた焼き鳥。
養鶏場で鶏を飼って育て、卵を取りつつ鶏も潰して肉とする。
その鶏肉を使い串に刺し焼いて屋台で提供しているのが焼き鳥だ。
「商売の方は如何ですか?」
彼が売るのは小粒の丸いコロッケを二つ串に刺したもの。頼めば揚げたてを売ってくれる。
以前市場調査をして様々な串物を持ち帰ったときに、王子はウジュラの卵だと勘違いして齧ってびっくりしてた。
「まったくお貴族様ならではだな!こんな露店でウジュラなんて扱うわけねーだろが」
「ウジュラは卵も肉も高級食材ですからね」
高い山にしか住んでいないウジュラは大変美味な小型の鳥魔獣で植物魔法を使い、隠れん坊が得意なので中々捕まらない。
だがそのウジュラ。
聖女が養鶏場を提唱し、焼き鳥を生み出した時。
聖女の「ウジュラの玉子が欲しい」の言葉に従い一緒に養鶏場で飼育され始め、その小さな玉子を使った可愛らしい見た目の料理が大流行りして、その当時あちこちに養鶏場が乱立した。
今ではウジュラの肉も玉子もちょっと小洒落た店ならお出しできる程度の高級食材だ。
「で?要件は?」
「ああ。露店でのホットスリーブの具体的扱い方を知りたいとおもいましてね」
「いいぜ、お安いもんだ」
そうこうしているうちに若い男性の客がきた。
「串、二つくれ」
「あいよっ串二本、お待ちっ」
素早くホットスリーブを広げ、そこに串を二本挟んで客に手渡す。
畳んだ状態で用意されているが、広げるのをそこまで手間とは感じていない様子だ。
「おっちゃん、ちょっとマケロよ」
「はいなんでしょう?」
「だからマケロってぇの!」
「はい!ですから、なんのご用でしょうか?」
「おめぇふざけてンのか??」
「いいえ?全くふざけておりませんとも」
実はこの御仁。
名前が“マケロ”なのだ。
この人の居た孤児院では名前の定かではない子供には、一つの発音文字を書いた紙を幾つか引いて名前をつけていた。
大抵が二文字か三文字。
そうして彼につけられた名前が“マケロ”。
さすがに“クソ”とか“バカ”とかなら紙引きをやり直すが、彼の名は当時の院長が引き直すことなくそのまま名付けられた。
「ええー?オッサンの名前マケロっつーのかよ!まじか!」
さっきまでウザ絡みで値切ってた客が機嫌良く金を払って帰っていく。
彼はその不憫と思われそうな名前もこうして活用し、飄々と生きている。
「ガキの頃なんざ諍いの無い日なんてなかった。あっちのが大きいとか、オレはもらってねぇ、とかさ。
でさ、取っ組み合いの喧嘩なんかしてると、周囲が囃し立てる。
「負けろ!」「負けろ!」なんてヤジが逆に声援に聞こえるから、なんて良い名前をつけてくれたんだと、おりゃあー思ってたね」
なんて孤児院でのことも以前教えてもらった。
話しをしているうちに、ホットスリーブの事から、マジア工房で働く子供たちのことへと話が流れていった。
「ありがとよ、孤児院の子供を雇ってくれるところは一つでも増やしてぇからな」
孤児院の子供たちは成人したら出ていかなくてはならない。
その前にどこかで働いた事があるという実績があると雇ってもらいやすくなる。
「ええ。紙工房の方々から、非常に助かっているとうかがっております。みんな真面目な子供ばかりですね」
「孤児院の子供が褒められると、自分の家族が褒められたようでなんともくすぐってえもんだな」
その後も少しの間、客が来て彼がホットスリーブに品物を挟み、ささっと渡している様子を観察する。
「紙皿とか、その辺のものと比べて面倒だったりしませんか?」
「そんなもん、商材を安く抑える方が重要に決まってら。大量に買うやつにゃ元々袋に入れて渡してるしな」
彼は、初めのうちは普通に完品を仕入れていた。
が、今ではそれより安価な、定形にカットされた紙の方を買っているという。
今現在は手持ちの小型接着機を使い、紙を折って接着する作業を、孤児院の子供に売れ残りの串焼きで釣ってやらせているのだそうだ。
商売人の経費削減への熱意と創意工夫には頭が下がります。
▫️▫️□▫️□▫️
大半の人間が買ってすぐ口にするのが露店の食べ物。
そのままを手渡すか、紙皿を二つ折りした物に挟んでる渡すか、専用の四角い紙皿にのせて提供してる屋台が殆どだった。
今ではかなりの店がホットスリーブに切り替えてきている。
中には見様見真似で手持ちの袋の片側に刃を入れて使い出した人もちらほら。先ずは在庫が捌けない内にはと思ってやっているのだろう。
パピエ商会の新商品の方が圧倒的に紙皿や紙の袋よりも単価が低いのだ。
袋は筒状にしてから決められた長さにカットして底部を接着という手順で作られている。
それに対して、ホットスリーブは成形する前の状態、定形にカットされた状態の物も販売している。
露店をやる人にとっては客のいない時間に折りたたみ、長方形の短い一辺を自分で接着して作れば更に経費を削減できるというのも魅力だろう。
「以上がホットスリーブが発売となってからの露店の様子でございます」
「ほっかー、ほうひゃんひゃえー」
トレネークさんからのお土産の各種串焼きを頬張るシュアクーン。
小型の接着機はそんな馬鹿高い代物でも無い。
袋を閉じるための簡易な接着装置は安価な物だから。
接着剤とかの充填も必要ない。
接着機に魔力を通して接着させるからだ。
魔法を使うには魔力がいる。
そして嘗て勇者や聖女が闊歩していたここはファンタジーな世界。
誰もが魔力を持っている世界だ。
「はくはん、うへへふ、よーへよはっは…………!!!
んぐッ!がっごほっ」
「大丈夫ですか!?」
「シュアクーン様!お水を!お水をお飲み下さい!!」
食べながらお話ししてはいけません!とシェイラから説教を喰らったどうにも締まらないシュアクーンであった。
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