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ご褒美転生
93.スチュワートとサフィジョン
しおりを挟む「ステュワート。お茶とお菓子、サフィジョン様のとこまで運んどけ」
「わかりました。ソンカー」
「運んだら、すぐに退出すんだぞ? お前すーぐサフィジョン様の機嫌損ねんだからさ。そのあと俺の仕事がやり難くなっちゃうだろ?」
「……わかったよ。何も言わなきゃいいんだろ」
「わかったらとっとと運んどけ。スチュワート」
ソンカーに言われてお茶とお菓子を王子の寝室へと運ぶ。
サフィジョン様は最近、寝室に篭られている時間が増えてきたように思う。
第一王子から第二王子に、私の主が変わった時に。
サフィジョン様に対して、年齢に比べて随分幼い印象を抱いたものだが、今でもそれは少しも変わらない。
初め。
ニ歳年下の第一王子、リシャーデン様の身近なお相手としてつけられた私。
子供の頃の二歳差は存外大きい。
私に懐いて、私のあとを「ステュワ、スチュワ!」と、ついて回っていたリシャーデン王子がそうであったように。
リシャーデン王子はご立派に成長され、慣例よりも一年早く孤児院への御訪問も立派に熟された。
その私の能力をエルフィルア様に買われて、第二王子付きとして迎えられた。
そして、私はサフィジョン様付きの専属侍従としての立場と役割を得た。
幼い頃のリシャーデン様はしっかりなさっていた印象が強かったが、サフィジョン様は本当に幼く可愛らしい方だった。
それは、私が9才、サフィジョン様が5才の時のことだ。
「いけません殿下」
「うーさい!スチアートっ」
「第ニ王子たるサフィジョン様はもっと寛容にあらせられるべきと、私は思います」
「うーさいうーさい!黙え、スチアート!」
リシャーデン王子の弟君であるサフィジョン様は。
私が仕え始めた頃はまだ言葉も覚束ない赤児に毛が生えたような、精神状態だった。
気に入らない事があれば顔を真っ赤にして癇癪を起こし、物を投げこそはしないが、テーブルをバンバンと叩いたりする。
第一王子と第二王子、二人の王子の精神性の差を、私は単純に2才離れた年齢の差だと当時はそのように捉えて納得していた。
しかし。
それは成長した今でもあまり変わりがないように思う。
もう、顔を真っ赤にしたり、テーブルをバンバンと叩きこそしないが。
「サフィジョン様。お茶をお持ちしました」
寝室に設えてある机の上にお茶の用意を整えながら声をかける。
殿下は何かの書き付けを握り締め、穴に落ちた兜熊のように室内をうろうろと歩き回っている。
何か面白くない事があった時によく出る癖だ。
王宮内や自分の住む離宮内で、思いがけず、自分を貶めるような噂話を耳にした時などに、よくこのような行動をなされる。
私が入って来たのに気がついているのか。まったく気に留める様子が無い。
私がお茶の支度をしている間。
何かを呟いてぐるぐる歩き回り続け、呟くその声が徐々に大きくなり、何を言っているか私にもわかるようになってきた。
「シュアクーンめ!シュアクーンめ!なんでなんだ。なんでなんだ」
「コイツは俺が歩くのを邪魔をする道端の段差で、俺を躓かせようと地面から顔を出している石だ」
「見た目は小さく簡単に蹴飛ばせそうでも、案外地中に潜んでる部分は大きく取り除くのに苦労する、そんな厄介な障害物なのだ!」
一体、手の中に握られた紙に何が書かれていたのか。
しかし、今はそんなことよりも早急に主を諌めなくてはならない。
「弟君をそのように仰ってはいけません、サフィジョン様」
私が侍るこの国の第ニ王子サフィジョン王子は、一つ年下の弟王子を邪険にしている。
いや、邪険なんて生ぬるい。
近頃は排除しようと画策なさっているのが言葉の端々に散見されるまでになってきている。
それもこれもサフィジョン様のお母上の兄、次代の副財務大臣と呼び声も高いウジーネ様から流し込まれる甘言蜜語、花言巧語の所為だ。
側近として送り込まれた主と同い年の子息たちも、美辞麗句を並べたてるのみで諌言など吐いた事がない。
その口から飛び出すのは賞賛、讃辞の耳に心地よい言葉ばかり。
王の子であるサフィジョン様を可愛がり甘やかすだけで。
諭し、忠告、諌言、小言という言葉から一番遠い人物。
それが母君の兄、ウジーネ様だ。
そんな人物が、弟は邪魔者だと褒め言葉に紛れさせ暗に王子の耳へと吹き込んでくる。
子供は素直なものだから自分に優しく良くしてくれる人物が悪いことを言うなんて微塵も思わないし疑いもしない。
しかし。
サフィジョン様より少し年上なだけである私ですら、何かがおかしいぞ?と感じるくらいには露骨な言葉を口にする時があるのだ。
ご機嫌取りをして阿るのは簡単だ。しかし、それでは第ニ王子の身近に侍る侍従にと私が選ばれた意味は無い。
他の侍従が何を思って仕事をしているかは知らないが、少なくとも私はそう考えた。
だからそれは違うと思えば意見をし、やってはいけない事をしようとすれば注意をしてきた。
それがサフィジョン様のためと思い、お仕えしてからはずっとそうしてお諌めしてきた。
私は私の精一杯でサフジョン様にお仕えしてきた。
「サフィジョン様!そのようなお考えはお止めになってください!」
「お前はお前の主が不遇を託っているのをなんとも思わないのか?」
「不遇というほどの何事も起こってはおりません。
先日だってサフィジョン様は王様からお褒めのお言葉を賜ったばかりで……」
「主の気持ちに寄り添うこともせず、逆に僕を諌めようというのか?
スチュワートは、僕を己の思うままに動かしたいとでもいうのか!?」
「そ、そのような事は、決して。
ですが……」
────────なのに。
「煩い!煩い!
いつもお前は僕に対してそうなんだ!
お前は明日から弟付きにする!
父上にはもう承諾を得てあるッ。
喜べ!今度は侍従ではなく側近だ!!
だから……今日中に諸々の支度を済ませておけっ」
こうして。
第ニ王子サフィジョン様の周囲から私は排除され、第三王子であるシュアクーン様の側近候補とされたのだった。
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