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イケアの街と面倒事
出発の日と別れの挨拶
しおりを挟む買い物に行った翌日から三日間、拘留中だったラリーさんはオルガ村の話やこれからの事について話し合う為に監視役のカレンさんとピレネー邸に通っていた。
ラリーさんの身元引き受け人となるロイドさんとの雇用契約と契約が切れた後のエトリナ商会との雇用契約の取り決めの書類を作り、具体的な今後の予定を話し合った。
ピレネー子爵家での事はほぼセバスさん預かりとなるので、その部分はセバスさんにお任せだ。
エトリナ商会とは雇用形態などを幾つか取り決めし、ラリーさん名義で申請してもらう予定のククリの実のクッキーを実際に作ってもらった後に、書類を一緒に書いた。
このクッキーについては、ルードさんに試食してもらい、的確なアドバイスを受けて更に美味しくなっている。
味見をしたサミュ君も気に入ったようで、ラリーさんを見ると『くーりっ』と言って両手を出していた。たぶん『ククリクッキー』と『ラリー』が混ざってしまっているのだと思う。
申請が通ったら次の街で屋台販売と冒険者ギルドの食堂に売り込むつもりだ。
ククリの実の苦味、渋味を取る方法については元の世界でいうところの特許と同じ様な扱いで、食材の特殊な調理技術として登録出来る事が分かった。
登録申請後はピレネー子爵家経由で薬師組合に話を持ち掛けて貰う予定になっている。
勿論、ロイドさんには成功報酬を含めた契約書を作ってある。料理レシピとは違って商談のような形でロイドさんと一緒に話を進めてもらった方が良いのではないか、とラルフレッドさんのアドバイスがあったからだ。
確かにエトリナ商会とラリーさんの個人名よりも貴族から話を持ち掛けられた方がキチンと対応してくれそうだからね。
結局、ロイドさんには色々とお世話になったし私たちがイケアを離れてもラリーさんやトール村の事も含めてお世話になる事が多い。
トール村については元々が男爵領の問題ではあったけど、私の独断でオルガ村の人たちの受け入れ先に指定した。ラリーさん以外の村人も数人、ピレネー邸で使用人として働く事が決まっている。
私への償いにしてはピレネー子爵家の負担は大きいのは理解しているので、私なりのお礼は用意してある。
そして今日、イケアを出発する。
ピレネー邸の玄関ホールにはロイドさん一家にセバスさんを始めアーニャさんや他の侍女さんたち、それにトム君やサムさんなど厨房の料理スタッフが勢揃いしている。
そしてラリーさんや何故かラルフレッドさんも来ていた。
「ティアナ、俺、ピレネー子爵家でしっかり修行して早く賠償金の返済をして、一日でも早くエトリナ商会の従業員になれる様に頑張るよ。」
「はい、セバスさんの下で修行は厳しいと思いますけど頑張って下さい。エトリナ商会の即戦力になると期待しています。
定期的に連絡は入れますしあの手段についてもお願いしますね。」
この三日間、ラリーさんとはトール村や料理レシピ申請の他にも思いついた事を話しあったりしていた。その中で試してもらいたい事などの要望も出していたのだ。
「うん。ティアナのお陰であの人も重い罰は受けなくて済みそうだと感謝していたよ。
これから一緒に仕事が出来る日を楽しみにしているよ。またな。」
ラリーさんは笑顔でそう言ったと思ったら、不意に私に顔を近づけて右の頬に別れの挨拶をした。
いきなりで驚いているとラルフレッドさんがズイっと前に出てきて
「ティアナ、もっと一緒に過ごしたかったよ。これからも商業ギルド長として君の為に出来る事はある思う。仕事以外でもね。
僕も手紙を出すからいつでも連絡して欲しい。」
ラルフレッドさんはそう言いながら胸ポケットに入れていたガーベラの茎を短く折ってから私の耳にソッとかけた。
え、これ、花束の代わりか何か?
これから乗り合い馬車に乗るんですけど?
このまま耳に花をさしたまま外を歩くのはちょっと恥ずかしい気がする、と思ってラルフレッドさんを見た。
「うん、似合ってる。じゃ、気をつけていってらっしゃい。」
ラルフレッドさんは甘い笑顔でそう言うとガーベラの花を覗き込む様に顔を近付けて私の左頬に同じく別れの挨拶をしてからハグされた。
あ~、ビックリ。
うん。私、前世は日本人だったからこういう挨拶は慣れてないし、今世も別れの挨拶をする様な付き合いもなかったからビックリしているけど、態度には出さない様にしたよ?
トール君もそうだったけど、別れの挨拶って本当こんな感じなんだねぇ。
何故だかミリアさんや侍女さんたちがによによと生暖かい目で見ていた気がしたけど。
だから私もサミュ君を抱っこして思いっきりハグした後にプニプニのほっぺをすりすりしてお別れの挨拶をした。
皆に見送られてピレネー家の馬車に乗った途端にポロリと涙が溢れた。
「またすぐに会える。」
クリスはそう言って涙を拭ってくれようとしたのか、ハンカチでゴシゴシと両頬を拭かれた。
何もそんなにゴシゴシと拭かなくても、汚れじゃなくて涙だよ?
擦られすぎて何だかほっぺたがヒリヒリと痛いんだけど、、、。
気付けばガーベラの花も無くなっていた。
そんな感じだったので感傷に浸る間もなくピレネー家の馬車を降り、乗り合い馬車に乗って私とクリスは次の街ニトに向けて出発した。
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