元虐げられた公爵令嬢は好きに生きている。

しずもり

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彼女と。

閑話 テオドール ー 僕のやらかし ー

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本当のところ、僕にはあの操られていた日々も、彼女を酷く傷つけてしまった日の記憶も覚えている。


あの頭のおかしい性悪女ビッチが、僕を操ろうとした日の事から全部覚えている。腹立だしい事に。


もし一つだけ、プリシラあの女に感謝する事があるならば、ー あんな女に感謝する事なんて一つも有りはしないけれど  ー それでも心底良かったと思えるのは、あの女が俺も、同じように操っていた男たちにも本当の意味では興味が無かった事だと思う。


あの女にとっては、目的を達成する為の駒であり踏み台でしか無かった。


男たちを侍らせ、チヤホヤとされるのを喜んでいたようだけれど、それは周囲の令嬢たちの悔しそうな顔を見ていたいだけの、本当に性根の腐った女だった。


僕たちはアネットが言うには" 催眠術 "というモノに掛けられていたらしい。


彼女の偽物のピンク色の瞳を三十秒見つめ続けるとその" 催眠術 "とやらに掛かってしまうという事だった。


その事を話した時のアネットは悲しそうな瞳をしていた。


クソっ!アネットにこんな顔をさせてしまうなんてっ!!


確かに僕はあの時、あの女の瞳を見続けてしまった。

だけどそれはー。



「グレイル子爵令息、僕をこのような場所まで呼び出して、一体何の話があるのだい?」



◇◇◇



ー あの日、幼い僕はアネットを強く望んだんだ。 ー



この国の第三皇子という立場なら僕は選ぶ側の人間だと思う。


 まだ三歳の僕にはそんな事を思う程、何かを考えて生きていた訳でも無いし、何故、そう思ってしまったのかも分からない。


けれど僕はどうしてもアネットじゃなきゃ嫌だ、と思ったんだ。

 もし僕が誰かに選んで貰う立場なら、その誰かの中にアネットがいたならば、僕はアネットに選ばれたい。アネットにしか選ばれたくない!


そう強く望んでしまった僕の願いは、アネットの意思など無視して叶えられた。婚約という形で。


 そうしてアネットが僕の婚約者になってからはずっとアネットの傍に居続けた。

" まだ子どもだから "という言葉で済まされる年齢までは一緒に昼寝もしていたし、ジェニング公爵家の屋敷には婚約者となってから僕の部屋も用意されていた。


それでもどこか不安で" もしアネットが誰かを選ぶ日が来てしまったら。"そう思うと片時だって離れていたく無かったんだ。


アネットが物心ついた時には、僕が婚約者で、僕が傍にいるのが当たり前だったから、彼女もそれを受け入れてくれた。

やがて僕の言葉に恥ずかしそうに


「わたくしもテオの事が好きです。」

「あ、愛しておりましゅ。あぁっ!

違うのです。しゅ、ではなくてっ!」


そう返してくれるようになったのに!


僕が彼女から" 愛してる "と言わせるのにどれだけの年月が掛かったと思っているんだ!


アネットを悲しませる事になった原因の日を思い出す度に、未だに僕はは腹立だしい気持ちになるのだ。


◇◇◇


あの日、グレイル子爵令息から話があると呼び出された場所は学園の寮だった。


クラスが同じだけの彼のに応える必要はあるのか、とも思ったが、それでもノコノコと来てしまったのは、彼が呼び出した理由が" アネットについて"だったからに他ならない。


彼は最近、テオドールにしつこく近づいて来るプリシラピンク頭との仲を噂されている生徒であったから。


「テ・オ・様♡プリシラ、来ちゃった。ウフッ♡」

「テオ様、素直になって私を見つめて下さい♡ウルルンッ。」

などと気持ち悪い事を言っては、僕に近づこうとしてきた


アネットと同じ学年に特待生として編入してきたピンクは、学園にはほぼ居ない平民という事でアネットにお世話を頼もうと学園側と生徒会で話をつけていたらしい。

だが、そんなのは却下だ!

学年が違うから四六時中傍に居られなくなっているのに、世話係に任命されたら僕との時間が無くなるだろう。
任されてしまえばアネットの性格だ。キッチリしっかりと特待生の世話をする筈だ。


だからアネットに話がいく前に阻止したのだが、どうも報告ではアネットを敵視しているらしい。


 僕が居ない間はアネットの背後に乳母の娘ナナリーを控えさせている。
アネットは気づいてないが、同級生として学園に潜り込ませたナナリーには僕がいない間のアネット観察日記とが近づかないように見張らせている。


ナナリーによると

「アネット様に睨まれる。」

「アネット様に" 平民のくせに学園に通うなんて。"」


などアネットから色々と嫌がらせを受けている、とクラスメイトや彼女に近寄る下位貴族の子息たちにしているらしい。


馬鹿馬鹿しいにも程がある。ナナリーから全て報告は受けているから、が嘘だという事は分かっている。


だがしかし、アネットとは同学年とはいえ、クラスが違えばアネットと交流が無い者も多くいる。それが下位貴族であるならば尚更だ。

徐々にだが、アネットに対する悪意のある噂が広まりつつあるのを懸念していた僕は、グレイル子爵令息にはピンクの件でも釘を刺すつもりもあってを受ける事にしたんだ。

それに呼び出された場所は男子寮だった。男子寮ならばピンクが同席する事は無いだろう、と油断してしまったんだ。


グレイル子爵令息は僕を男子寮へと招き入れると談話室へと案内した。

個人の部屋ならば警戒もしたが談話室なら大丈夫だろう。
そう思った僕は側近候補の者を談話室の外で待たせる事にした。

だが、談話室にはピンクとピンクの取り巻きの令息たちが待っていたのだ。


「何故、男子寮に女子生徒が居る!

グレイル子爵令息、これは一体どういう事だ?」


直ぐに踵を返して部屋から出ようとしたが、即に扉前には取り巻きたちがいて出口を塞いでいた。


「もぅ~、テオったら本当につれないんだからぁん♡

てか、何で私の目を見ないの?

普通、こんな可愛い子がいたらじっくり正面から見てみたいって思うでしょう。」


最初は媚びる声で、それからスッと真顔になり声も低めにそう言われた。


このピンクは何を言ってるんだ?

僕がアネット以外を見つめるなんて事をする訳が無いだろう。


時間の無駄だ。僕は横に居る筈のグレイル子爵令息に一言、文句を言ってから外に居る筈の側近候補を呼び寄せようとした。


が、不敬にも彼らは僕を左右、後ろと三人がかりで僕を拘束してきたのだ。

「お前たちっ、は、離せっ!不敬だぞ。罰せられたいのかっ。」


背後のやつが僕の両脇から手を入れしっかりと拘束し、両手は左右にいた者たちがしっかりと抱えこんでいる。足を動かして蹴りを入れたかったが、それに気付いた奴が四つん這いになりながら僕の両足を抱き込むように拘束する。


「お前らっ、いい加減にしろ!

こんな事、悪ふざけで済ませられんぞ。

早く離せ!」

強く叱責すれば、僅かに押さえる力が弱まった気がして一気に振り切ろうとした瞬間、正面からガツッと顔を捉えられた。

ピンクが四つん這いになっている令息を踏み台にして僕の目の前に立ち両手で僕の顔を拘束したのだ。


「んもぉ~、テオったら怖ぁ~い!

女の子の前でそんなに怒ったりしたら嫌われちゃうぞ☆

メッ、よ?」


僕の両頬に手を添えてグっと力を入れているピンクは中々に腕力がある。この力の入れ具合と言っている言葉がそぐわない。
一瞬、そんな事を思ってしまったが、今は危機的状況というやつだ。


「馬鹿っ!止めろ!

直ぐその汚ない手を私の顔から離せっ!」


僕の両頬に添えた手でガッチリと僕の顔を固定させて顔を近づけてくるピンクから距離を取りたいのに、体は令息たちに拘束されて動けない。

「大丈夫、大丈夫よ、テオ?

ちょっと見つめ合うだけだからね♡」


鼻と鼻が触れ合うほどに顔を近づけられて、


僕の唇が奪われる! 


そう思った瞬間にピンクは言った。


は!?見つめ合うだけ?


その予想外の言葉を聞いて拍子抜けして、思わず油断してマジマジとピンクを見てしまったんだ。


そのを。


「テオ、あなたは私の事が好き。

テオは私の傍で私の言葉だけを信じるの。

テオは私の言う通りに私の願い何でも叶えてくれる。

テオは私のもの。

そうだよね、テオ?」


ピンクの戯言に文句を言ってやろうと思った。なのに出てきた言葉はー。


「・・・・う、、、ん。」


違う!と言い返したいのに、何故だかピンクの瞳に吸い寄せられるように視線を外す事が出来ない。


「あぁ、これでやっとテオも私にのね。

もぅ、本っ当に手間をかけさせるんだからぁ。

テオは私の事が好きよね♡」


小首を傾げて僕を見る。


もう僕を拘束する令息たちもプリシラも手を離していて僕の体は自由な筈なのに、どうして拘束されたままな気持ちになるのだろう?


「大好きだよ、僕のXXXX。」


何故だ?僕が愛しているのはXXXXなのに!

愛している彼女の顔は浮かぶのに名前が頭の中にも口からも出てこない。


「キャッ♡

プリシラ、う~れ~しぃ~。

早くテオのにも会いたいなぁ。

あっ、その前にテオが婚約破棄しなくちゃいけないんだった!

卒業式が楽しみよね。それまでは私の傍に居て私を楽しませてねっ♡」


それからは地獄の日々だった。


何故かを罵ったりする時には名前が口から出てくるのに、好きだとか愛しているという言葉はに伝える事は出来ない。

次第にその気持ちも目隠しされたように思い出せなくなる。
なのにを見る度に胸が苦しく訳の分からない焦燥感に襲われる。


僕はプリシラと居ると見た目通りの草食男子系 ー この言葉はプリシラが言っていたのだが。ー な性格で彼女の我儘に振り回されながら侍る毎日。


でもそれを嫌だとは感じないんだ。


だけど何故か心が苦しい。


どうして心も体も僕の自由にはならないのか、と歯痒く思いながら、それでもの視界に入りたい、と思ってしまう。の表情が段々と曇っていくのに気付いていたのに。



そうして不自由な半年を過ごして僕はのだ。


卒業式の日、僕はアネット・ジェニング公爵令嬢へと婚約破棄を宣言した。


いくら操られていたとしても、アネットが許してくれたとしても、僕はこの日の僕を殺してやりたい程に憎らしく思っている。


翌日のグレン兄上の婚約者の活躍で問題は解決し僕も正気に戻ったけれど、あの日ので出来事は本当に起こった事だ。


僕は計算でも打算でもなく、アネットに泣きながら抱きつき謝り続けた。
もう二度とアネットから引き離されないように。
アネットが僕に無関心になりませんように。

そう強く願いながら。


好きで大好きで、愛している僕のアネット。

どうかもう一度、僕を選んで欲しい。


僕が宣言した婚約破棄は無かった事になった。あの性悪クソビッチピンクという物で僕たちが操られていた事が判明した。

そしてピンクの本命がグレン兄上だった為、ピンクと僕は体の関係どころか口づけさえもしていない事が証明されたからだ。

僕のを不審に思った陛下が僕に監視を付けていたお陰だ。


それにアネットが許してくれたから。


「あの、少しだけ、、、いえ、もっと!

私の体の右側が寂しかったのです。

テオ様が私の傍に居ないのは嫌、でした。」



恥ずかしくそうに、ちょっと俯きながらそう言ったアネットの頬は赤く染まってた。


そう言われて嬉しくて、もう絶対離れたくなくて、今すぐにでも結婚してしまいたかった。


だって僕が卒業したら、アネットはまだ学生だったけど、結婚式を挙げる予定だったから。


それなのに、僕のに対する罰は、" 婚姻を一年延期する "だった。

アネットの学園卒業時に、という事だから、罰と言えない程度の罰だろう。

そう思う者が多かっただろうが、僕としたら何よりも辛い罰だった。


何年、この日を待ち続けていた事だろう。

アネットが僕だけを選び永遠の愛を誓う日。


あと少し、もう少しでその日が来たのに、と思うとの罪は軽すぎる程に軽い!


処刑でも罪が軽い、と思うのにの罪は国外追放となった。


せめてもの嫌がらせで、罪人の焼印を額に押す事にする。それさえもアネットに止められたが、僕が頑として譲らなかった。

アネットは小さく息を吐いて" それならばこのような焼印にして欲しい。"と、カクカクした絵の様な文字の様なモノを紙に書いて渡してきた。


「いえ、私も本当は凄く怒っているのです。」


その言葉に思わずアネットを抱きしめていたら途中で教育的指導が僕の侍従と彼女の侍女から入った。


婚約者といえど、婚姻前の男女は過度な接触は避けますように。


クソッ!これもかっ!


改めてへの怒りが強くなったが、焼印を押した時の腫れも引いて、今は瘡蓋かさぶたとなっている額を姿見で見せれば、は一瞬目を見張ると発狂したのか、と思う程に口汚く叫び喚いていた。


暫く怒りとともに泣き叫んでいたは静かになるとブツブツと『ザマァが、、、』とか『悪役令嬢が』などと意味不明な言葉を呟いていた。


どうしてが取り乱したのかは知らないけれど、これで少しは僕の気も晴れたというものだ。きっとアネットもそうなのだろう。


それでも僕がやらかした事実は消えない。


だから僕は一生を懸けて彼女に償いをしていくつもりだし、ずっと彼女に選ばれ続ける努力をしていくつもりだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。

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