繋がれた絆はどこまでも

29

男は電話を切るなり、まっすぐライトのいる場所まで早足で来たかと思えば、ライトの顔を掴み上げた。


「何連れ去られてんだよ。俺が腑抜けだと思われるだろうが」


男はそう言い捨て、ハッキリと顔が分かるほど顔を近付けてきた。


「………あ、アシル？」


「何だよ」


「本物？」


「お前には俺が偽物に見えるのか？」


不機嫌丸出しのその返答といつも側にいるときに僅かに香るアシルの爽やかな香りが本物だと告げていた。
味方の登場と考えて良いのかライトは戸惑ったが、アシルがやって来た方からバタバタと何人もの足音とライトを心配する声が聞こえてきた。
もしかしたら先程の電話は仲間に要請をかけたのかもしれない、とアシルを完全に仲間だと捉えた上での思考が過った。
これも味方だと思わせる罠かもしれないというのに。


「はぁ………怪我は」


「ないぞ」


「そうか。なら歩けるよな」


「え、うん」


「じゃあ、歩け」


そう言ってさっさと歩き出すアシルの背を追いかけ、助けに来てくれた喜びとそれを咎める己自身とを胸の中に共存させながら、その日は無事に家へ帰ることが出来たのだった。