不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子

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コク建築設計事務所

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「ここよね?」

 私は部長から言われた十時十五分前に、コク建築設計の事務所を訪ねた。
 そこはコンクリート打ちっぱなしの壁とガラスとグリーンが組み合わせてデザインされたオシャレな建物だ。入口横に、『コク建築設計事務所』と書いた金属プレートが貼ってあるので、間違いない。デザインに特徴があるので、たぶん、黒瀬さんが設計したものだろう。
 三十五歳で都心にこんな事務所を構えられるなんて、よく考えたら、彼はすごい人だ。軽薄な雰囲気でそうは見えないけど。
 ガラスドアを開けると、受付ボードがあり、すぐ事務所スペースになっている。
 中央に大きな机、壁際に衝立のある作業デスクが並び、プリンターの後ろには華奢な螺旋階段がある。カラフルなソファーに、なぜかロッキングチェアまであった。そして、奥の独立したデスク前に黒瀬さんが座っていた。

「おはようございます」

 声をかけると、黒瀬さんが視線を上げ、私を見た。同時に、壁際に座っていた若い男性も振り向く。

「やぁ、来たな。浩平、こちらは瑞希ちゃん。今日からしばらく一緒に働いてもらう。文が丘の件をやってもらおうと思ってな」

 黒瀬さんが雑に紹介してくれたので、私は頭を下げて、自己紹介した。
 
「昂建設計の有本瑞希です。よろしくお願いします」
「よろしく。池戸浩平です。助かるよ。いつもはもう少し人がいるんだけど、工事管理の案件が重なっちゃって、出払ってるんだよね。今は猫の手も借りたいくらい、てんやわんやで……」
「浩平、猫の手は失礼だぞ。瑞希ちゃんは昂建設計の若手エースだ。お前よりよっぽどセンスがいい」
「それはそうでした。ごめんね、有本さん」

 挨拶に続けてぼやいた池戸さんを黒瀬さんがたしなめた。
 池戸さんはいい人そうで、すぐ謝ってくれる。
 黒瀬さんにそんなふうに評価されているとは思わなかったので、ちょっとうれしくなってしまった私は単純だ。
 でも、やっぱり瑞希ちゃん呼ばわりなのねと顔をしかめる。そう呼ばれると軽く扱われている気になる。

「いえ、まだぜんぜん勉強中なので、いろいろ教えてください。あと、黒瀬さん、名前呼びはやめてくださいって――」
「晴れて仕事仲間になったんだから、いいだろ?」
「よくありません!」
「はいはい。じゃあ、有本さん、こっちに来て。作業を説明するから」

 意外にも彼は呼び方を改めてくれた。軽い彼だけど、やはり仕事モードは違うのかもしれない。
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