6 / 36
コク建築設計事務所
しおりを挟む
「ここよね?」
私は部長から言われた十時十五分前に、コク建築設計の事務所を訪ねた。
そこはコンクリート打ちっぱなしの壁とガラスとグリーンが組み合わせてデザインされたオシャレな建物だ。入口横に、『コク建築設計事務所』と書いた金属プレートが貼ってあるので、間違いない。デザインに特徴があるので、たぶん、黒瀬さんが設計したものだろう。
三十五歳で都心にこんな事務所を構えられるなんて、よく考えたら、彼はすごい人だ。軽薄な雰囲気でそうは見えないけど。
ガラスドアを開けると、受付ボードがあり、すぐ事務所スペースになっている。
中央に大きな机、壁際に衝立のある作業デスクが並び、プリンターの後ろには華奢な螺旋階段がある。カラフルなソファーに、なぜかロッキングチェアまであった。そして、奥の独立したデスク前に黒瀬さんが座っていた。
「おはようございます」
声をかけると、黒瀬さんが視線を上げ、私を見た。同時に、壁際に座っていた若い男性も振り向く。
「やぁ、来たな。浩平、こちらは瑞希ちゃん。今日からしばらく一緒に働いてもらう。文が丘の件をやってもらおうと思ってな」
黒瀬さんが雑に紹介してくれたので、私は頭を下げて、自己紹介した。
「昂建設計の有本瑞希です。よろしくお願いします」
「よろしく。池戸浩平です。助かるよ。いつもはもう少し人がいるんだけど、工事管理の案件が重なっちゃって、出払ってるんだよね。今は猫の手も借りたいくらい、てんやわんやで……」
「浩平、猫の手は失礼だぞ。瑞希ちゃんは昂建設計の若手エースだ。お前よりよっぽどセンスがいい」
「それはそうでした。ごめんね、有本さん」
挨拶に続けてぼやいた池戸さんを黒瀬さんがたしなめた。
池戸さんはいい人そうで、すぐ謝ってくれる。
黒瀬さんにそんなふうに評価されているとは思わなかったので、ちょっとうれしくなってしまった私は単純だ。
でも、やっぱり瑞希ちゃん呼ばわりなのねと顔をしかめる。そう呼ばれると軽く扱われている気になる。
「いえ、まだぜんぜん勉強中なので、いろいろ教えてください。あと、黒瀬さん、名前呼びはやめてくださいって――」
「晴れて仕事仲間になったんだから、いいだろ?」
「よくありません!」
「はいはい。じゃあ、有本さん、こっちに来て。作業を説明するから」
意外にも彼は呼び方を改めてくれた。軽い彼だけど、やはり仕事モードは違うのかもしれない。
私は部長から言われた十時十五分前に、コク建築設計の事務所を訪ねた。
そこはコンクリート打ちっぱなしの壁とガラスとグリーンが組み合わせてデザインされたオシャレな建物だ。入口横に、『コク建築設計事務所』と書いた金属プレートが貼ってあるので、間違いない。デザインに特徴があるので、たぶん、黒瀬さんが設計したものだろう。
三十五歳で都心にこんな事務所を構えられるなんて、よく考えたら、彼はすごい人だ。軽薄な雰囲気でそうは見えないけど。
ガラスドアを開けると、受付ボードがあり、すぐ事務所スペースになっている。
中央に大きな机、壁際に衝立のある作業デスクが並び、プリンターの後ろには華奢な螺旋階段がある。カラフルなソファーに、なぜかロッキングチェアまであった。そして、奥の独立したデスク前に黒瀬さんが座っていた。
「おはようございます」
声をかけると、黒瀬さんが視線を上げ、私を見た。同時に、壁際に座っていた若い男性も振り向く。
「やぁ、来たな。浩平、こちらは瑞希ちゃん。今日からしばらく一緒に働いてもらう。文が丘の件をやってもらおうと思ってな」
黒瀬さんが雑に紹介してくれたので、私は頭を下げて、自己紹介した。
「昂建設計の有本瑞希です。よろしくお願いします」
「よろしく。池戸浩平です。助かるよ。いつもはもう少し人がいるんだけど、工事管理の案件が重なっちゃって、出払ってるんだよね。今は猫の手も借りたいくらい、てんやわんやで……」
「浩平、猫の手は失礼だぞ。瑞希ちゃんは昂建設計の若手エースだ。お前よりよっぽどセンスがいい」
「それはそうでした。ごめんね、有本さん」
挨拶に続けてぼやいた池戸さんを黒瀬さんがたしなめた。
池戸さんはいい人そうで、すぐ謝ってくれる。
黒瀬さんにそんなふうに評価されているとは思わなかったので、ちょっとうれしくなってしまった私は単純だ。
でも、やっぱり瑞希ちゃん呼ばわりなのねと顔をしかめる。そう呼ばれると軽く扱われている気になる。
「いえ、まだぜんぜん勉強中なので、いろいろ教えてください。あと、黒瀬さん、名前呼びはやめてくださいって――」
「晴れて仕事仲間になったんだから、いいだろ?」
「よくありません!」
「はいはい。じゃあ、有本さん、こっちに来て。作業を説明するから」
意外にも彼は呼び方を改めてくれた。軽い彼だけど、やはり仕事モードは違うのかもしれない。
52
あなたにおすすめの小説
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる