不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子

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間に合うの?②

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「ちょっと待った。ここのスロープになぜ段差を入れるんだ?」

 図面をチェックしに来た黒瀬さんが後ろから覗き込んで、私の手を止めさせた。
 またかと思いながら、私は答える。昂建設計ではここまでチェックは厳しくなかった。あまりに指摘事項が多いので、時間もないのに、いちゃもんをつけられている気分になった。
 つい態度に出しそうになりながら答える。
 
「石を貼るので、十ミリの段差ができます」
「なぜ石を貼る?」
「滑り止めと見栄えです」
「見栄え、ね。勾配は……四度か。1/15を取れてないな」

 スロープ勾配は1/15以下が望ましいのは知っている。でも、その勾配を取るにはスペースが足りない。私は最大限で傾斜をゆるやかにしたつもりだった。

「ちゃんと基準はクリアしています!」

 不満げに言うと、黒瀬さんはいつものように口端を曲げた。でも、めずらしく目が笑っていない。彼は軽い口調で言った。

「ふぅ~ん。昂建設計では机上の空論を教えてるってわけか。だから、コンペに勝てないんだよ」
「なっ!」

 けなされて、カッと頭に血が上った。
 私のことだけじゃなく自社のことまで言われる筋合いはない。
 
「たかが0.2度の違いでなんでそこまで言われないといけないんですか!」

 いらついて叫んだ。
 やっぱりこの人嫌いだわと思いながら。
 黒瀬さんは皮肉な笑みを崩さず、尋ねてきた。

「これはなんのためのスロープだ?」
「車椅子やベビーカーが通るための……」
「そうだ。わかってるけど、わかってないんだな」

 あきれた表情をされて、むっとする。そんなにこだわるところだろうかと思ったのだ。
 上から目線なのもむかついた。そりゃあ、彼からしたら、私はひよっこだろうけど。

「だから、ちゃんとバリアフリー法の基準は守ってます!」
「最低限の、な。……まぁ、いい。ちょっとついてこい」

 黒瀬さんはいきなり車のキーを取り、上着をはおって、外出しようとする。
 時間がないのに、出かけてる暇はないと思い、私は呼び止める。

「ちょ、設計はどうするんですか!」
「そんなに時間はかからない。池戸、少し出てくる」
「はい、いってらっしゃい!」

 そっけなく告げて、黒瀬さんはさっさと外へ行ってしまう。
 私は慌ててその後を追いかけた。
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