フラン

大波小波

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「ああ、楽しかった! ね、秀実くん!」
「はい……」
「あ、ごめん。疲れた?」
「いいえ、大丈夫です。でも」
 何かな、と士郎はコーヒーカップを置いた。
「こんなに、よくしてもらって。どうしてですか? なぜ、近藤さんは僕なんかに、こんなに親切にしてくださるんですか?」
 それには、士郎は難しい顔をした。
「はて。なぜだろうね?」
「真田さんには、『可愛いから連れて帰ってもいい?』と」
 うん、と伸びをしながら、士郎は答えた。
「確かに秀実くんは、可愛いよ。でも、それだけではない何かを、感じる」
「何でしょう」
「強いて言えば、放っておけないから、かな?」
 自分でもよく解らない、と士郎は言う。
「ただ、亡くなった父や祖父は、困っている人がいたら手を差し伸べろ、と私に何度も言っていた。それが働いたのかもしれない」
 それとも、所持金ゼロでカフェに入る度胸を買ったのかな、と笑った。
「あれはもう……、忘れてください」
「体で払います! 何て言ってたね」
 そこで士郎は、身を乗り出した。
「払ってもらおうじゃないか、その体で」
 ひゅっ、と秀実は息を呑んだ。

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