断罪回避のはずが、第2王子に捕まりました

ちとせ

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19.保健室

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翌日、重たい体をひきづって学校に行くと、僕のロッカーの中には丁寧にも綺麗な紙袋に入った辞書が。

借りた時には返しに来ると言っていたが、やめてくれたらしい。
周囲の目がある中で接触して来ないのは僕としてはホッとする。

昨日はずっと抱きしめてくれていたが、時間が経つにつれてあれはほんの気まぐれだったのではないかと思えてきた。

(なんだか…行動がスマートなのも、慣れてる感じするんだよな…)

この国では王家であっても婚約者などの制度はなく、時期が来たら恋愛結婚をするかお見合いをして相手を選ぶ。
同性婚が当たり前とされているこの世界では、王族であっても相手の性別はどちらでも問題ない。

さすがに陛下ともなると王位継承のために正妻が男性であっても側妻として女性をとることが多いが、最近は男性でも子供を産める技術が発達しつつある。

とはいえ、王族が恋愛結婚できると言っても相手の身分は重要だ。

そのためこれまでの王家親族の方々の中には、学園に通っている間は自由な期間として来るもの拒まず状態だった人もいると聞く。

レオン王子も、あのルックスとカリスマ性だ。
これまでのスマートなやり方を見るに、経験値は決して低くないだろう。

もしかしたら、僕に構っていたのは噂が事実ではないと何かのきっかけで知ったことで、急に哀れに思ったのかも。

昨日の兄の登場は僕の不憫さをさらに加速させただろうか。

例えるなら、たまり場に入れてもらえなかった猫が凌ぐ屋根もなく雨にさらされてるのがかわいそうになって傘を差し伸べたくなったような、そんな感覚なのかもしれない。

それだって猫にかわいげがなければ、ずっと構ってあげようとは思わないだろう。

僕は僕自身、かわいげのかけらもない人物だということを知っている。

情をかけるに値しない人間だということも。

紙袋に入った辞書を見て、どこかで王子はきっと僕と距離を置こうと思ってるんだろうな、ということを痛感する。

そりゃあれだけ信用してると言葉にも態度にも表してくれているのに僕は王子の望む回答を1つもできてないのだ。

愛想を尽かしていてもおかしくないよね。

(…王子も、僕が一緒にいるのは釣り合わないことだと思ったのかな…)

それに、潮時だって言ってた…
興味がなくなっちゃったのかな…

わかっていたことなのに気持ちが沈みそうになる。
きっと昨日の兄との出会いが知らずストレスになってたのかも、と無理矢理自分を納得させて自分の席についた。






あれから数日経ったが、何も変わり映えのない日常を送っている。

ただ一つ違うのは、今日はすこぶる体調が悪いということだ。

…なんだか、頭がすごく重い。
視界がぐらぐらして、めまいがする…

朝から調子は悪かったけど、時間が進むにつれて、体調が最悪になってくるのを感じる。

これ以上授業を受けていても意味がないどころかさらに悪化しそうなので、早退させてもらおう。

僕は寮に帰る前に保健室で解熱剤だけでももらってこなきゃ、と思い立ち保健室へ向かった。




コンコン「失礼します」

あれ、誰もいないのかな…?
ドアは開いているようなので中に入るが、保険医の先生は見当たらない。

「解熱剤…勝手にもらっていいよね…?」

誰にともなく確認して、薬を探し始める。

ふとベッドのある付近に人の気配を感じ、悪いことをしているようで余計にコソコソしてしまう。

「んん…」

ベッドの住人が寝返りを打つ気配がして、なんとなしにそちらを見る。

(王子?)

カーテンの隙間から見えた顔が思わぬ人物で、確かめようとそっと近づいてみる。

そこには寝顔まで完璧な王子が、仰向けでスヤスヤと眠っている。

普段は近寄りがたい雰囲気の彼も、寝ている姿はなんだかかわいく見える。

そんなふうに思うのは僕も熱を出していて思考がおかしくなってるのかな?

熱でまとまらない考えのまま、ふらふらと近づき、気づいたら寝ている彼のベット脇に座り込んでいた。

(誰も信用できないのは誰よりもわかる…か)

彼のどこか疲れているような寝顔を見ながら、あの日の夜の言葉を思い出す。

王族も、いろいろと大変だよな…

気づけば彼のサラサラとしたダークシルバーの髪を撫でている自分がいた。

「この前も…ありがとうございました…」

小さく呟くように口から言葉が漏れる。
なんだかすごく暖かい気持ちになりながら、そろそろ行くか、と頭から手を離そうとしたのだが。

「…っ!」

いつのまにか僕の服の袖を王子に掴まれていてびっくりする。

(起きて…!?)

だがパッと王子の顔を見ても、スースーと寝息を立てたまま起きる気配はない。

無意識に甘えているってこと…?

普段の姿からは全く想像のできない彼の行動がなんだかかわいくて、思わずクスッと笑ってしまう。

「もう少しだけ…」

そう自分に言い聞かせて頭を撫でるのを再開した僕は、そのうち睡魔に襲われていつのまにかその場に突っ伏して寝ていた。






「…かわいいやつ…」









「……ん」

どうやら僕は眠ってしまっていたみたいだ。

起きた時には保健室のベッドで1人寝ていて、体は少し軽くなっている。

寝る前に何かあったような…と記憶を辿ろうとするも、何が夢で何が現実だったのか頭が霞んでよくわからなかった。

とりあえず保険医の先生にはこんなに熱が上がるまで無理しないこと、と怒られて寮の部屋まで送り届けられた。
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