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25.見切り発車
しおりを挟む結局あれから僕はちゃんとした計画も立てられないままどっちつかずの状況だ。
父上からあのような命令が出た理由を探っているが、徹底的に隠しているようで何も掴めない。
1週間以内に明らかにして対策を取れたら、と思っていたがその非現実さに胃の痛みは増すばかりだ。
それと同時に、父上からはあまり信頼されていないようで、刺客を利用した他の不穏な動きも感じる。
王子が不必要な損害をかぶってしまうことがないよう、せめて危険が迫ってることだけでも伝えられないだろうか。
そんなことを考えながら学園の廊下を歩いていると、廊下の曲がり角で王子の後ろ姿を見かけた。
幸い、この廊下は普段使っている生徒が少なく、今も他には人がいないためチャンスかもしれない。
自分がどう行動するべきかは考えがぐちゃぐちゃでわからないが、とにかく王子に物理的な危険に気をつけてほしいことだけは伝えないと!
「レオンでんッ………か」
勢いで声をかけてしまったが、角を曲がるまで隣にエリスがいることに気づかなかった。
「どうした?ノエル」
「あ、いえ…」
急に考えなしに行動してしまったことを恥ずかしく感じる。
「あの、先生から殿下にと書類を預かっていたのですが、その書類を今持ってないというのに声をかけてしまいました…」
このままでは怪しまれると咄嗟に先生も巻き込んで取り繕う。
かなり苦しい言い訳だが、この場で王子に危険が…と言うよりは何倍もマシだろう。
「君でもそんなことがあるんだね…」
王子からはなぜか溶けるような笑顔を向けられる。
うう、…やめてくれ…ボロが出そう。
それに、この前のことを思い出しちゃって…
とてもじゃないが王子の目を見れない。
「……ふふふ、ノエル様の意外な姿を見た気がします。
なんだか僕たち仲良くなれそうですね?」
隣にいたエリスは可愛らしい顔に笑みを浮かべ、首を傾げながら問いかけてくる。
嫌われてると思ってたエリスから意外な言葉だ。
「どうですか?今度一緒にお茶でもしませんか?」
「…い、いえ…失礼します」
曖昧な回答をし、その場を後にした僕はその後担任の先生にも根回しして、自分の部屋へ戻った。
翌日、僕は学園の教師からの呼び出しで授業終わりに教員室へ向かっていた。
昨日巻き込んでしまった先生にももう一回お礼を言っておこうかな、なんて考えていると向こうからエリスが1人で歩いてくるのが見える。
普段はなるべく近づかないようにしているつもりなのだが、昨日に引き続き2日連続で会ってしまうとは。
「ノエル様、こんにちは。
教員室へ行くのですか?」
「…?こんにちは、はい…」
会釈だけしてすれ違おうと思ったが声をかけられてしまう。
どうして僕の行き先を知ってるのだろう。
ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべて近づいてきたエリスは、僕の目の前までくると急にその顔から笑みを消し、憎しみのこもった目を向けてきた。
「!?」
彼の顔の変化に驚く。
その狂気のこもった視線は、普段の彼からは想像もできないような雰囲気だ。
「おまえ、邪魔なんだよ。
悪役の分際でレオン様の周りうろつくとかなんなの?」
「!?」
彼の狂気を通り越して能面のような表情とその言葉にゾワッと背筋が震える。
それに、聞き間違いじゃなければ悪役って言ったよね?
もしや、彼も……
「どうせ断罪されるくせにさ~。
ボッチだからちょっと優しくすれば利用できるかと思ったから昨日優しくしてやったのに響かないし、ほんと、ウザすぎるんだよね」
「…君は…」
「レオン様がちょっと気にかけてるからって勘違いすんなよ。
あの方が好きなのは僕なんだから」
レオン王子が本当に好きなのはエリス…
なぜかそこが僕の中でひっかかってしまって、体がピク、と反応した。
それに気をよくしたエリスは得意げに話し続ける。
「他の人に言い寄られてる時には邪魔するために間に入ってきたりして。あれって絶対嫉妬だよね。
それに、僕のことを口説いてるんだろうなって行動が多いし」
嫉妬……口説く……
僕に言ってくれたようなことを他の人にも言ってるのだろうか。
もしかしたら、キスも…
たしかに、彼がエリスと一緒にいるところを見かけることも少なくない。
そうだ、入学当初から2人の距離は近かったじゃないか。
僕はどうしてそうされてるのが自分だけだと思ったんだろう。
生きてる世界が違うとか思いながら、心の底では自分が特別だと勘違いしてしまっていたのだろうか。
そもそも、父上の命令で彼を陥れようとしている身でそんな感情になること自体身の程知らずもいいとこだ。
僕がそんなことをグルグルと考えている間に、エリスはさらに僕との距離を縮めてきた。
そして唇を歪めて、僕の耳元に吐き捨てるように囁く。
「ねえ悪役さん。知ってるんだよ、君のお父様がどんな手を打ってるか。
レオン様が失脚したら、君の家が得をする仕組みになってるんだよねぇ」
僕の心臓がズキリと跳ねた。
「……何のことですか」
精一杯、平静を装う。でも、冷や汗が首筋を伝うのを止められなかった。
エリスはそんな僕の反応を楽しむかのように、わざと可愛らしい声を上ずらせた。
「僕、知ってるんだ。刺客が動いてることも。
『ターゲットは王子。ノエル・ルーズヴェルトの行動次第ではすぐにでも実行していい』って」
「……!」
背中が一気に冷たくなる。
父上が、保険として雇った刺客たちだ。
その存在は知っていたが、そこまで具体的な情報をエリスが握っているなんて…。
「君がやる気ないってリークすることもできるよ。ま、どうするかは君次第だけど?ね、どうする?悪役さん」
エリスは小さく笑い、わざと僕の袖口を掴んで甘えるふりをする。
だがその指先は、まるで爪で僕の皮膚を引き裂くかのように冷たく感じた。
感情がぐちゃぐちゃになっている僕をよそに、エリスが僕の後ろ側をチラッと見た。
そして急に僕を両手で強く押し退け、自分は床に倒れ込む。
「うっ…」
背中を壁に強打した僕と、床に倒れ込むエリス。
そこにタイミング良く王子が現れた。
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