断罪回避のはずが、第2王子に捕まりました

ちとせ

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26.噂

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「いったぁ…ノエル様、ひどいです。
いくら僕のことが嫌いだからって、こんなふうに痛めつけるなんて…」

え?あ、そういうこと…?

急に始まったエリスの演劇に、反論するのも悪手な気がして咄嗟に言葉が出てこない。

「何してるんだ、大丈夫か?」

王子が、一緒に歩いていた現騎士団長の息子ランドルとこちらに近づいてくる。

「レオン王子、どうか彼を怒らないであげてください。僕が、嫌われてるとわかっているのに近づいたから…」

エリスが大きな目を潤ませ、悪いのは自分だと王子に訴えかける。

この状況でその解説をしたのなら、誰がどう見ても悪いのは僕になるだろう。

それに王子は昨日エリスが僕と仲良くしようとしていたのを知っている。
悪意を持ってるなんて思わないだろうな。

「そうなのか?ノエル」

王子が僕にも確認してくれるが、王子の後ろからやってきたランドルがそれに反応する。

「殿下、確認するまでもないんじゃないですか。
そいつの醜悪さを考えればエリスが逆恨みされるのも容易に想像つきますよ」

ランドルがそう吐き捨てた時、エリスはわざとらしく涙ぐんだような声を出した。

「ほんと言うと…僕、もう限界なんです…
ノエル様に何度も嫌がらせされて…
殿下の前だから、今まで黙ってましたけど…ずっと怖かったんです」

その瞬間、エリスが懐から何かを取り出して王子やランドルに見えるように広げる。

それは、破かれた僕のノートの切れ端だった。
昨日の授業後、カバンの中から無くなっていたノートだ。

「これ、ノエル様が僕の机に入れてたんです…『お前を消してやる』って…っ」

「……!」

口の中がカラカラに乾く。
もちろん、そんなもの僕がやったはずがない。だけど、これでは完全に僕がエリスを脅したかのようだ。

エリスはさらに追い打ちをかけてくる。
わざと震える声で王子に縋るように言った。

「僕、もうこれ以上は耐えられません…
でも、殿下の顔を潰すわけにはいかないから、どうか…内々に穏便に済ませてください…」

ランドルが僕を蔑んだ目で一瞥した後、フンッと鼻で笑う。

「殿下、やはりコイツは危険すぎます。今のうちに処分を──」

「そうなのか?ノエル」

レオン王子の声は、さっきまでとは違い、少し低く、試すような響きを帯びていた。
その瞳が僕のすべてを見透かそうとする。

僕は──父上の命令で王子を裏切ることを決めている身だ。

そして、エリスの背後には父上が雇った刺客たちがいる。
下手にここで否定すれば、王子にもっと危険が及ぶかもしれない。

いや、きっとエリスなら次はもっと直接的な罠を仕掛けるだろう。
これ以上、王子に面倒をかけたくない。

僕はぐっと唇を噛みしめて、頭を下げた。

「……はい」

エリスの口元が、わずかに吊り上がったのが見えた。

「はぁ…」

心底迷惑だ、というようにレオン王子がため息をつく。

(…見限られちゃった、かな)

ズキ、と胸が痛むがそれが正しいとも思うのでその痛みには気づかないふりをした。

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