66 / 232
第二部 第五章 成長と暗雲
3
しおりを挟むペチペチと頬を叩かれる感触が、俺の意識を覚醒させていく。
ぼんやりと目に映ったのは切れ長の紅眼であった。
「グレイズ君、起きなさい。起きて」
「起きてますよ。お久しぶりですアクセルリオン神様」
幼女女神は俺が起きたことに気が付くと、頬を叩くのをやめてニコリと微笑む。
その顔は幼女らしからぬ妖艶な色気を含んだ笑顔だったが、生憎と俺には通用しないようだ。
「相変わらず、つれない態度ね。せっかく、美女を五人も付けてあげたのにだれ一人手を付けないなんてねぇー。真面目かっ!って突っ込みたくなるわ」
肩を竦めていたアクセルリオン神の後ろからハクも現れていた。
「そうですよ。散々、あたしがお節介焼いても、『俺は~』とか、『ちげーし』とか言って誤魔化してくるんです。本当はみんな好きなのにねぇ」
「あら、そうなの。世界を滅ぼす暴走をしないように好みの子を集めたんだけど。お気に召さなかったかしら。あ、そうだ! それならハクの姿を人にしてあげるわ。それなら気に入るでしょ。いつもあれだけベタベタしているんだから」
「え? え? そんな話聞いてませんよっ! アクセルリオン神様ぁ! え? え?」
アクセルリオン神がハクの頭に手を置いたかと思うと、光が包み込んでいき、狼の姿だったハクの体が人型に変化していく。
やがて光が収まると、そこには白髪の獣耳とフサフサの白い尻尾を持つ、金色の眼をした年若いしなやかな身体つきをした女性が現れていた。
「ひゃああっ! アクセルリオン神様ぁ! この姿は無しって言ったじゃないですかぁ!」
「そう? そのうち神様になるグレイズ君の筆頭従属神となるんだから本体も見せてあげないと。ホラ、隠さないで」
幼女によって、体を覆っていたハクの手がどけられていく。
全裸なのかと一瞬身構えてしまったが、薄い布が体毛のように体に纏わりついていてホッと安堵していた。
「グレイズ殿、見てはいけませんよ。あたしの本体。らめぇえ。アクセルリオン神様ぁ」
「あ、ああ。元の姿の方がいいな。アクセルリオン神様、戻してやってくれ」
「えー、天なる国でもハクの本体の人気は高いのよ。散々譲ってほしいという神様たちからのラブコールを蹴ってまで、グレイズ君にあげたんだから、大事にしてよね。そうしないと、掛け金をせしめられないじゃないの」
ハクを元に戻してほしいとアクセルリオン神に伝えると、腰に手を当ててプンスカと怒り出したが、なんとなくこのアクセルリオン神も例の賭け事に加わっている気がしてならない。
気になったので、とりあえずカマを掛けてみることにした。
「実は今度セーラって子が加わることになって、おばばが倍率を変えるって……」
「えっーーー!! そんな話、神殿長から聞いてないわ! 嘘でしょ。早急に神様たちに伝え――」
「ア、アクセルリオン神様ぁ! バ、バレますからぁ」
ハクが慌てて幼女女神の口を塞ごうとしていたが、時すでに遅し、俺は幼女女神の関与を確信していた。
「アクセルリオン神様……貴方まで参加しているんですか……」
「ち、違うわよ。神様が賭け事なんてす、す、するわけないでしょ」
「……本当ですか?」
ジッと目を見つめると、アクセルリオン神の目がそっと視線を逸らしていく。
完全に参加しているようだ。この世界、本当に大丈夫だろうか。神様が賭け事に参加してて……。
バレたと悟った幼女女神が唇を尖らせて反論してきた。
「神様だって息抜きしたいのよっ! わがまま上司からの無茶振りとか、同僚からのやっかみとかストレスがたまるんだからねー。いいじゃない、グレイズ君の正妻レースに参加するのくらい可愛い物でしょう。それともストレス解消に極大魔法を下界に打ち込んでいいの!」
なんか知らんが逆ギレされてしまったようだ。それにしても、ストレスから下界に向かって極大魔法とかって危なすぎだろう。
確か、世界の創造で力を使い果たして今の格好になったと聞いているが……。
俺は腰に手を当ててプンスカしている幼女女神の頭をそっと撫でて宥めることにした。
「あー、はいはい。ストレスで地上に攻撃魔法を落とされたらかなわないから怒りはしないですけどね。自重はしてください。自重は」
頭をなでてやると、幼女女神は途端に機嫌を直したのか、ニコリと微笑み始めた。
「ハク、一点掛けなのでよろしくね。ほら、さっきの美女ケモノっ子がグレイズ君の物になるのよ。モフモフし放題なんだからね」
「ア、アクセルリオン神様ぁ! アレは駄目です。あたし恥ずかしいからぁ」
確かにハクをモフモフはしたいが、本体のままでは色々と支障をきたすと思うので丁重にお断りしておかねばならん。
「ゲフン、ゲフン。まぁ、ハクのことはそのままでお願いするとして、今日の呼び出しは何の用でしたか?」
話が危ない方に流れていきそうだったので、無理矢理に本題にと戻すことにした。
「え!? 今日の呼び出しの理由? うーんと、うーんと……よく頑張りました。これからも頑張りましょうって言いたかっただけよ」
幼女女神が精いっぱい背伸びして俺の頭を撫でようとしていたが、届かないようで、ハクが台座となって下にもぐりようやく俺の頭に手が届いていた。
「え? 本当にそれだけなんですか?」
「うん、それだけ。グレイズ君、有能だもん。天啓子の四人ももうハクと喋れるレベルまで成長しているしね。それに暴走の気配も全く見られないし。今までの神様候補で順調に行っているわよ」
ハクの上に立ったアクセルリオン神は腕組みをしてウンウンとうなづいている。
本当に今日の呼び出しは顔が見たかっただけのようだ。多分、退屈だから呼んだというのが正解のような気がする。
「何か重大なことが起きたのかと思いましたよ」
「重大なことはグレイズ君が結婚しないことね。これは重大事だわ。セーラちゃんだっけ。あの子もあとでグレイズ君の運命の輪に紐付けしておくからね」
「え? 運命の輪って何ですかそれ」
「下界で言うところの『運命の赤い糸』ってやつよ。紐付けした人と結ばれると幸せになる確率が上がるようになっているし、紐付けが千切れると不幸なことが連続するようになるの。グレイズ君の激運からの反動だから、千切れた子は相当悲惨な目に合うと思うわ。ちなみにメリー、ファーマ、カーラ、アウリース、アルマ、ハクはもう紐付け済みね。そこにセーラも加わるからよろしく」
気軽な感じでアクセルリオン神は言っているが、これはハクが言っていた俺から離れるとみんなが不幸になるって話のことだよな。
セーラも十分に不幸な生い立ちで育っているのに、俺の運命に紐付けされるとかって可哀想すぎるだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それじゃあ、みんなが不幸になっちまう」
「え? グレイズ君は神様になる予定だから、バンバン紐付けするつもりだけど。何か?」
「困りますよ。ただでさえ、商店街の連中から、からかわれているんで、これ以上は……」
「神様になる男なら、女の子の二〇〇人くらい面倒みる甲斐性を見せなさい」
「んな、無茶な」
幼女女神が無茶ぶりをしてきていた。二〇〇人も面倒見られる自信など欠片も持ち合わせていない。
「神様候補生なんだから、デンとしてればいいのよ。デンと。とりあえず、セーラちゃんは紐付け終わったからよろしくね。それと、ハク一点賭けということを忘れないように! 今日の呼び出しは以上で終わり。またね」
戸惑う俺の額に幼女女神が手を触れた方と思うと辺りが真っ白に染まっていった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。