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第二部 第十六章 ブラックミルズ流悪だくみ
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しおりを挟む問題の被害者であるメラニアが前に出てきていた。
「ジェネシス様、王たる者が私怨で裁定を下してはなりませんよ。わたくしの件はアルマさんや闇市に比べれば微々たるものですので……」
メラニアはアルガドからされたことを微々たるものと言ったが、自らの名誉をアルガドのわがままのために貶められ、その命すら狙われたのを微々たるものと言えるメラニアの度量に感歎していた。
「メラニアさんはもっと怒るべきだとあたしは思います。女性としての名誉を著しく貶められたんですからっ! あの豚は城門に全裸で逆さに吊るして見世物にしてやるべきだわ!」
メラニアととても仲良くなったセーラが、大人しいメラニアに変わって憤激していた。
ともにダンジョンを生還し、彼女の人となりを知った冒険者たちも、アルガドが彼女に対して行ったことを知り憤慨しているのである。
もちろん、俺も含めてだ。自らの欲望を達成するために何ら落ち度のない女性を貶めたことは許すべきことではなかった。
「メラニア、無実。あの日、あったことはすべてアルガドとその関係者が仕込んだ作り話だった。メラニアを貶めるために関係した者、アルガド、マリアン、ヴィケットの三名。この三名、許すことできない極刑をもって対処すべき。『王族殺し』は未遂とはいえ重罪」
証拠集めを手伝ったカーラも、アルガドたちが行ったことを許せないようである。
マリアンとは共闘を結んだが、それはアルマの件で帳簿を提出させることだけであり、メラニアの件は別件であるため、許すわけにはいかない。
「メラニアの件は関与した者には相応の報いを受けてもらうつもりだ。それが、たとえ大貴族だろうが、宰相であろうが関係はない。きっちりと落とし前をつけさせてもらう」
メラニアが貴族の子女であったとはいえ、一人の女性の運命を自らの欲望成就のために翻弄したやつらは許すわけにはいかなかった。
「その件に関しては余の方で、すでにクレストン家当主と宰相にブラックミルズへ来るようにと使者を発しておる。もちろん、二人を断罪するためだが、表向きは『出奔した余を保護した者を今後は頼る』と甘い餌をバラ撒いておいたので、どちらも大急ぎでこの神殿にくるであろう」
メラニアの件に関しては、宰相の関与もマリアンから示唆されているため、ジェネシスの怒りは相当のものであった。
ブラックミルズの一連の事件の発端は、クレストン家と宰相との権力闘争の確執が元で発生している可能性もあるのだ。
「ジェネシス様……。命を粗末にされるようなことはお控え下さいませ……」
姉であるメラニアが、弟の暴走を心配した顔で見ていた。
「前も言ったが、王家の血を継ぐ姉上が新たな英雄グレイズ殿の近くに侍るのが決まった今、余に怖いものなどない。王家は余の代で潰しても構わぬと思えるからな」
ジェネシスは自らを長年傀儡にしてきた宰相とも差し違えるつもりなのか、悲壮な顔をして姉であるメラニアと俺を交互に見ていた。
「勝手に死ぬな。俺は仲間を死なせるつもりはないからな」
俺の言葉に反応するようにともにダンジョンから生還した冒険者たちが、同じように仲間であるジェネシスを守ると口にしていく。
生還率が極端に低いと思われたあの転移から生還したのは、皆を明るく励ましたジェネシスの力もあったからだと誰もが理解しているからこそ、彼を命がけで守る気でいるのだ。
もちろん、俺も仲間を守ると言った誓いを破るつもりは毛頭ない。宰相がジェネシスの命を狙うのであれば、迷うことなく神器の力を使わせてもらうつもりでいる。
「グレイズ殿……みんな……。余はやはり王城を出てよかった。姉上に会えたこともあるが、最高の仲間を得ることができたことに感謝しておる」
ジェネシスの言葉に参加している者たちからすすり泣く声が聞こえてきていた。
「はいっ! 泣くのはあと! まずはアルガドを徹底的に追い詰めて断罪する場に引き出すのが先決よ。泣くにはその後ね。それからは祝勝会をして、みんなで酔い潰れるわよ。いいわね」
メリーが湿っぽくなった空気を変えるように声を張って、アルガドを追い詰める方策を検討する方へ話を持っていった。
「そうだな。メリーの言う通りだ。まずはアルガドたちを追い詰めないと」
話がアルガドを追い詰める方へ変わると、それまで黙って聞いていたジェイミーが自分の出番がきたかといった顔をして前に出てきた。
「じゃあ、クソ豚野郎のアルガドとその一党は、ブラックミルズ流に追い詰めてやるとしようか」
「ブラックミルズ流? ジェイミー、なにを企んでいる」
大がかりな悪戯を考え出したように顔をニヤつかせているジェイミーからは、どこか俺を弄って遊ぶ商店街の連中と同じような匂いが感じ取れていた。
「ゴースト騒動でアルガドを徹底的に追い込んでやろうと思ってな。どうせ、陛下が呼んだクレストン家の当主も、宰相閣下もこのブラックミルズに到着するまでにある程度時間がかかるだろうからな」
「ゴースト騒動だと? 一体なにを……」
「死んでいるお前らを使って、アルガドが一睡もとれないようにしてやろうかと思ってな。人間、一番しんどいのは寝られないことだしな。あの豚に恐怖の一週間を与えてやろうと思うぞ」
ジェイミーがニヤついていた顔を引き締めたかと思うと、真剣な顔で俺を見ていた。
「ゴースト騒動か……面白そうであるな。ジェイミー殿、準備はどうする?」
ジェネシスも、ジェイミーの提案に乗り気を見せていた。
「すでにすべてのギルド職員が、グレイズの作る新しい冒険者ギルドへの転職を承諾している。アルガドのアルマへの態度を見聞きしていた者が多数いて皆一発であいつを見限った。今のアルガドは冒険者ギルドの中では支援者のいないお飾りに過ぎない。だから、まずはギルド職員の口からグレイズたちのゴーストが街中で彷徨っていると冒険者たちに広めさせる。もちろん、商店街の連中にも手伝ってもらう。すでにおばばたちには、グレイズの無事とこの盛大な悪戯について詳細を詰めてあるからな。ことが悪企みとなると、商店街の連中は顔色が変わって積極的すぎるがな」
ジェイミーがすでに冒険者ギルドと商店街の連中に、アルガドへ仕掛ける悪戯の手回しを終えていた。
本来なら死んでゴーストになるのはダンジョン内だけに限られるが、意外と迷信深い冒険者たちの間では、無念の死を遂げた者が魂だけ地上に帰ってきてゴーストとして彷徨うと囁かれている。
もちろん、冒険者だけでなく一般の人も迷信深いことには変わりなく、貴族たちもそういった迷信を信じているのである。
「冒険者や街の連中を使って、俺たちがダンジョンから未練がましくゴーストとなって帰ってきたとわけか……。なるほど、それなら死んだ甲斐があるというものだな。死んでいるゴーストが夜中にアルガドの枕元に立っても不思議ではないしな」
ジェイミーの仕掛けようとしている悪戯は、アルガドにしてみればたまったものではないだろう。
自分が暗殺者を送り込んでまで殺した相手が、それを恨みに思って枕元に立たれては、おちおち寝ていられないはずだ。
「ファーマたちお化けするればいいのー? ファーマ、お化けするの得意だよー」
気配を消すのが得意で素早さS+のファーマの本気の動きは一般人から見ると、瞬間移動しているようにしか見えないはずであった。
「それもいいけど、確か倉庫に『幽鬼の外套』が幾つかあったはず、あれだと身体が透けてゴーストらしく見えるし、気配も消せるはずよ」
メリーが倉庫の在庫にある『幽鬼の外套』を使って、ゴーストの演出効果をさらに増す提案を出していた。
元々は自らの気配を消すための外套だが、副次的な効果として身体が半透明になるのだ。
「アレ、外套に魔法の光をかけるとゴーストっぽさ増す。気配ない、身体透けて、淡く光る。完璧ゴースト」
「そういうだろうと思ってな。実はもう持ってきてある。ちゃんと商店街の連中の許可は取ったぞ。二〇着は確保してある」
再び顔をニヤケさせたジェイミーが奥に置かれていた木箱から『幽鬼の外套』を持って来ていた。
「よし、アルマ。お前も死んでいるから、実験台になれ」
「え? え?」
ジェイミーによって連れ出されたアルマに『幽鬼の外套』を着けさせると、装備の効果が発動して、ギルド職員の制服を着たアルマの身体がドンドンと透けていく。
「アウリース、アルマの外套に魔法の光を頼む。あと照明の近くにいる者は照明を消してくれ」
元々薄暗い神官戦士の宿舎は朝の陽ざしが入らず、照明を落とすと暗闇が周囲を支配した。
そして、魔法の光をかけられて『幽鬼の外套』を着たアルマの姿が浮かび上がる。
まさしくそれはゴーストそのものの姿であった。
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