148 / 232
日常編
2
しおりを挟む酒宴はなおも盛況さを増していき、冒険者ギルドの業務を終えたジェイミーやアルマ、それに何故だか酒宴の話を聞きつけた商店街の連中までもが参加しており、酒場の中は人で溢れかえっていた。
そんな中、俺の背中を軽く小突く者がいた。振り向いた先にいたのはおばばであった。
読んだ覚えはないのに、いつの間にか酒宴の席上に現れていたのである。
「わしをたばかっておったな。あのように強力な力を隠し持っていたとは、一生の不覚じゃったわい。魅惑のポーション飲んで既成事実を――」
お袋代わりのおばばに色仕掛けされたら、悪夢でうなされそうなので、丁重にお断りすることにした。
「おばば、俺の力に関しては黙っていたのは悪かったと思うが。かといって、薬を盛るのはやめてくれるとありがたいぞ」
「へぇ、へぇ、へぇ。相変わらずクソ真面目で冗談が通じない男だねぇ」
「おばばの場合、冗談か本気か分かりかねる時があるからなぁ」
「まぁ、わしの話は置いておくが、それでこれからはどうするんだい? えーっと、ブラックミルズ商店街連合会長と冒険者ギルドマスターと領主の代官職を全部兼任するんだろ? こりゃ、ブラックミルズ一の権力者って言えるほどの権勢を持つ男になるというわけじゃな」
「俺が一番やりたくない仕事だな。人の上になんて立っても、なんの得もないぞ。面倒ごとだけが増える」
「そう言ってくれるな。グレイズがトップに座れば、わしら商店街の連中は落ち着いて仕事ができるし、冒険者ギルドとの協業を一段と進めることもできそうじゃ。その辺はメリーがすでにアルマと調整に入っているからのぅ。グレイズのところに話があがってきた段階では、判子を打つだけになっているはずじゃ」
おばばはアルガドの更迭を知ると、すぐにメリーを動かして、ギルマス代行者に有力視されていたアルマへ冒険者ギルド内への売店設置を持ちかけていた。
「冒険者ギルドに売店ねぇ。そんなことすると商店街まで客が来なくなるぞ?」
「それでも、いいさね。グレイズがやった需要の高い場所での商売は旨味も多かったということをみんな知ったからのぅ。わしら商人は売れる場所を新しく作り出すつもりじゃわい」
おばばは店で客が来るのを待つのではなく、客がいる場所への出店に舵を切ることにしたようだ。
確かに日中、冒険者ギルドが開いている間はそれなりに人はいるし、冒険前に朝の受注ラッシュ時に買い忘れの消耗品を買えるのはありがたい。
ダンジョン内は補給ポイントとして、第一〇階層に俺たちの店が出るけども割高だし、出発前にできれば地上で買い揃えておきたいはずである。
そういった冒険者心理を見て、冒険者ギルド内での売店スペース設置は大いに商機があると見越したのだろう。
「まぁ、アルマが王都の冒険者ギルド本店と連絡取り合って、設置許可もらったら俺は判子打つだけだけどな。あっちがどう言うかは分らんぞ」
「ふひぃひひ。国王が直々に任命したギルマスの申請を本店が受理しないわけがなかろう」
おばばは、国王であるジェネシスが俺を直々にブラックミルズのギルドマスターに任命していたを利用してメリーを通じて話を進めているらしい。
あれ? おばばは商店街連合会会長を引退しはずだよな。なのに、俺が詳細を知らないっていいのかそれで……。
俺抜きで話が進んでいるのだが、まぁ、メリーとアルマが上手く処理をしてくれることを期待しておくことにした。
元々、お飾りの役目だしな。二人が色々と詳細を詰めた後、きちんと説明はしてくれるだろう。
「そういうことか……。まったく、油断も隙も無い……」
「商人なんてのはそういったものじゃわい。グレイズも冒険者にうつつを抜かしておらずにもっと商人としても精進せねばならんぞ。このままだと嫁たちのヒモまっしぐらじゃからな」
「うるせー」
俺はおばばのお説教から逃げ出すようにその場を去り、メンバーたちが給仕をしている場所へいった。
酒場では冒険者たちの要請でウエイトレスの格好をしたメンバーのみんなが忙しそうに酒を注いで回っていた。
「ファーマちゃん、かわいいよ。似合ってるぜ、その恰好」
いつもの鎧姿からひらひらのスカートをなびかせて、酒場の中をエールやワインを持ち忙しそうに配り回っている。
「ありがとー。はい、エール三つお待たせー」
「ファーマちゃんがウエイトレスしてくれるなら、オレらは通い詰めるだろうなぁ。って、ってって」
「ファーマ可愛い当然、当たり前、鼻の下伸ばすダメ」
ファーマのウエイトレス姿に鼻の下を伸ばしていた冒険者に背後からカーラが背中をつねっていた。
危ない、危ない。俺もちょっと見惚れてたな。
カーラにつねられた冒険者が慌てて顔を引き締めるのを見て、俺も少し緩みかけた頬を引き締めていた。
「カーラちゃんにはかなわねえなぁ。ごめん、ごめん。でも、カーラちゃんも結構その恰好似合ってるぜ。その恰好ならグレイズさんを悩殺できるかもよ」
「本当か!? その話、実に興味深い。議論深めるべき題材」
別の冒険者に服装を褒められたカーラは、『俺を悩殺できる』という話に興味を持ち、詳しく聞き出そうとしていた。
カ、カーラさんや。そういうのは研究しなくていいから。ほら、ファーマも興味持っちゃって猫耳ピクピクさせて聞いてるし。
俺は二人の興味が危ない方へ流れる前に咳ばらいをして断ち切ることにした。
「んんっ!! 二人ともお手伝いありがとうな。あっちのテーブルからエールの追加が入ったから、持っていってくれるとありがたい」
「グレイズ、今、大事な話をしようと……」
「グレイズさん、ファーマも気になるのー」
気にしちゃダメです。
「ちょっと、俺がこいつらと話がしたくてね。さぁ、さぁあっちのテーブルにお客さんがお待ちかねだ」
冒険者たちから話を聞き出そうとする二人に対して心の中でツッコミを入れると、別のテーブルへ送り出すために背中を押していく。
「グレイズ、今、いいところだった。あっちのテーブルに運んだら、もう一度聞きに来る。良いか?」
「ああ、いいとも。それまでにこっちの用事は終わらせておくさ」
「ファーマも聞きた―い!」
「じゃあ、あっちに先にエールを運んできてくれ。お話はその後すればいいさ」
「はーいっ!! 行ってくるー。カーラさん行こう」
「ファーマ、走ったら転ぶから危ないゆっくり行く」
ファーマが、カーラの手を引き別のテーブルに運ぶためのエールを取りにカウンターへ戻っていった。
それを見送ってから冒険者たちの方に向き直る。
「グ、グレイズさん、嫌だなぁ。冗談っすよ。冗談。ベ、別に俺らがカーラちゃんやファーマちゃん推しだからけしかけた――」
「お前らも参加してるのか?」
「しょ、少額ですよ。少額。二口か三口かの本当に少額ですって、ほら冒険者やってると娯楽が少ないから、息抜き程度の話っス」
おばばが胴元の賭けはついに街全体に広がりつつある。
下手をすると闇市より危険な気もするのは俺の気のせいだろうか。いっそのこと、ギルマス権限で参加者を取り締まった方が……
俺はふぅとため息を吐くと、冒険者たちに対して、さきほどの話をしないように協力を要請することにした。
「悪いが、ああいった話はなるべく二人の耳に入れんでやってくれ。まだ若いからな。間違いが起きる可能性もある」
「分かってますよ。ファーマちゃんもカーラちゃんもグレイズさんの嫁になるんで、誰も手は出しませんって」
「いやいや、そういう意味でなくてな。俺もそういった話はなるようにしかならんと思っているんだ。だから、本人たちに任せているしな。だから、周囲がやんや言うよりはなるべく自由に考えさせてやりたいわけだ。分かってくれるか?」
「なら、100パーセントで二人とも嫁っすね。本人の意志は固そうっす。とはいえ、グレイズさんの気持ちも分かる気はしますんで、陰ながら応援することにしますよ。とりあえず、寝込みを襲うのはいい女とは言えないって伝えておきます」
なんだか分かったのか、分かってないのか、分からない返答をもらったが、一応は俺の思いは伝わったと思いたい。
「くれぐれも慎重に頼むぞ」
「はいはい。分かってますよ。それよりもグレイズさんこそ、モテない男に刺されないようにしてくださいね。って言ってもグレイズさんなら死なないか」
「馬鹿、俺は不死身じゃないぞ。刺されたら死ぬこともあるさ。ただ、短剣が折れるかもしれんが……」
軽口を叩いた冒険者が目を点にしていた。
俺流の冗談だったが、どうやら本気としてとらえたようだ。
実際、非力な者であれば短剣を俺の脇腹に突き立てることは難しいだろうが。
「マジっすか。さすがグレイズさん、暴漢対策もバッチリっすね」
「そんな事態にならないようにはする気だがな。そのためにはお前らの協力にかかっていると思ってくれ」
「了解っすっ!」
なんとか、冒険者たちを納得させてファーマとカーラへの教育を阻止することを成功した。
結婚云々の前にまずはみんなをSランク冒険者まで育て上げるのが、俺の最大の目標である。
その目標を達成したあとでなら、そういった話もまあ進めてもいいのかもしれないとは思っていた。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。