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第26話 旅立ちの準備
しおりを挟む夜明けから『オッサムの森』を西に向かって3時間ほど歩き通し、森が開けると、視線の先に城壁で囲まれた街が見えてきた。
俺がプレイしてたファンタジー系のMMORPGで、ああいった感じの街はいっぱいあったな。
「もう開門時間はすぎてるみたいですね。急いで、街中に入りましょう」
ポーションの効果と食事で元気を取り戻したアスターシアが、俺の手を引いてくる。
彼女は変身の耳飾りで、ボサボサの髪の茶髪の大柄な壮年シアに戻っていた。
俺も周囲に髪色がバレないよう、真っ黒で目立つ影潜りの外套を目深に被っている。
「ああ、そうしよう」
俺たちは連れ立って門に近づくと、衛兵たちの視線を感じつつも、呼び止めることなく街中に入ることができた。
「ふぅ、止められずに済んだな」
「外套を被ってますし、アオイ様を探索者だと思われたでしょう。ほら、わたしが大きな荷物を背負ってますし」
連中から拝借した大きなバッグをアスターシアに背負ってもらっている。
中身は売り払う予定の装備や衣服が詰められており、それ以外の品は俺の空間収納にしまってあった。
おかげで50種類しか入らない空間収納の容量が圧迫されている。
別の街に移動して落ち着いたら、そっちも整理をしないとな。
今後のことを考えつつ、ガチャを抱えて街中を歩いていく。
街は人と活気に溢れ、行き交う人は様々な服装をしているし、この世界がやはり自分がいた世界とは違うな。
革鎧や金属鎧などを着て、剣や槍を持った探索者と思しき人たちとかなりいるみたいだ。
メインストリートに宿屋、武器屋、防具屋、道具屋、酒場、交易所、ギルドとかが揃っているな。
「予想してたよりも大きい街だな。人がいっぱいいそうだ」
「ええ、ここはダンジョンがよく発生する『オッサムの森』に近い街ですからね。探索者が集まってきてますし、ダンジョンで産出される品の売買も盛んですから人も多いです。わたしも両親と何度か訪れました」
隣を歩くアスターシアにチラリと視線を向けると、両親のことを思い出したのか冴えない顔をしている。
「悪い……」
「いえ、問題ありません。それよりも、早いところ、これを売り払いましょう! あれが買い取り屋の看板ですよ」
アスターシアが指差した先の看板には、虫眼鏡と貨幣のマークが描かれ『何でも買います』とデカデカと書かれている。
店の中に入ると、金属の格子で仕切られたカウンター先に座る片眼鏡をかけた老人と、屈強な男が2人ほど奥で忙しそうに動き回っていた。
「いらっしゃい。買い取りかい?」
「はい、装備と衣服を売りたくて。あと、鑑定のスクロールも」
バッグを地面に置いたアスターシアが中身をカウンターに置いていく。
片眼鏡の老人は、ガチャを抱えて立つ俺の様子をチラリと見ると、カウンターの上の品に視線を落とした。
「そこそこいい装備だが、オークションをかけずにうちに売るのか?」
「ええ、すぐに金が欲しいんですよ。わたしも歳ですし、相棒も大けがしたせいでダンジョンにビビッてしまってね探索者を廃業して店を始めるつもりで、そのための買い取り資金がすぐに欲しいんですよ」
「開業資金のため、装備を売るのか? じっくり時間かけてオークションにかければ3倍以上の値は付くぞ」
「どうしても、今日中に店舗の買い取り資金を作らないといけないんで、オークションを待てないんですよ」
品定めをする老人からの質問に、アスターシアが上手く答えてくれた。
装備品と衣服の品定めを終えた老人が、カウンターの上に紙を差し出してくる。
「全部で480ゴルタですか……もう一声の500ゴルタで」
紙に書かれた数字を見たアスターシアが、あと20ゴルタの値上げを要求する。
アスターシアが予想していたよりも高かったが、金はできるだけあった方がいいので、交渉をしてくれるのはありがたい。
「ふん、いいだろう。引退の餞別として20ゴルダ。総額500ゴルタで買い取りでどうだ?」
アスターシアがこちらを見て成立させていいかを確認してくる。俺は頷きを返した。
「では、それでけっこう」
アスターシアが紙にサインを入れ老人に渡すと、奥から来た男がカウンター上に革袋を置いた。
中身を確認したアスターシアが、老人と握手を交わす。
「よい取引をありがとう」
「相棒と頑張って店を繁盛させろよ」
ニコリともしない老人だったが、オマケしてくれたので、俺は頭を下げ店を後にした。
買い取り屋を出た俺たちは、周囲に視線を巡らせ人通りの少ない裏路地に入る。
「あとは衣服を変えないとな」
「あそこの古着屋で買ってきますね。アオイ様の外套は目立つのでわたしが買ってきます」
路地裏の先に看板が出てないが、服がいくつも並べられている店が見えた。
「そうか、頼む。着られそうなやつならなんでもいいぞ」
「承知しました」
耳飾りを外し女性の姿になったアスターシアが、店の中に消えていくのを見送ると、手持無沙汰になった俺は、メインストリートを行き交う人たちに目を向ける。
耳が長く尖った美形種族とか、獣顔の獣人、背中から羽根を生やした鳥人、鱗肌の爬虫類人といった亜人種族も存在してるんだな。
さすが、剣も魔法も存在するファンタジー世界なだけはある。
ガチャを抱えて、通りを行き交う人を見ていたら、背中を軽く叩かれた。
「お待たせしました。安い服を何着か購入してきましたよ。さっそく着替えてしまいましょう」
周囲を見て人気ないのを確認したアスターシアが、俺の目の前で急にボロボロの衣服を脱ぎ始める。
「ちょ! アスターシア!」
ガチャを地面に下ろすと、外套を拡げ壁に手を付き、半裸のアスターシアが周囲に見えないように覆い隠した。
「目をつぶっててくださいね。もし、見えてしまった場合でも忘れてくださるなら問題ありません」
外套で作った空間の中で、半脱ぎのアスターシアが上目遣いで目を閉じるようにと頼んだ。
「分かってる。閉じたぞ」
目を閉じると、ゴソゴソと衣擦れの音がする。
しばらくして、音が止むと胸を指で突かれた。
「ありがとうございます。ガチャ様も無事変身しましたので、あとはヴェルデ様だけですよ。こちらをお召ください」
閉じていた目を開けると、目の前にはビシッと白と黒のメイド服を着こなした銀髪の美女が衣服を抱えて立っていた。
足元には黒い体毛に変化したガチャが俺を見上げてレバーを回している。
「ああ分かった。すまないが今度はアスターシアが目隠しを作ってくれ」
「承知しました」
外套を受け取ったアスターシアが、周囲の視線を遮るように外套を拡げてくれる。
なんでもいいって言ったけど、これって――。
アスターシアが選んだ服は、貴族の坊ちゃんが着ている白いシャツと青いズボン。それに、青い革のロングコートと茶色のロングブーツかよ。
着るしかないよな……。
灰色のスエットを脱ぐと、手早く白いシャツと青いズボンを着込み、転移時に履いてた足つぼサンダルを脱ぎ、ブーツに足を通すと紐を縛る。
最後に青い革のロングコートを羽織ると、偽りの仮面を付け、力を発動させる。
「ようこそ、ヴェルデ・アヴニール様。これよりはこのアスターシアが専属メイドとなりますことお許しください」
こちらの姿を確認したアスターシアが、視線を遮っていた外套を畳み差し出すと、恭しくお辞儀をしてくる。
「分かった。専属メイドになることを許そう」
外套を受け取ると、脱ぎ散らかした服とともにバッグに詰め、空間収納へしまいこんだ。
「これでよし! アスターシア、ガチャ、駅馬車の停留所へ行こうか」
「承知しました」
俺たちは容姿を変え、新たに青年貴族ヴェルデ・アヴニールとその相棒の探索犬ガチャ、そしてお付きの専属メイドアスターシアとなった。
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