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第74話 挑戦
しおりを挟む慎重に気配を殺し、ダンジョンボスの部屋の中に侵入していく。
全員が中に足を踏み入れると、入口が消え、広い空間の中に明かりがついた。
『大きなトカゲっぽい気がしますが……』
すでに影潜りの外套で姿と気配を隠しているアスターシアが、明かりに映し出された魔物を俺の耳元でささやいてくる。
『馬鹿か、アレはアースドラゴンだ! 羽のないドラゴンに分類される魔物だが、普通Bランクダンジョンのボスクラスだぞ』
蒼白な顔色のトマスは、魔物の姿を見てカタカタと震えている。
視線の先にいるアースドラゴンは、光を反射するように光る茶色の鱗が巨大な身体を守る鎧のようにびっしりと生え、太い尻尾は周囲の岩を容易に粉砕する威力をみせた。
『アースドラゴン……。そのように強い魔物とは知らず、申し訳ありません』
トマスが言った通り、たしかに強そうだ。
羽のないドラゴンって言われても違和感はないな。
Bランクダンジョンのボスクラスってなると、最初に倒したゴブリンチャンピオンよりか、若干劣るくらいの強さって感じだろうか。
それくらいなら、スキルも成長してるし、全力で戦えばやれない敵ではなさそうだが――。
「アスターシア、俺が勝てないと判断したら伝えるから、そうしたらスクロールを読み上げてくれ。すぐに撤退する」
「承知しております」
「あと、俺が倒されたらすぐにトマスとガチャを連れて脱出しろ。応援が来たら、ボスがアースドラゴンであると伝える者が必要になるからな」
そう告げると、俺の革のロングコートが引っ張られた。
ロングコートを引っ張ったのは、アスターシアに抱かれて隠れたはずのガチャだった。
その様子は『行くな』と言ってるように思える。
「大丈夫、やられるつもりはないさ。万が一の場合だ」
「承知しました……。ガチャ様、ヴェルデ様はお強いので、負けることは……ありません。あたしたちは、邪魔をしないよう観戦させて……もらいましょう」
アスターシアの声は、ところどころ詰まっていた。
心配してくれているのが、声からして分かる。
けど、自分の与えられた役割を果たそうと、必死で言葉を絞り出してくれたらしい。
「トマス、後は頼む」
俺はトマスの返事を待たず、チャンピオンソードを肩に担ぎ、動き始めたアースドラゴンのもとへ駆けた。
近づいたアースドラゴンは、入口付近で見たよりもかなりの巨体に感じられる。
「図体はデカいな」
俺の声に反応したアースドラゴンが、振り返ってこちらを睨んできた。
「威圧感はすごい」
敵意を見せたアースドラゴンに対し、怯むことなくチャンピオンソードを構える。
大きく口を空けたアースドラゴンは、こちらを威圧するように耳を圧する咆哮をあげた。
うるせぇ! 洞窟内で反響するから、なおうるさい!
音が全然聞こえねぇ……。
さっきの咆哮で一時的に聴力が落ちてるのか。
アースドラゴンの息遣いさえ、聞こえなくなっちまったぜ。
アスターシアたちも耳をやられてたら、声だけじゃあ撤退の合図は出せねえ。
岩の陰に潜んでいるであろうトマスとアスターシアの様子が気になり、後ろに意識を向けた時、展開していたプロテクションシールドが粉々になって砕け散った。
「尻尾!?」
プロテクションシールドを砕いたのは、アースドラゴンの長い尻尾による攻撃だった。
耳がやられ、後ろを気にしている間に尻尾が空気を切り裂く音を聞き取れず攻撃されたようだ。
シールドが砕け散り丸裸にされた感じがして、先ほど以上の威圧感を覚えた。
「とりあえず、討伐するには敵を知らないと対策が立てられない――よなっ!」
徐々に戻ってきた聴力が、アースドラゴンの尻尾が空気を切り裂く音を捉える。
タイミングよく、尻尾を飛んでかわした俺は、アースドラゴンの背に触れた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
アースドラゴン LV35
HP680/680
MP0/0
攻撃方法:咆哮 突進 尻尾薙ぎ払い 圧し潰し
弱点属性:氷
解体時取得物:ドラゴンの牙 ドラゴンの爪 地竜の鱗
解説:飛べない竜として有名な洞窟の主。咆哮は聞いた者の聴力を奪う効果が付与されており、無音化されたあとの尻尾薙ぎ払いは回避しにくくなると言われてる。押しつぶし以外の攻撃こそそこまで強くないが、体力が多く、全身にまとっている鱗の固さもあり、持久戦を強いられる厄介な相手。
――――――――――――――――――――――――――――――――
LVはゴブリンチャンピオンより低いが、あれ以上のHPお化けだった。
持久戦したくねぇ……。一気に火力を出して、沈めた方がよさそうだ。
ごり押ししてでも、やらないとこっちが追い込まれる。
現状、俺が出せる単体最高火力はチャンピオンソードによる居合連撃だろうな。
STR値36に130+65(剣技向上)の武器威力と居合の技威力100が乗って331。
連撃でスキルクールタイムのカウントを消して、もう一発居合を放てば、662まで削れる。
最後トドメの一撃を食らわせればやれる!
攻撃をかわされたアースドラゴンは、再び口を大きく開け、咆哮をあげようとしていた。
俺はチャンピオンソードを構えると、居合スキルを発動させる。
自動で身体が動き出し、長大なチャンピオンソードを神速とも言えるスピードで振り抜く。
「ギャアアアアオォオオオ!!」
チャンピオンソードの刃は、茶色いアースドラゴンの鱗を斬り裂き、胴体に大きな傷ができると、真っ赤な体液を噴出させた。
「悪いが、持久戦はしたくないんでやらせてもらう!」
大きく身体を斬り裂かれたアースドラゴンがのたうつ間に連撃を発動し、二度目の居合スキルを発動させた。
構えたチャンピオンソードの剣先が、のたうち回るアースドラゴンで唯一鱗に覆われていない腹を捉え、真一文字に斬り裂く。
切り裂かれた腹から流れ出した大量の血が、地面を真っ赤に染めた。
「ギャアアアアア!!」
よし! トドメ!
瀕死の重傷を負ったアースドラゴンは、叫びながらのたうつだけだった。
トドメを刺すため、のたうつアースドラゴンに近づくと、不意に身体へ衝撃が加わり吹っ飛ばされた。
「いってぇえ……」
あの状態で、俺に向かって尻尾が飛んでくるとは……。
装備の更新してなかったら、身動きが取れない怪我してたぞ。
身体中が痛みを発するが、チャンピオンソードを支えに立ち上がり、口の中に溜まった血の混じった唾を吐く。
カウントダウンが終わってないから回復魔法は使えないか。
空間収納からヒーリングポーションを取り出し、ガラス瓶の封を切って、中身を飲み干した。
ヒーリングポーションはすぐに効果を発揮し、身体の痛みが引いていく。
のたうっていたアースドラゴンは、俺が吹っ飛ばされた間に深手を負った巨体で立ち上がり、こちらに向かって倒れ込んできた。
「嘘だろ!」
とっさに逃げ出せる先を探すが、動ける範囲内にアースドラゴンの巨体から逃れられる場所が見当たらない。
あんな巨体に覆いかぶさられたら、こっちも無事じゃすまないぞ!
どうする! 回避しないで助かる方法!
必死に脳みそを働かせ、自らが助かる策を考え抜く。
「これしかねぇ!」
閃いたアイディアに全てを賭け、チャンピオンソードの柄頭を地面に付け、刃が上を向くようにして突き立てた。
アースドラゴンの巨体がドンドンと俺の方へ倒れ込んできた。
触れる寸前、突き立てたチャンピオンソードの刃先が胸元に突き立ち、肉を斬り裂く。
「いっけぇええ!」
斬り裂かれた肉の間にすき間を見つけ、身体をねじ込むとチャンピオンソードを一気に突き上げる。
身体を貫通したチャンピオンソードのおかげで、できたすき間を使いアースドラゴンの圧し潰しのダメージを最小限に抑えた。
胸元を貫かれたアースドラゴンの心臓が鼓動を止めると、大きく身体を震わせ絶命した。
「ふぅ、いてて。それにしても、これは酷い。これは……あとで身体洗った方がいいよな……」
俺の全身はアースドラゴンの血でびしょびしょに濡れ、異臭が鼻を刺激してくる状態だった。
もぞもぞと、アースドラゴンの死骸から抜け出すと、レバーを勢いよく回すガチャが、俺の胸に飛び込んできた。
「大丈夫だって言っただろ。俺は無事だって」
俺のことが心配で、隠れていたところから駆け出してきた様子だった。
「ガチャ、汚れるから」
抱き上げたガチャは、血で身体が汚れるのもいとわず顔を埋めてきた。
「俺はお前を残して死んだりしないって」
俺の声にガチャがふたたび顔を上げ、レバーを回して応えた。
可愛い相棒を残して死んでたまるかっての。
俺はガチャの身体をわしゃわしゃと撫でてやった。
「ヴェルデ様! ご無事ですか! 怪我は!」
「ヴェルデ! 無事か!」
ガチャに遅れて、アスターシアとトマスも駆け寄ってきた。
「ああ、問題ない。最後、圧し潰されるかと思ったけど、この通り大丈夫だ!」
「って言うか、アースドラゴンはBランクダンジョンのボスモンスターだぞ……。それをソロで完勝するって……ヴェルデ、お前どんだけ強いんだよ……」
アースドラゴンの死骸を見たトマスの顔に驚きの表情が張り付いていた。
「自分の強さが、どれくらいかは分からないとしか言えない。とりあえず、Bランクのボスクラスは倒せるみたいらしい」
実際、Aランクに近いボスモンスターを倒してるから、やってやれない相手ではないとは思ってたけど。
でも、倒せてよかった。
魔素溜まりに繋がってしまった超成長をするダンジョンも、ボスが討伐されたことで消滅するはず。
魔物が溢れて周辺の村を襲うこともないはずだ。
とりあえず、何とかなったな……。
ダンジョンボスを討伐できた安堵感から、疲労が一気に押し寄せ、俺はその場に座り込んでいた。
あとは脱出のポータルが出るまで、身体洗って休憩ってところだな……。
マジで何とかなってよかった。
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