25年目の真実

yuzu

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朝の高速

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 夜明け前の高速道路は、まだ薄暗かった。

 東の空がわずかに白み始め、遠くの山の稜線がぼんやりと浮かんでいる。
 ハンドルを握る蒼介の手には、うっすらと汗が滲んでいた。

 ――秋田にいる。

 そう聞いた瞬間、体が勝手に動いた。
 
 秋田は、美奈子がいちばん好きな場所だった。

 昔から、何度も2人で訪れていた。
 観光地でも温泉街でもない、小さな町。
 古びた駅舎と、川沿いに並ぶ古民家の並び。

 「何もないのがいいの」と笑っていた美奈子の声を、今も思い出せる。

 フロントガラスの向こうに、朝の光が滲み始める。
 ラジオから流れる天気予報を聞きながら、無意識のうちにアクセルを踏み込んでいた。

 助手席には、バッグに入れたアルバムがある。
 ページをめくるたび、そこにいる“美奈子”はいつも穏やかに笑っていた。

 どの写真も幸せそうで、けれど、その笑顔の裏にあった秘密を思うと、胸の奥が痛んだ。

 「……あの頃から、ずっと1人で悩んでたのか」
 
 思わずつぶやく。

 彼女の優しさに甘え、どうして人が変わったように柔らかくなったのか……問いただすことを忘れていた。
 
 ふと、娘の誕生の日を思い出す。

 あの日も、こんな冷たい朝だった。
 冬の明け方、産院の廊下で、落ち着かずに行ったり来たりしていた。

 「立ち会わなくていいから」と言われたのに、じっとしていられなかった。

 分娩室のドアの向こうから、うめき声が聞こえるたびに胸が締め付けられ、何もできない自分が情けなくて、壁にもたれて息を吐いた。

 娘の産声が響いた瞬間――涙がこぼれた。
 
 人生で、あんなに感動した瞬間はない。

 ドアが開いて、助産師に抱かれた小さな命を見たとき、美奈子は汗に濡れた顔で笑っていた。

 「ほら、あなたにそっくりでしょ」

 その声を、今もはっきり思い出せる。
 
 ――探さなきゃ。

 蒼介は、ハンドルを握る手に力をこめた。
 
 パーキングエリアでトイレに寄った後、ふと助手席のアルバムに視線を落とした。

 ページの隅から一枚の写真がはみ出していることに気がついて拾い上げると、それは三年前の夏。

 秋田の町を二人で歩いたときの写真だった。

 小料理屋の暖簾の下、並んで笑う二人。
 その店の名が、ふと記憶の底から浮かび上がる。

 ――「小料理 はるの」

 まるで、導かれるように。
 アクセルを再び踏み込む。
 白い朝靄を裂きながら、車は北へと走り出した。
 胸の奥に渦巻く不安と、どこか確信めいた予感を抱えたまま。
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