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後悔と不安
しおりを挟む蒼介は駐車場のブロック塀に背を預け、冷たい夜気の中にひとり立っていた。
街灯の明かりが舗道に淡い影を落とす。
ポケットからスマートフォンを取り出すと、画面には美奈子との最後のメッセージが浮かび上がる。
『明日、もう一度君を迎えに行く』
既読の文字が、無言の拒絶のように胸に突き刺さった。
返信はなかった。何度見返しても、同じ画面がただ沈黙しているだけだった。
(来て欲しくなかった……だよな。)
蒼介は小さく息を吐き、頭を垂れた。
東京からここまでは片道8時間。有給をとり、今までの行いを反省しながらここまで来た。そこまでして妻に会いに来た夫へこの仕打ちはあんまりじゃないか…… 蒼介は怒りと悲しみが入り混じる感情を抑えきれず、ブロック塀に拳を打ちつけた。
「痛っっ!」
びくともしないブロック塀とは反対に、蒼介の拳には血が滲み、痛みで顔が歪んだ。
「日下部課長……?」
声が聞こえて慌てて振り返ると、武尊が店を出て駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
「……悪い。先に美咲を連れて帰ってくれ。」
「美咲ちゃん、お母さんと話があるみたいで、旅館に着くのは遅くなるそうです。」
「そうか……」
武尊は言葉に詰まり、困った表情で蒼介を見つめた。
「じゃあ、君は先に旅館へ戻ってくれ。俺はもう少しその辺で飲みたい気分なんだ。」
蒼介は視線を逸らした。
武尊は一拍おいて、小さく頷いた。
「わかりました。じゃあ、少しここで待っていてください。絶対動かないでくださいね。」
面倒に思いながらも、無碍にするわけにもいかず、蒼介は渋々頷いた。
それからすぐだった。暖簾がめくれる音がして、誰かが店から出てきた。
蒼介は見なくても、それが誰かわかった。
「……蒼介さん」
美奈子だ。
蒼介は壁に背を預けたまま、動かなかった。
「……返信しなくて、ごめんなさい」
蒼介はゆっくりと顔を向けた。
美奈子は仕事着のままで、エプロンを外した手を強く握りしめていた。
二人の視線が交わる。
美奈子は口を開きかけてまた閉じ、決意したように口を開いた。
「どうして……美咲を連れてきたの?」
「そんな事、どうでもいい。それより、あの男か。離婚の原因は。」
蒼介の声は静かだったが、その奥に押し殺した感情が滲んでいた。
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