25年目の真実

yuzu

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居酒屋で

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 街の灯りが遠く滲み、夜風が冷たく頬を打つ。

 千紘の声が脳裏で反響した。
 
――「どうせ、私たちは最初から夫婦じゃなかった」

 蒼介は拳を強く握った。
 信じたかった。信じていたはずだった。

 けれど、あの涙を見た瞬間……自分の中の何かが音を立てて崩れていった。

 気づけば足が勝手に動いていた。

 視界の端に、灯りの漏れる暖簾……くたびれた居酒屋の看板が見えた。

 「……くそ」

 吐き出すように呟き、暖簾を押し分けて中へ入った。

 店内には会社帰りのサラリーマンが三、四人。

 テレビからは野球中継の音が流れ、焼き鳥の焦げる匂いが充満していた。

 「らっしゃい。」

 蒼介は無言でカウンターの隅に腰を下ろし、低く言った。

 「冷酒。あと、串盛り」
 
 升に入ったグラスに、透き通った日本酒がトクトクときれいな音を立てて注がれる。

 溢れるギリギリまで注がれた日本酒を、蒼介は胃に流し込むように一気にあおった。

 冷たい液体が喉を焼くように落ちていく。

 「……はぁ」

 唇の端からこぼれた溜息は誰にも届かない。

 聞こえるのは実況の声と、焼き鳥の焼ける音だけだ。

 その静かな空間で、頭の中に反響するのは美奈子の言葉。
 
「信じてくれないんだね」――あの震える声。

 二杯目を注文し、グラスを乱暴に置く。

 「何でだよ……」
 蒼介は低く笑った。

 「向こうを庇うのかよ。」

 出された焼き鳥をただ機械的に口へ運び、酒で流し込む。

 「……美奈子」

 名前を呟いた瞬間、胸がきしんだ。
 思い出すのは、彼女の笑顔。
 
 全部、嘘だったのか。
 それとも――信じきれなかった自分が嘘だったのか。

 答えの出ない問いが、酒の苦味と混ざって喉を締めつける。

 もう何も考えたくなかった。
 「すみません、もう一杯」
 グラスを掲げると、店主はぶっきらぼうに言葉を投げた。

 「煽りが早いと悪酔いするぞ。」
 「大丈夫。……大丈夫だから」

 時計の針が、零時を少し回ったころ。
 店内の客が一人、また一人と帰っていく。

 残ったのは蒼介だけ。

 千紘の「さよなら」が、また胸を刺す。
 ――あんな終わり方、するはずじゃなかった。

 ポケットの中のスマホ画面には「未送信メッセージ(美奈子)」の文字。
 打ちかけては消した「ごめん」が、そこに残っていた。

 蒼介は目を閉じ、スマホを握りしめたまま更に酒を煽った。

 
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