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千紘と膳
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店先で口論をしていると、引き戸の向こうから千紘の声が響いた。
「蒼介さん?」
「千紘!無事か!?怪我はないか?」
引き戸に手をかけようとする蒼介を押し返すように、膳が扉の前に立った。
「姉さん、来るなと言ったはずだけど」
「……でも」
「いいから!今日は体調が優れない。だったよな?」
一拍置いて、千紘が答える。
「……はい。」
その異様な緊迫感に、蒼介は思わず膳を殴りそうになったのを何とか堪えた。
「千紘!出てこなくてもいいから聞いてくれ。俺は何があっても、離婚するつもりはない。千紘が心の底から俺を拒絶しない限り、何度でも迎えにくる。」
「日下部さん!やめて下さい。近所迷惑です!」
「25年間、俺が愛していたのは君だ。笑い合った日々は嘘なんかじゃない。俺が幸せにしてやりたいと……この先も一緒にいたいと思うのは、過去の美奈子じゃない。今の美奈子。君だよ千紘。」
「いい加減にしないと本当に!」
膳が蒼介の胸ぐらを掴んだのと同時だった。
店の引き戸がゆっくりと開き、中にいる千紘の姿が見えた。
「開けるなって言っただろ!!!」
千紘の腕を掴もうとする膳の肩を掴んだ蒼介は、思い切り膳を突き飛ばした。
「っっ痛!」
店先に立つ千紘の姿を見た瞬間、蒼介の全身から血の気が引いた。
頬には赤く腫れた痕。
エプロンの肩紐は今にも切れそうに垂れ、白いブラウスの襟元は乱れている。
まるで、誰かと揉み合いになった後みたいに見えた。
「姉さん、俺が話すって言っただろ」
禅が苛立った声で言った。
「部屋で休んでろって言ったじゃん」
「蒼介さん……」
千紘は階段を一段ずつ降りながら、震える声を絞り出した。
「信じないで。全部、嘘なの」
その言葉に、蒼介は怒りで我を忘れそうになるのをギリギリで堪えた。
「なぁ……」
気づけば、蒼介は禅に詰め寄っていた。
「彼女に、手を出したのか」
「は?」
禅は鼻で笑った。
「家族の問題に、他人が口出すなよ」
その言葉が引き金だった。
理性が切れる音が、はっきりと自分に聞こえた。
禅の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
「彼女に手を出したのかと聞いている!!」
怒号が店内に響く。
禅は顔を歪め、蒼介に向かって唾を吐きかけた。
「……っの野郎!」
蒼介の拳が反射的に振り抜かれた。
鈍い音がして、禅の体がよろめく。
「くっ……!」
禅が反撃し、蒼介の腹に拳を叩き込む。
視界が瞬間、白く弾けた。
禅の肩を掴み、再び壁に押しつける。
二人は取っ組み合いになり、カウンターにぶつかった拍子に皿が床へ次々に落ちた。
千紘の悲鳴が響く。
「やめて!! お願い、やめて!!」
しかし、どちらも止まらなかった。
禅が蒼介を突き飛ばし、蒼介はテーブルに激突する。
それでも、体が勝手に動いた。
蒼介は立ち上がり、再び禅に掴みかかる。
「お前みたいなクズが……!」
「うるせぇ!!」
禅の拳が蒼介の頬を打ち抜いた。
視界が揺れる。
倒れそうになるのを踏ん張り、蒼介は禅の腹に膝を叩き込み、そのまま押し倒す。
「千紘に……何をした!!」
馬乗りになって拳を振り上げた瞬間――
「やめて!!」
千紘が蒼介の腕にすがりついた。
「お願い……やめて……!」
その声に、ようやく意識が戻った。
蒼介は荒い息をつきながら、拳を下ろす。
禅は床に倒れ、鼻血を流しながら息を荒げていた。
「……くそ」
禅が壁に手をつき、よろめきながら立ち上がる。
蒼介は千紘を背に庇い、低く睨みつけた。
「警察を呼ぶ」
「……勝手にしろ」
禅が唇の血を拭いながら吐き捨てる。
「母さんが泣くぞ。いいのか千紘。」
千紘は震えて目を伏せた。
禅は鼻で笑った。
「ほら、千紘はアンタの元に戻るつもりなんて無いんだよ。ババアのお守りがあるからな。」
千紘が蒼介の背中に額を押しつけて、小さく首を振った。
「もういいの……ごめんなさい蒼介さん」
「千紘……」
「もう、いいの」
その声には、深い疲労と諦めが滲んでいた。
蒼介は唇を噛みした。
「事故だったとしても……」
千紘の声は震え、消え入りそうだった。
「美奈子さんを轢いて、それでも助かる筈だった彼女の命まで奪った私の罪は、消せない。」
沈黙が、店の空気を凍らせた。
蒼介は言葉を失い、ただその場に立ち尽くした。
千紘は膝をつき、両手で顔を覆った。
「だから……罰を受けるべきなの。」
「ははははははっ……聞いたか?!え?!」
蒼介は二人を交互に見た。
怒りと悲しみと混乱が胸の中で渦を巻いていた。
「蒼介さん?」
「千紘!無事か!?怪我はないか?」
引き戸に手をかけようとする蒼介を押し返すように、膳が扉の前に立った。
「姉さん、来るなと言ったはずだけど」
「……でも」
「いいから!今日は体調が優れない。だったよな?」
一拍置いて、千紘が答える。
「……はい。」
その異様な緊迫感に、蒼介は思わず膳を殴りそうになったのを何とか堪えた。
「千紘!出てこなくてもいいから聞いてくれ。俺は何があっても、離婚するつもりはない。千紘が心の底から俺を拒絶しない限り、何度でも迎えにくる。」
「日下部さん!やめて下さい。近所迷惑です!」
「25年間、俺が愛していたのは君だ。笑い合った日々は嘘なんかじゃない。俺が幸せにしてやりたいと……この先も一緒にいたいと思うのは、過去の美奈子じゃない。今の美奈子。君だよ千紘。」
「いい加減にしないと本当に!」
膳が蒼介の胸ぐらを掴んだのと同時だった。
店の引き戸がゆっくりと開き、中にいる千紘の姿が見えた。
「開けるなって言っただろ!!!」
千紘の腕を掴もうとする膳の肩を掴んだ蒼介は、思い切り膳を突き飛ばした。
「っっ痛!」
店先に立つ千紘の姿を見た瞬間、蒼介の全身から血の気が引いた。
頬には赤く腫れた痕。
エプロンの肩紐は今にも切れそうに垂れ、白いブラウスの襟元は乱れている。
まるで、誰かと揉み合いになった後みたいに見えた。
「姉さん、俺が話すって言っただろ」
禅が苛立った声で言った。
「部屋で休んでろって言ったじゃん」
「蒼介さん……」
千紘は階段を一段ずつ降りながら、震える声を絞り出した。
「信じないで。全部、嘘なの」
その言葉に、蒼介は怒りで我を忘れそうになるのをギリギリで堪えた。
「なぁ……」
気づけば、蒼介は禅に詰め寄っていた。
「彼女に、手を出したのか」
「は?」
禅は鼻で笑った。
「家族の問題に、他人が口出すなよ」
その言葉が引き金だった。
理性が切れる音が、はっきりと自分に聞こえた。
禅の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
「彼女に手を出したのかと聞いている!!」
怒号が店内に響く。
禅は顔を歪め、蒼介に向かって唾を吐きかけた。
「……っの野郎!」
蒼介の拳が反射的に振り抜かれた。
鈍い音がして、禅の体がよろめく。
「くっ……!」
禅が反撃し、蒼介の腹に拳を叩き込む。
視界が瞬間、白く弾けた。
禅の肩を掴み、再び壁に押しつける。
二人は取っ組み合いになり、カウンターにぶつかった拍子に皿が床へ次々に落ちた。
千紘の悲鳴が響く。
「やめて!! お願い、やめて!!」
しかし、どちらも止まらなかった。
禅が蒼介を突き飛ばし、蒼介はテーブルに激突する。
それでも、体が勝手に動いた。
蒼介は立ち上がり、再び禅に掴みかかる。
「お前みたいなクズが……!」
「うるせぇ!!」
禅の拳が蒼介の頬を打ち抜いた。
視界が揺れる。
倒れそうになるのを踏ん張り、蒼介は禅の腹に膝を叩き込み、そのまま押し倒す。
「千紘に……何をした!!」
馬乗りになって拳を振り上げた瞬間――
「やめて!!」
千紘が蒼介の腕にすがりついた。
「お願い……やめて……!」
その声に、ようやく意識が戻った。
蒼介は荒い息をつきながら、拳を下ろす。
禅は床に倒れ、鼻血を流しながら息を荒げていた。
「……くそ」
禅が壁に手をつき、よろめきながら立ち上がる。
蒼介は千紘を背に庇い、低く睨みつけた。
「警察を呼ぶ」
「……勝手にしろ」
禅が唇の血を拭いながら吐き捨てる。
「母さんが泣くぞ。いいのか千紘。」
千紘は震えて目を伏せた。
禅は鼻で笑った。
「ほら、千紘はアンタの元に戻るつもりなんて無いんだよ。ババアのお守りがあるからな。」
千紘が蒼介の背中に額を押しつけて、小さく首を振った。
「もういいの……ごめんなさい蒼介さん」
「千紘……」
「もう、いいの」
その声には、深い疲労と諦めが滲んでいた。
蒼介は唇を噛みした。
「事故だったとしても……」
千紘の声は震え、消え入りそうだった。
「美奈子さんを轢いて、それでも助かる筈だった彼女の命まで奪った私の罪は、消せない。」
沈黙が、店の空気を凍らせた。
蒼介は言葉を失い、ただその場に立ち尽くした。
千紘は膝をつき、両手で顔を覆った。
「だから……罰を受けるべきなの。」
「ははははははっ……聞いたか?!え?!」
蒼介は二人を交互に見た。
怒りと悲しみと混乱が胸の中で渦を巻いていた。
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