25年目の真実

yuzu

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美咲、轢かれる

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  蒼介は電話を切り、膳の胸ぐらを掴んだ。

「説明しろ!膳!!」

 その声は、底知れない怒りを孕んでいた。

「俺の娘が狙われたのは、お前の差し金か!?」

「俺が……?バカも休み休み言えとはこのことだ。今、お前の目の前で話していただろう。できるわけがない。」

 膳の言葉で、世界が静止した。 
 
 千紘の方へ振り返れば、その目には恐怖と諦めが混ざっている。
 膳はそんな千紘の隣で、黙って座り込んでいる。
 ソノ子は……視界の隅で青白い顔をしたまま立ち尽くしている。

 蒼介は膝から崩れた。
 今までどんな事件が起きても冷静でいられた。
 けれど娘の危機に直面したとき、自分がこんなにも混乱し、頭が真っ白になり、判断力を欠くなんて、蒼介は思ってもみなかった。

 秋田まで来てしまった愚かさ。
 離婚なんかで狼狽えた自分の無力さ。
 容疑者の可能性がある人間に、自ら接触してしまった危うさ。

 すべてに後悔し、俯いた。
 
 「蒼介さん!美咲のところへ、早く!!」

 千紘の悲痛な声が店内の静寂を切り裂く。
 けれど、蒼介は動けなかった……というより、動かなかった。
 膳を追及する事の方が、この瞬間、最も大事だと思ったからだ。

 「いいか千紘……どんなに急いでも、ここから美咲のところまで5時間はかかる。どんな容体であろうと、5時間後には、すべて終わっているんだ。美咲には部下が……瀬文が付いているから大丈夫だ。何かあれば、あいつから連絡がくる。だから俺にできることは今ここでこいつを」

 「いつだってそう!あなたはいつも、家族より……仕事。事件を追うことの方が大事。」
 「千紘……刑事っていうのは」
 「刑事も人間でしょ!?」

 言葉が出なかった。

 ”刑事って人間は、家族の死に目にも会えない。そんな仕事だ。”

 まだ巡査だった頃の事。苦手だった上司の言葉が脳裏に浮かぶ。
 休日出勤どころか、有給休暇ですら出勤する男だった。
 だれよりも早く出勤し、だれよりも遅く帰ることを美徳としていた。
 休みを主張する部下を嫌っていた。
 自分はこんな刑事に……こんな人間になりたくないと思っていた。
 なのに……いつの間にか、自分もそんな刑事になっていた。

「家族旅行はいつもあなたの予定に合わせるしかなかった。けれど当日になって『仕事になった』って言われる事はいつも想定していなきゃいけなかったし、遊園地についてすぐ、仕事の電話がかかってきてUターンしたこともあった。美咲の参観日や運動会。発表会にだって来たことがない。アルバムをみたでしょう?お宮参りも、七五三も……成人式だって。美咲の大事な日の写真に、あなたは映っていない。」
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