上司が猫を脱いだなら。

yuzu

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今日から第五資料室管理課。

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 「……じゃあ」

 平山さんが手を挙げると、一斉に視線がこちらに集中した。

 「せっかくだし、自己紹介をしておきましょう。今日中に顔と役割は把握しておいた方がいい」

 軽くそう言って、室内を見渡す。

 「多部さんはさっき簡単に済ませましたし、改めて他のメンバーからいきますね」

 まず、一番窓際――もっとも奥のデスクに座っていた女性が立ち上がった。

 すらりとした長身に、抜群のスタイル。
 体のラインがはっきりわかるスーツなのに、嫌味がない。

 「峯岸陽菜です」

 澄んだ声だった。

 「これまでは秘書課にいました。社外対応と、役員周りの情報整理が主な仕事です」

 一瞬、こちらを見る。

 「ここでは、外部との連絡役と、必要に応じた調査を担当します。表に出ない情報を拾うのが仕事、ですね」

 そう言って、柔らかく微笑んだ。

 「ここは堅い部署に見えるかもしれませんが、意外と自由度が高いクリアな仕事環境です。」

 場の空気が、少し和らぐ。
 次に、手元のパソコンから顔を上げた青年が立ち上がった。

 「坂井理文でーす。」

 眼鏡の奥の目は落ち着いていて、年齢の割に冷静だ。

 「高学歴新卒、って言われると居心地が悪いんですけど……事実なので否定しません」

 小さく肩をすくめて、続ける。

 「市場調査と、社内外の不正に関する噂の収集を担当します。数字に出る前の違和感を拾う役割です」

 淡々とした口調で続けるその瞳には、私を試す様な挑戦的な色が浮かんでいる。

 「ネット、業界紙、匿名掲示板、全部見ます。
 使える情報は、感情抜きで出しますので宜しく。」

 最後に軽く会釈して、席に戻った。
 そして――

 「最後に、僕ですね」

 平山さんが、眼鏡を押し上げて立ち上がる。
 
「会計課から移動してきました。平山怜音です」
 
 穏やかな声は、どこか場を落ち着かせる。

「第五資料室では、全体の進行管理と数字の整合性を見ています。言ってしまえば、まとめ役です」

 一度、全員を見渡してから続けた。

「この部署は、少人数で回しています。それぞれの専門を信じて、ぶつけ合う場所です」

 視線が、自然と私に向く。

 「多部さんは企画営業出身。
 現場感覚と数字、両方を知っている人が必要でした」

 私は、少しだけ背筋を伸ばした。

 「……多部由香里です」

 改めて、口を開く。

 「企画営業にいました。正直、まだ第五資料室がどういう場所なのか、よくわかっていません」
 
 でも、と続ける。

 「だからこそ、ちゃんと考えたいと思っています。よろしくお願いします」

 短い沈黙のあと、平山が小さく頷いた。

 「――これで、全員ですね」

 寄せ集めのようで、寄せ集めじゃない。
 意図を持って選ばれたメンバーだと、はっきりわかる。

 この日のうちに、私は理解し始めていた。
 第五資料室は、“静かな終わりを待つ場所”ではなく、“静かに危険な場所”なのだと。
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