凱旋の五重奏 ~最強と呼ばれた少年少女達~

渚石(なぎさいさご)

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第一章 ~伝説の魔剣~

第10話 漆黒に光る影

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 三人が驚いたプレート。
 レイヴンは前から知っていた。シルバが強いということを。しかしながらここまでとは思っていなかった。
 ガレス、ガレットはシルバのことについてはレイヴンからの口伝えでしか聞いていない。しかしオキュラス家としての知識は持っていた。「一族全員が稀代の刀使い」「ほとんどのものが『二重使い』」など、もとより伝わる伝説めいた事実も存在する。
 しかし、シルバのそれは今までのそんな常識を覆しにかかったものだった。

名前:シルバ・オキュラス
 種族:人族(人導士)
 魔力属性:火、水、風
 概念適性:時
 歳:10
 力:12(2↑)
 知能:23(3↑)
 魔力:21(6↑)
 耐久:13(3↑)
 敏捷:18(1↑)
 技術:32(8↑)
 特殊技能:魔剣技Lv2、神風Lv1
 テクネー:刀を持っているとき、力と俊敏のステータス値を二倍にする。


「「三重使いトリクロス!?」」

「「「いやなにこのステータス!!」」」

 ツッコミどころしかなかった。さらにテクネーも強力すぎてなんとも言えない。流石オキュラスの子。侮れない。
 ステータスは同年代平均をどれも大きく上回っており、技術に至っては30を超え、最早達人の域に入ろうとしている。きっと刀捌きや体術によって磨かれたものなのだろう。オキュラス家は名門故、例えシルバであっても子供の頃から課せられる課題は相当きつかったはずである。

 それを乗り越え、血反吐を吐くような思いをして手に入れたステータス値が常人とは比べ物にならないくらいということは当然のことだ。しかしだ。ここまで常軌を逸したステータス値を誇っているのなら、もうガレスやガレットの特訓なんて受ける必要ないのではないか。

 少なからずレイヴンはそう思っているだろう。

 だが、残念ながらそれは違う。''まだ''ルージュ親子の方が強い。二人が驚いているのはあくまで「この年齢でこのようなステータス値を示している」ということに対してであり、決して「俺よりつえーーー!」と言った類のものではない。

「いや、あの…ほんとに見掛け倒しだから…」

 ステータスをまじまじと見られることに対して、赤く顔を染める。恥じらいながら言い訳とも謙遜とも取れるその言葉はきっとシルバの本心からきたものなのだろう。頬を染めるシルバ、可愛い。

 しかしこんなステータス値のシルバに正面衝突の力押しで勝ったフェリスは一体どういうステータスになっているのだろうか…ひどく気になるところである。

 そんな驚きと関心と呆けの混じった空間に、レイヴンが疑問という名の石を投げ込む。いつだって純粋な疑問を抑えられないのだ。だって、男の子だもん。

「でもシルバちゃん僕やフェリス君と戦う時、水属性魔剣技しか使ってないよね?もしかして…」

 珍しく、少し訝しむような表情になるレイヴンにシルバが戸惑いの表情を見せる。その視線が「手加減してたの!?シルバちゃんのいけず!!」と雄弁に語っていることに気づいたのだろう。勝負事に真っ直ぐなレイヴンのことだ。手加減だとわかった瞬間じゃあ僕と戦って!本気で!と言いかねない。もちろんシルバが手を抜いたことなどないのであるが。

「いや、待ってレイヴン。私は確かに『三重使い』。けれど水属性が一番扱いやすいの。火や風は……その……。……まだ魔剣技Lv1までしか扱えなくて。」

「あ、う、うん。そうだね。そ、そういうのあるよね!!わかる!!」

 最初の方はしおらしい言い方だったが、段々と口調が強くなり最後の方は何故かレイヴンが怒られているように気圧されていた。「それ以上私に恥をかかせれば命はないものだと思え。」というメッセージを受け取らされたレイヴンは、紛うことなき肯定を示したのだった。未だに風属性の魔剣技しか使ったことのないレイヴンに何が分かるのかは全く分からないが、それでもシルバはそれで機嫌を直したようである。一件落着。

「まぁまぁ、レイヴンもそういうところ気をつけろよ?相手にどんな事情があるかわかんねえ場合の方が多いんだからな。ごめんな、シルバ嬢ちゃん。こいつは元王族なのにこういうところがなってなくてな。」
「いえ、気にしてませんよ。もう分かってた事ですし。」
「そうかい?それなら有り難い。今後ともこの茶坊主をよろしく頼むよ。」

 その言葉にシルバは微笑みを返した。
 途中で「元王族なのにってなんだー!仕方ないzyあ、あそこに生ってる果物美味しそう。あれ絶対甘いよ。すっごい色してる。」という声が聞こえてきたが本人が幸せそうだったのでシルバは敢えてスルーした。

 テクネーについては特にツッコまれなかったが、それはオキュラス家の特徴として代々受け継がれているものだからだろう。みんなが知っている訳ではないが、ある程度の層は知っていて当然といった風潮があるのだ。ただし、オキュラス家の場合、刀を持ったときに上昇するステータスが代によって変わるそうだ。
 シルバは「力」と「敏捷」であったが「魔力」と「知能」だった代や「力」と「耐久」だった代もあるらしい。

 そんなこんなでシルバのステータスが閉じられた。確認は済んだ、というところだろう。ちなみにステータスを閉じるのはシルバの意思ではなく、詠唱者―つまりガレスの意思によってのみ可能だ。

「それじゃ、いつも通り基礎体力の特訓を兼ねて移動して、その後に魔力のなんやかんやをやって、最後に模擬戦だ。シルバは初めてだろうから少し疲れるとは思うが……まあ初日だから流れを掴めればそれで十分だ。……じゃ、いくぞ。」

「おー!」とレイヴンの元気の良い変声期前の高い声が、太陽からの眩いばかりの光に照らされた広大な野原に響いた。



「も、もうだめ……許して……」
「……あちゃー。」

 一日の授業の全日程が終了し放課となったその瞬間、シルバは死体のように机の上に突っ伏した。やっと動き出したかと思えば、首だけをレイヴンの方に向け再び目を瞑った。そしてこんなことを言い始めたのだ。
 朝の特訓が終わった時点でシルバはほぼグロッキー状態だった。汗は止めどなく流れ、全く魔力切れではないのにも関わらず、魔力切れの症状が出始めるという対処困難な事態に陥っていたためだ。
 ある程度落ち着いた頃にはガレットの背中に背負われてレイヴンの家まで帰り着いていたのだが(本人に帰り道の記憶はないそうだ)、その帰り道の30分の休憩でも立つのがやっとというほどまでしか回復出来なかった。
 その後はレイヴンの肩車によってなんとか学校に辿り着けたのだが、シルバのライフは授業と実習によってその後もゴリゴリと削られ、今に至る。

 本当に無駄な余談ではあるが、シルバを背負って帰っていたガレットが、10歳児の小さな双丘に自分が昂ぶらないよう、必至に素数を数え、感情を抑えていたことは言うまでもあるまい。

「運んで。私を。今すぐに」

「……フェリス君。この娘っ子どうしてくれようか。何か僕に言ってる気がするんだけど。僕、この子が喋ってる言語どうも理解できないみたいなんだ」
「ははっ、君がそんなことを言うなんて珍しいじゃないかレイヴン。いいよ、教えて進ぜようじゃないか。僕の曇り無きまなこと崇高なる耳によると、その娘は「レイヴンく~ん、私あなたのことg」」
「今すぐに黙りなさいフェルシスト。定常状態の『小雨華ディフィリア』でその腹をかっ切られたくなければね」
「ま、待ってくれよシルバ。ちょ、冗談だよね?勿論冗談だよね?わかった謝るよ!謝るから僕の股間に添えられたその立派な打刀を鞘にしまって!お願いだから!!」

 先程までの死体が生き返り、逆にぴんぴんしている個体を死体に変えようとする。ぴんぴんしている個体というのはフェリスではなく、フェリスのフェリスなのだがこの際全ては言うまい。
 シルバの愛刀「小雨華ディフィリア」が教室に差し込む日光をギラリと反射したが、シルバはそれを鞘の中へ収めた。どうやら怒りは治まったようだ。フェリスのフェリス、無事生還である。

「……ふう」

 それに安堵の声を漏らすも、油断は出来ないとフェリスはシルバから少し距離をとった。お腹を切ると言いながら下腹部を切ろうとしたのだ。それは警戒しないわけがない。そんな空間の中で不満の声を上げる者がいた。レイヴンである。

「なんだよ、立てるじゃないかシルバちゃん。そのまま家に帰るよ、明日もまた早くから特訓するんだから」
「ん?何かし始めたのかい?特訓って」
「あなたは知らなくて良いのよ、フェルシストフェリス・ナルシスト。その減らず口を閉じてさっさと自分の鍛錬に励みなさい。あと一ヶ月ほどで本番なんでしょ」

 素直にエールを送れないところもまたシルバの可愛いところだ。レイヴンもフェリスも「素直じゃないなぁ」と言いたげな表情で生暖かな視線をシルバへ向ける。

「な、なによ。別に心配だったとかじゃなくて私があんたを倒す日がちょうど一緒だったから覚えてただけよ。……やめて。その目をやめて……お願い……」

 シルバの懇願など早々見られるものではないので、言うことを聞いてニンマリとした表情で生暖かな視線を送るのをやめた。
 しかし、そうなのだ。シルバの言う通り剣魔舞闘本戦まで残り一ヶ月しかないのである。フェリスには少しずつ差し迫る最終調整期間が重圧のようにのしかかっている頃だろう。本戦では自分と相手だけの戦いではない。「家名と家名の戦い」でもあるのだ。簡単に負けるわけにはいかない。

「でもまあ、そうだね。シルバの言うとおり僕にも時間が無いから、ここでお暇させてもらうよ。無様な戦いを見せるわけにはいかないからね」

 そう言って手を振り教室を出て行くフェリス。フェリスの背中はいつも通りぴんと伸びており、年の割に頼れる背中という印象が強い。
 いつも通りのフェリス・オルタナ。それでこそフェリスは自分の最高のパフォーマンスを発揮できる。余裕を絶やさず自信たっぷりなあのフェリスだ。

 しかし、今日の背中はどこか重かった。余裕がないように見えたのだ。
 それはきっと、ヒタヒタと足音を立てて迫り来る剣魔舞闘によるプレッシャーなのかもしれない。それのための鍛錬によって隠しきれなかった疲れなのかもしれない。更に言えば、シルバとの仲直りを果たしたことによって安堵してしまったが故の油断なのかもしれない。

 しかし、それらは全て違ったのだ。

 シルバとレイヴンの二人は後々、切にこう思うことになる。

 ――あの時、無理矢理にでも悩みがあるんじゃないか聞き出しておくべきだった。手足をバキボキに折ってでも監禁して拷問しておくべきだったと。
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