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S級探索者、焦る
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彼と再び相まみえた時、私、アーシア・コールマンは――焦った。
――いや、早い早い早い。
いろいろなものが早すぎる。
草埜くんはいずれ有名になる、だったらこっちから働きかけてみようじゃないか、と。
そう思ってシオリを彼の近くに誘導してみたら。
その日の内に暴走が発生、しかもこれをほぼ一人で解決。
ブラックミノタウロスなんてものが出現する異常事態において、こちらが救助に行くよりも早く、草埜くんはそれを討伐してしまった。
早すぎるだろう、事態が発生して一時間程度しか経っていないんだぞ?
その後話しを聞こうとしたら、もうその時には帰ってるって言うし。
暴走の件が解決したせいで、運営はこのダンジョンの問題は一応解決したと判断。
私はその場を離れるしかなかった。
その間にも彼に対する噂は爆発的な速度で広がっていき、シオリのDMは問い合わせでパンパン。
最終的に、シオリに彼に対する説明を任せるしかなかったのは私の落ち度だ。
んで、そうしている間にも研究者――黒羽が、あることを私に言ってきた。
あのブラックミノタウロスは、前兆に過ぎなかったのではないか、と。
そこから黒羽の語った内容は、私が草埜くんとシオリに語った内容と同一だ。
まぁ、これ事態は私もそうなんじゃないか、と思っていた。
ここ最近のダンジョンの異常が、この程度で解決するとは思えない――と。
結果は大当たり、黒羽が――加護薬の開発者がそう提唱したことで私は再びこの東地区中央ダンジョンに舞い戻ることができた。
胡散臭くて、色々信用できないやつだけど、その立場と注目度は絶大だ。
さて、そうして私は草埜くんと再び顔を合わせたわけだけど――
再び相まみえた時の草埜くんは、それはもう見違えるほど強くなっていた。
というか、あり得ない量の魔力を取り込んでいた。
アレから一ヶ月も経っていないのに、どうしてAランクのシオリを超えるくらいの魔力量を草埜くんは有しているんだ?
シオリのスキルだと魔力の消費しか視えないからわからないかも知れないけど。
私からすると、今の草埜くんはそこらのモンスターなんて目じゃないほどの怪物だ。
どうしてこんなことに?
その時はさっぱり理由がわからなかったけれど。
後から黒羽のヤツが、こんなことをのたまい始めた。
『多分ー、加護薬を使わずに魔力を直接体内に取り込んでるんじゃないかしらー』
草埜くんが加護薬を呑んでいないのは、運営の間では有名な話だけど。
加護薬なしで魔力を取り込めるのは初耳だよ!
魔力というのは、この世界には存在しない全く未知のエネルギーリソース。
加護薬という形でそれをなんとか人類は操作できるようにしているわけだけど。
それを人力で可能にするなんてことが、できるものなのか?
いや、できてしまっているのだから、できるとしか言いようがないのだろうけど。
とにかく、黒羽は何かを隠している。
明らかに怪しい、推察ではなく事実として草埜くんの魔力操作方法を語っていた。
常々あいつは人間じゃないと思っているけれど、今日ほど怪しいと思ったことはない。
ただまぁ、とりあえずその日は草埜くんとシオリに色々と説明をして終わるつもりだった。
何せ、ブラックミノタウロスを倒してから一ヶ月、一度も大きな異変は起きていないからね。
黒羽もそこまで急ぐ要件ではないだろう、と言っていた。
だったら二人にはあくまで事情を伝えて、事態を認識してもらうだけで十分だったのだ。
此処から先は、ゆっくり対応を検討していこう。
そう思っていた矢先のことだ。
二人が、第五階層のボス部屋でブッチャーを討伐したという報告が入った。
いや何?
ブッチャーを倒した?
いやいやいや、そんな前人未到なことをちょっとやってきました、みたいに。
……いや、別にブッチャー相手なら私でも負けないけどさ?
そもそも出会えないんだから、シオリが以前偶然にもブッチャーと出くわした時とはわけが違うんだぞ?
それをなんで、話を聞いたその日の内に成し遂げてるのさ!
早すぎる、幾らなんでも色々と!
まぁ、その日はそもそも草埜くんとシオリにとって、第五階層のボス部屋を攻略する予定の日で。
私が偶然、その日に二人を呼び出してしまったというのが真相なわけだけど。
それはそれとして、早すぎると思うことくらいは許されるよね?
ただ、厄介なことに。
どうやらこれまで何も起きていなかったのは、草埜くんとシオリが条件を満たしていなかったかららしい。
考えてみれば、暴走にブラックミノタウロス――第五階層ボスが出現したことには意味があったんだ。
二人が満たすべき条件は――第五階層ボスの攻略。
おそらくそれは間違いないだろう。
二人に付着したブラックミノタウロスの魔力が、ブッチャーにも付着していたということだからね。
……これ、ブラックミノタウロスの魔力というのは正確ではないな。
「ダンジョンの魔力」としておくか。
ともかく。
二人が条件を満たしたことで、ダンジョンは新たな動きを見せた。
それが何かと言えば――
二人が攻略したボス部屋に、第六階層へ進むための転移陣とは、別の転移陣が出現したのだ。
しかも、転移した先は今まで誰も探索したことのない未知のエリア。
おそらくそこが、ダンジョンが二人を連れていきたかった場所。
免疫に、治療してもらいたい場所なんだろう。
――いや、早い早い早い。
いろいろなものが早すぎる。
草埜くんはいずれ有名になる、だったらこっちから働きかけてみようじゃないか、と。
そう思ってシオリを彼の近くに誘導してみたら。
その日の内に暴走が発生、しかもこれをほぼ一人で解決。
ブラックミノタウロスなんてものが出現する異常事態において、こちらが救助に行くよりも早く、草埜くんはそれを討伐してしまった。
早すぎるだろう、事態が発生して一時間程度しか経っていないんだぞ?
その後話しを聞こうとしたら、もうその時には帰ってるって言うし。
暴走の件が解決したせいで、運営はこのダンジョンの問題は一応解決したと判断。
私はその場を離れるしかなかった。
その間にも彼に対する噂は爆発的な速度で広がっていき、シオリのDMは問い合わせでパンパン。
最終的に、シオリに彼に対する説明を任せるしかなかったのは私の落ち度だ。
んで、そうしている間にも研究者――黒羽が、あることを私に言ってきた。
あのブラックミノタウロスは、前兆に過ぎなかったのではないか、と。
そこから黒羽の語った内容は、私が草埜くんとシオリに語った内容と同一だ。
まぁ、これ事態は私もそうなんじゃないか、と思っていた。
ここ最近のダンジョンの異常が、この程度で解決するとは思えない――と。
結果は大当たり、黒羽が――加護薬の開発者がそう提唱したことで私は再びこの東地区中央ダンジョンに舞い戻ることができた。
胡散臭くて、色々信用できないやつだけど、その立場と注目度は絶大だ。
さて、そうして私は草埜くんと再び顔を合わせたわけだけど――
再び相まみえた時の草埜くんは、それはもう見違えるほど強くなっていた。
というか、あり得ない量の魔力を取り込んでいた。
アレから一ヶ月も経っていないのに、どうしてAランクのシオリを超えるくらいの魔力量を草埜くんは有しているんだ?
シオリのスキルだと魔力の消費しか視えないからわからないかも知れないけど。
私からすると、今の草埜くんはそこらのモンスターなんて目じゃないほどの怪物だ。
どうしてこんなことに?
その時はさっぱり理由がわからなかったけれど。
後から黒羽のヤツが、こんなことをのたまい始めた。
『多分ー、加護薬を使わずに魔力を直接体内に取り込んでるんじゃないかしらー』
草埜くんが加護薬を呑んでいないのは、運営の間では有名な話だけど。
加護薬なしで魔力を取り込めるのは初耳だよ!
魔力というのは、この世界には存在しない全く未知のエネルギーリソース。
加護薬という形でそれをなんとか人類は操作できるようにしているわけだけど。
それを人力で可能にするなんてことが、できるものなのか?
いや、できてしまっているのだから、できるとしか言いようがないのだろうけど。
とにかく、黒羽は何かを隠している。
明らかに怪しい、推察ではなく事実として草埜くんの魔力操作方法を語っていた。
常々あいつは人間じゃないと思っているけれど、今日ほど怪しいと思ったことはない。
ただまぁ、とりあえずその日は草埜くんとシオリに色々と説明をして終わるつもりだった。
何せ、ブラックミノタウロスを倒してから一ヶ月、一度も大きな異変は起きていないからね。
黒羽もそこまで急ぐ要件ではないだろう、と言っていた。
だったら二人にはあくまで事情を伝えて、事態を認識してもらうだけで十分だったのだ。
此処から先は、ゆっくり対応を検討していこう。
そう思っていた矢先のことだ。
二人が、第五階層のボス部屋でブッチャーを討伐したという報告が入った。
いや何?
ブッチャーを倒した?
いやいやいや、そんな前人未到なことをちょっとやってきました、みたいに。
……いや、別にブッチャー相手なら私でも負けないけどさ?
そもそも出会えないんだから、シオリが以前偶然にもブッチャーと出くわした時とはわけが違うんだぞ?
それをなんで、話を聞いたその日の内に成し遂げてるのさ!
早すぎる、幾らなんでも色々と!
まぁ、その日はそもそも草埜くんとシオリにとって、第五階層のボス部屋を攻略する予定の日で。
私が偶然、その日に二人を呼び出してしまったというのが真相なわけだけど。
それはそれとして、早すぎると思うことくらいは許されるよね?
ただ、厄介なことに。
どうやらこれまで何も起きていなかったのは、草埜くんとシオリが条件を満たしていなかったかららしい。
考えてみれば、暴走にブラックミノタウロス――第五階層ボスが出現したことには意味があったんだ。
二人が満たすべき条件は――第五階層ボスの攻略。
おそらくそれは間違いないだろう。
二人に付着したブラックミノタウロスの魔力が、ブッチャーにも付着していたということだからね。
……これ、ブラックミノタウロスの魔力というのは正確ではないな。
「ダンジョンの魔力」としておくか。
ともかく。
二人が条件を満たしたことで、ダンジョンは新たな動きを見せた。
それが何かと言えば――
二人が攻略したボス部屋に、第六階層へ進むための転移陣とは、別の転移陣が出現したのだ。
しかも、転移した先は今まで誰も探索したことのない未知のエリア。
おそらくそこが、ダンジョンが二人を連れていきたかった場所。
免疫に、治療してもらいたい場所なんだろう。
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