『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる

暁刀魚

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35 山育ち、決戦する①

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「――コウジくん!」
「ああ!」

 俺とアーシア殿が、同時に動く。
 相手の強さが想定以上だったとしても、やるべきことは変わらない。
 すでに相談しておいたとおりに俺達は行動を始めた。

「まずは……これ!」

 シオリ殿がスキルによる魔法を行使する。
 即座に発揮されるそれは、俺達の身体能力を支援する効果がある。
 いわゆる、バフというやつらしい。
 身体能力上昇、これを適時使っていくのがシオリ殿の基本方針。
 というよりも、シオリ殿ができる最も簡単な戦闘への介入方法だった。

 対する俺とアーシア殿は、それぞれの得物でベルセル・ドラグニス……長いな。
 ドラグニスに攻撃を仕掛ける。
 俺は拳で、アーシア殿は光の剣だ。

 ベルセル・ドラグニス。
 後に知ったことだが、このモンスターはこれまで一度として討伐された報告がないらしい。
 複数のS級探索者からなるパーティを、全滅させた実績を誇る最強モンスターの一種。
 そのドラグニスの何が脅威かと言えば――

 だ。

 飛びかかった俺とアーシア殿を、ドラグニスは腕を振るうだけで吹き飛ばした。
 単純な薙ぎ払いだが、あまりにも早すぎる。
 二人して攻撃を仕掛けたにもかかわらず、ドラグニスが動いた瞬間反射でそれを防御に切り替えたほどだ。

「これは……とんでもないな」
「そうだね、出し惜しみはしてられないよ……コウジくん」
「そのようだ」

 吹き飛ばされた先で態勢を立て直して着地。
 思い切り薙ぎ払われたが、きちんと防御していたからダメージはほとんどない。
 上に俺は魔力に氣を混ぜて最初から全力で。
 対してアーシア殿も、体が光を帯びていた。
 魔力がアーシア殿を覆っているのが解る、身体能力を強化するスキルなのだろう。

 ドラグニスが吠えた。
 地を割るほどの衝撃とともに、ドラグニスがこちらに迫ってくる。
 そこからは、壮絶な打ち合いが始まった。

 巨体であるにもかかわらず、余りにもドラグニスは疾い。
 俺とアーシア殿の二人がかりで、なんとか抑えられるといった感じ。
 ドラグニスがシオリ殿を意識していないお陰でなんとかなっているが、シオリ殿が狙われたらひとたまりもないだろう。

 だが、拮抗はできていた。
 Sランク級の実力者が二人で拮抗できる。
 
 ありえない、ドラグニスはこの程度ではないのだ。

 ふと、ドラグニスの口元に魔力があふれるのを感じる。

「まずい、ブレスだ! 絶対に受けるなよ! それと、シオリを守るんだ!」
「相わかった!」

 アーシア殿の忠告に従い、俺は動く。
 シオリ殿を俺が守るのは、単純に俺のほうがシオリ殿のいる場所に近いから。
 このあたりも、一応相談済みだ。

「シオリ殿!」
「草埜!」

 お互いに手を伸ばし、掴む。
 そのまま俺がシオリ殿を引っ張り上げると――両手で抱えながら飛び上がる。

「お姫様だっこは……恥ずかしいわね!」
「すまん、どういう抱え方がちょうどいいかはよくわからん!」
「いいのよ! というか……来る!」

 直後、ドラグニスの口から魔力が放たれる。


 地上を覆う炎が、一瞬にして俺達のいた場所を襲った。


 凄まじい勢いだ。
 一瞬にして地面を飲み込む炎と、そこに込められた魔力。
 とんでもないことに、少し振れただけでロストが発生する威力であった。
 それを、魔力の探知だけで感じることができる。

「アレを、近接を処理しながら躱していかないと行けないのか」
「なんとか頑張って。……私も、から!」
「わかっている!」

 その後、ブレスが収まるのを待ってシオリ殿を再び地面に下ろす。
 そしてそのまま、ドラグニスと打ち合った。

 ――拮抗しているということは、決定打がないということだ。
 俺達はドラグニスの攻撃を受けきることができているが、ダメージは一向に与えられていない。
 対するドラグニスは、拳でもブレスでもいい、一撃何かをかすらせれば十分だ。
 薄氷の綱渡り。
 一瞬の油断がそのままロストを招きかねない戦場で、俺達はただドラグニスを抑えるしかなかった。

 なるほど、これが狂騒の龍。
 一度として討伐されたことのないモンスターの頂点。
 厄介極まりない相手だ。
 こんなのを倒すのが、免疫の仕事だということか?
 まったく、ふざけた話もあったものだ。

 そもそも、ダンジョンは仮に免疫を選ぶとして。
 こいつを倒せる相手を果たして選んでいるのか?

 答えは、わからない。
 だが、わからないからこそ。
 倒せる相手を選んでいると、そう思うしかない。

 俺には決定打がない。
 魔力と氣を同時に練り上げたスペックは、全力のアーシア殿と比べてもおそらくこちらのほうが若干上。
 しかし、それ以外に手札がない。

 アーシア殿はそもそも免疫ではない。
 Sランクとして、それにふさわしい速度でドラグニスとの戦闘についてきてはいるものの。
 彼女はそもそも戦力として考慮されていなかった助っ人なのだ。

 で、あれば。

 この場を打開できる存在は、一人しかいない。


「おまたせ、できたわよ!」


 そう、先程アーシア殿はシオリ殿に覚悟を問うた。
 しかし結局のところ、それでもシオリ殿はここに来た。
 この場において、最大火力を有するのは間違いなく。
 シオリ殿を置いて他にいないのだから。

「ふき、とべえ!」

 そう、シオリ殿は最初にバフを俺達に掛けた後、ずっと準備を続けていた。
 何の準備?
 言うまでもない、それは――魔力を溜めに溜めて放つ、最大火力の一撃だ。

 シオリ殿が叫ぶとともに、俺とアーシア殿がドラグニスを押さえつける。
 拮抗するということは、押さえつける余裕があるということだ。
 そしてそうなれば、ドラグニスは絶対に身動きが取れない。
 かくして、シオリ殿の放った一撃。
 ――ドラグニスのブレスを思わせる炎は、ドラグニスに直撃した。
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