【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん

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後日談(短編)

悪魔の花・前編

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「あら、ではマンダリンの精油が入ったものはクリスティナ様には合わないのね」
「はい。付けるとなぜかピリピリするんです」

なるほど、といってヘレナ様が紙に何事か書き込んだ。モニターとしてたくさん送ってくれた化粧品の使い心地をチェックするため今日はイヴァロンの片田舎までヘレナ様が直々に来てくれている。ヘレナ様に会うのはあの王城での婚約者候補白紙にしちゃおう会議(?)以来初めてだ。

すべての化粧品の確認を終えると紅茶を飲みながらヘレナ様が深いため息を吐いた。

「言っちゃ悪いけれど本当に廃れた村ね」
「はは…お恥ずかしい限りで」

ここに来るまでにも何かないかと探りながら来たという商魂たくましいヘレナ様に尊敬の念を抱いてしまう。

「まぁ何もないところから利益を生み出す、これが商売の真髄よね!」
「さすがヘレナ様、商売の神!」
「当然よ。その辺の爵位とは名ばかりの男共とは違うのよ」

カッコいい!コンサルタントとしてイヴァロンにお招きしたい!…莫大な契約金取られそうではあるが。

「まぁ(お金になりそうな物が見つかれば)協力は惜しまないわ。何か見つかったら教えてちょうだいね。私はあそこに見える山が怪しいと思うのよ」
「…あ、はい。探してみます…」

後背にお金がちらついた気がしたが商売においてヘレナ様が頼りになるのは間違いない。頼もしい味方をゲットして私は俄然やる気になったのだった。

**

ようやくイヴァロンにも暖かな日差しに包まれる春がやって来た。

午前中に学校を終えタルモさん家の工房で井戸端会議をしていると、近所に住む五人の子供を立派に育て上げた敏腕主婦であるグレースさんが有益な情報を提供してくれた。

「悪魔の花?」
「それはもうおびただしい数だったらしいよ」
「へぇ…」
「家のじいさんが悪魔の花を見た次の日転んで骨折したんだから!本当に呪われているんだよ!」

それはただ転んだだけなのでは、と思ったが怒られそうなので言わないでおいた。
ヘレナ様が怪しいと言ったイヴァロンの北西にある山奥に悪魔の花と呼ばれる花がたくさん咲いているらしい。その花を見つけるまでは山で木材を調達したり野草、木の実なども取りに行っていたのだが立て続けに悪いことが起こり皆近寄らなくなったのだそう。

(見ただけで不幸を招く悪魔の花、かぁ)

いったいそれはどんなものなのだろう。とても気になる。

「…もしかしてティナちゃん、見に行くつもりじゃないよね?」
「え、まぁ普通にそのつもりです」
「絶対ダメだよ!危ないよ!」

行く気満々にしてたのが顔に出てたのかタルモさんが激しく反対してきた。

「でもシルキア家としては領地の事なので一応把握しておきたいんですよね」
「む、うーん…」

免罪符であるシルキア家を全面に出すとタルモさんは唸る。

「俺が付いていくから絶対一人でいっちゃダメだよ?」
「え、まぁ…わかりました」

渋々頷くとタルモさんはホッとしたのかため息を吐いた。ん?後ろの主婦たちなんかニヤニヤしてないか?違うからね?
そう心で否定しているとバタンと大きな音を立てて扉が開いた。このタイミング、何となーく二人の王子のうちのどちらかだろうと振り返る。

「いや、私が行こう!」
「山ボーイ…いや、お父様!?」

現れたのはリクハルド様でもなくスレヴィ様でもなく山ボーイの装いをした父親だった。いや、そんな格好されても今日は行かないよ!?っていうか何でここに!?

井戸端会議をしていた面々は突然の領主様の訪問に可哀想なほど挙動不審になっている。

「イヴァロンへの訪問が遅れたことを申し訳なく思う。私は領主のクスター・シルキアだ。娘を温かく迎え入れてくれていること、親としてとても感謝している」

そう言って頭を下げるものだから皆は余計にあわあわしている。

「あ、えっとお父様どうしてここに?」
「ああ。やはり一度は視察にと思ってな。それにスヴェント伯爵令嬢から手紙をもらったんだ。どうやらクリスティナが山へ色々探しに行こうとしているから心配だ、と」
「!?」

ヘレナ様、遠回しに早く山に探しに行けとそそのかしてきたな…さすが商売神。

「と、とにかく皆さん驚いているので村長に挨拶に行ったら家に案内します」
「ああ。そうしよう」

どことなくワクワクしている風の父に思わず苦笑する。外で皆と走り回って遊んでいたアレクシに声を掛けると三人で工房を後にしたのだった。

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