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十二 両手に華?
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ガブリエラちゃんは私を憮然とした表情で眺めていた。
「とにかく、ちゃんとやってよね! 私は今回、兄ルートの予定なんだから、そして……」
「えっ? ええ」
はいといったものの、ルークお兄様にこんなこと聞かれたら恐ろしいことが起こる気がする。絶対に。そもそも実の兄妹になるのでは?
困惑した表情の私を鼻で笑うとガブリエラちゃんは言いたいことを言って、気が済んだのか制服のスカートの裾を翻して去っていた。
来るのもいきなりだけど去るのも早い。そんなことを考えながら彼女の背中を見送っていた。すると、何処からか私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは聞き間違えようのないルークお兄様の声だった。
……化粧室から戻るのが遅かったので、探しにきたに違いないわ。
「ここにいたのか、心配したぞ」
ルークお兄様が足早に近寄ってきた。何故かその後ろにはユリアンまでも一緒。
……何故二人が一緒に?
「ルークお兄様に、……婚約者様もお揃いでどうなさったの?」
私の言葉に二人は形のいい眉根を寄せた。一人は面白そうに、一人は気難しい様子で。
「婚約者って、名前も忘れてしまったのかい? まあ、当然だな。アーシアのような素晴らしい婚約者がいるのに他の女性に色目を使うようなやつは論外だ」
にやりと笑うとルークお兄様はユリアンに視線を送った。それにユリアンは今まで見たことのない微笑を浮かべていた。
「色目だど人聞き悪い。僕がいつそんなことをしましたか? 義兄上は言いがかりも甚だしいですよ。それに彼女は奥ゆかしい人ですから人前で親しく名前を呼ぶのが恥ずかしいのです。義兄上」
ユリアンも負けずにそんなことを言い返していた。
――あれ? こんなイベントあったっけ? ユリアンはヒロインのとこにいなきゃダメでしょうが! あ、でもガブリエラちゃんはルークお兄様が本命ルートなのね。――なんて、恐ろしい子。彼女の方こそ、その称号が相応しいわ。
「お兄様のお手を煩わせることはありません。ドレスでは無いのでエスコートは不要ですわ」
「久しぶりに会えた可愛い妹のエスコートをしなくてどうするんだ?」
「もう、お兄様ったら」
そんな空々しい会話を私達はしていたが、私の頭の中では先程ガブリエラちゃんと話した内容を反芻していた。
私も彼女と同じでメインを一周目に済ますと二周目は王太子攻略にかかったのよね。それでキャラの雰囲気がユリアンと被り過ぎていて途中で飽きちゃって止めたの。ルークお兄様が隠れキャラだったの? 最終魔王のような方なんだけどねぇ……。
ガブリエラちゃんが意気揚々と『だって『ゆるハー』よ。最重要の禁断の相手じゃない!』と叫んだのも気になるし、一体どうなってるのだろう。
「アーシア、私達の、席に戻ろうか」
お兄様は私達というのを特に強調なさって私を促した。更には肩ではなく私の腰をさらって自分の方に引き寄せたのだ。
――いえいえ。お兄様。それは恋人とかにするんじゃないかしら。決して身内にそういうことはしてはいけませんって。でも、この世界はダンスとか観劇とかのエスコートって親族がこんな風にするのは普通だったわね。
だけどね。今の私はお兄様の服を着ているので、今の私達は男同士に見えているんじゃあないですか?
――でも後が怖いので私はルークお兄様には逆らいませんともっ。(虚無の笑い)
そんな私達の様子をじっとりとした視線でユリアンはご覧になっていた。
……いえ、あなたからそんな視線を受ける価値は私にはございません。何せ私は三年後には立派な庶民ですからっ。民草っ。ぺんぺん草っ。
あ、でも、ぺんぺん草は、なずなとも呼ばれてて、花言葉は――。あなたに私のすべてを捧げますって意味のそりゃあロマンチックなのよ。あ、そんなの今は関係ないって?
ま、まあ三年後に庶民になって悠々自適な富豪生活ですからっ。(ここ、エコーかけて)
「……では私も会場までご一緒に」
そう言うとユリアンは私の隣に並んで、お兄様とは反対側を陣取り恭しく私の手を取ったのよ!
――これぞ両手に華! 違うぅぅ。私は朗読劇のためにフロックコートを着用している。この世界の貴族青年のスタンダード。お兄様達だってその姿、だから一見すると青年三人が手に手を取って廊下を歩いている構図。珍妙でしかないわ。誰かに見られたら……。もしかして、このまま席まで戻ろうというの? 止めてぇぇ。
私を挟んで反対側にいるユリアンをルークお兄様は忌々しそうに眺めていた。そしてぼそりと呟いた。
「名前も忘れ去られてしまった者に付き添いされる謂われはないが、……おや、それに君には他に連れがいたのでは?」
ルークお兄様がそう言うと私の頭上でばちばちとユリアンとルークの間で火花が散っているかに感じた。
――うう。怖い。こんな展開は聞いてませんがっ。ちょっと、どうなっているんですか? ひょっとして、これはバク? ここ、バグっちゃっていませんかぁぁ?
私はそう思ってどこかに強制終了のボタンはないかと探してみる。
……ない。ないどこにも見つからないよぅ。……くすん。
私はルークお兄様にがっちり腰からエスコートされて、反対側にはユリアンが手を持つという珍妙な格好で会場まで戻ることに。小心者の私は内心びくびくしていた。
私達が会場に戻った途端どこからか奇怪な声が次々と上がり、ご令嬢方とか更にはご夫人方まで次々と倒れたような音がしていた。
今目の前で、テーブルに顔を伏せるご夫人方が……。そんなに見たくないのっ?
だから、お二方は見栄えだけは無駄に、超一級品の貴公子方なの! 目立ってしょうがないじゃない。ひっそり社交界を去る予定の私なのに……。
本当に皆様見た目に騙されてますわ。お兄様は残念な性格なのですけど、まあ、ユリアンはたぶんそんな性格ではないわよね。きっと、うん……。だってね。
後に社交界の一部では麗しの貴公子達の争いとして語り継がれていたとかどうとか……。当事者達は知らない。
「とにかく、ちゃんとやってよね! 私は今回、兄ルートの予定なんだから、そして……」
「えっ? ええ」
はいといったものの、ルークお兄様にこんなこと聞かれたら恐ろしいことが起こる気がする。絶対に。そもそも実の兄妹になるのでは?
困惑した表情の私を鼻で笑うとガブリエラちゃんは言いたいことを言って、気が済んだのか制服のスカートの裾を翻して去っていた。
来るのもいきなりだけど去るのも早い。そんなことを考えながら彼女の背中を見送っていた。すると、何処からか私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは聞き間違えようのないルークお兄様の声だった。
……化粧室から戻るのが遅かったので、探しにきたに違いないわ。
「ここにいたのか、心配したぞ」
ルークお兄様が足早に近寄ってきた。何故かその後ろにはユリアンまでも一緒。
……何故二人が一緒に?
「ルークお兄様に、……婚約者様もお揃いでどうなさったの?」
私の言葉に二人は形のいい眉根を寄せた。一人は面白そうに、一人は気難しい様子で。
「婚約者って、名前も忘れてしまったのかい? まあ、当然だな。アーシアのような素晴らしい婚約者がいるのに他の女性に色目を使うようなやつは論外だ」
にやりと笑うとルークお兄様はユリアンに視線を送った。それにユリアンは今まで見たことのない微笑を浮かべていた。
「色目だど人聞き悪い。僕がいつそんなことをしましたか? 義兄上は言いがかりも甚だしいですよ。それに彼女は奥ゆかしい人ですから人前で親しく名前を呼ぶのが恥ずかしいのです。義兄上」
ユリアンも負けずにそんなことを言い返していた。
――あれ? こんなイベントあったっけ? ユリアンはヒロインのとこにいなきゃダメでしょうが! あ、でもガブリエラちゃんはルークお兄様が本命ルートなのね。――なんて、恐ろしい子。彼女の方こそ、その称号が相応しいわ。
「お兄様のお手を煩わせることはありません。ドレスでは無いのでエスコートは不要ですわ」
「久しぶりに会えた可愛い妹のエスコートをしなくてどうするんだ?」
「もう、お兄様ったら」
そんな空々しい会話を私達はしていたが、私の頭の中では先程ガブリエラちゃんと話した内容を反芻していた。
私も彼女と同じでメインを一周目に済ますと二周目は王太子攻略にかかったのよね。それでキャラの雰囲気がユリアンと被り過ぎていて途中で飽きちゃって止めたの。ルークお兄様が隠れキャラだったの? 最終魔王のような方なんだけどねぇ……。
ガブリエラちゃんが意気揚々と『だって『ゆるハー』よ。最重要の禁断の相手じゃない!』と叫んだのも気になるし、一体どうなってるのだろう。
「アーシア、私達の、席に戻ろうか」
お兄様は私達というのを特に強調なさって私を促した。更には肩ではなく私の腰をさらって自分の方に引き寄せたのだ。
――いえいえ。お兄様。それは恋人とかにするんじゃないかしら。決して身内にそういうことはしてはいけませんって。でも、この世界はダンスとか観劇とかのエスコートって親族がこんな風にするのは普通だったわね。
だけどね。今の私はお兄様の服を着ているので、今の私達は男同士に見えているんじゃあないですか?
――でも後が怖いので私はルークお兄様には逆らいませんともっ。(虚無の笑い)
そんな私達の様子をじっとりとした視線でユリアンはご覧になっていた。
……いえ、あなたからそんな視線を受ける価値は私にはございません。何せ私は三年後には立派な庶民ですからっ。民草っ。ぺんぺん草っ。
あ、でも、ぺんぺん草は、なずなとも呼ばれてて、花言葉は――。あなたに私のすべてを捧げますって意味のそりゃあロマンチックなのよ。あ、そんなの今は関係ないって?
ま、まあ三年後に庶民になって悠々自適な富豪生活ですからっ。(ここ、エコーかけて)
「……では私も会場までご一緒に」
そう言うとユリアンは私の隣に並んで、お兄様とは反対側を陣取り恭しく私の手を取ったのよ!
――これぞ両手に華! 違うぅぅ。私は朗読劇のためにフロックコートを着用している。この世界の貴族青年のスタンダード。お兄様達だってその姿、だから一見すると青年三人が手に手を取って廊下を歩いている構図。珍妙でしかないわ。誰かに見られたら……。もしかして、このまま席まで戻ろうというの? 止めてぇぇ。
私を挟んで反対側にいるユリアンをルークお兄様は忌々しそうに眺めていた。そしてぼそりと呟いた。
「名前も忘れ去られてしまった者に付き添いされる謂われはないが、……おや、それに君には他に連れがいたのでは?」
ルークお兄様がそう言うと私の頭上でばちばちとユリアンとルークの間で火花が散っているかに感じた。
――うう。怖い。こんな展開は聞いてませんがっ。ちょっと、どうなっているんですか? ひょっとして、これはバク? ここ、バグっちゃっていませんかぁぁ?
私はそう思ってどこかに強制終了のボタンはないかと探してみる。
……ない。ないどこにも見つからないよぅ。……くすん。
私はルークお兄様にがっちり腰からエスコートされて、反対側にはユリアンが手を持つという珍妙な格好で会場まで戻ることに。小心者の私は内心びくびくしていた。
私達が会場に戻った途端どこからか奇怪な声が次々と上がり、ご令嬢方とか更にはご夫人方まで次々と倒れたような音がしていた。
今目の前で、テーブルに顔を伏せるご夫人方が……。そんなに見たくないのっ?
だから、お二方は見栄えだけは無駄に、超一級品の貴公子方なの! 目立ってしょうがないじゃない。ひっそり社交界を去る予定の私なのに……。
本当に皆様見た目に騙されてますわ。お兄様は残念な性格なのですけど、まあ、ユリアンはたぶんそんな性格ではないわよね。きっと、うん……。だってね。
後に社交界の一部では麗しの貴公子達の争いとして語り継がれていたとかどうとか……。当事者達は知らない。
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