【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

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三十四 海辺の別荘にて

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 念願の青い空と海の別荘にやってきましたわ。なんとプライベートビーチ付ですのよ。おほほほ。別荘のある海辺の町はうちの領地なの。山の斜面に面して別荘は建っていて、丁度直に海にも接しているので岩場に囲まれた海岸まであるのよ。

    私は海辺をゆったりと散策していた。侍女や護衛も付いてるけどね。海岸からはお屋敷も見えるのでお兄様が残っている館を見上げた。お兄様はここでもお仕事をされていた。急ぎの書類仕事をこなしているのだろう。お兄様はこの町に港が有るものだから、その関係の書類も確認されているみたい。



    私は波打ち際で佇んで、水遊びも飽きると居間のカウチでお昼寝したり、読書やリアル・ユリアン人形の洋服を作ったりなんかしていた。優雅というか、これぞ……って言いたいけどね。でも、部屋には侍女とボディーガードが仁王立ち。あうう、気が休まらない。椅子にでも座って? 別に直立不動のギネスの挑戦するんじゃないんだし。



 ここにきて何日かはあっという間に過ぎた。


 そう言えばね。海の伝説といえば人魚なんだけど。いるのよ。流石、異世界だわ。こっちは水棲人というらしいけど。えらとかあって、水陸両用仕様なので海や水の中でも息ができるみたい。リアルマーメイドとか見てみたい気がする。そんな思いもあってちょくちょく海岸には訪れていた。綺麗な巻貝を見つけたので拾って屋敷に戻った。お兄様の部屋に入ると難しそうな顔をして書類を眺めて書き込んでいた。

「ああ、アーシアか、どうした?」

「ルークお兄様も少しお休みになられた方が良いかなと思って……」

「ああ、もうこんな時間か、お茶でも運ばそう」

 そう言うと控えていた侍従の一人が部屋から下がった。肩を解すようにするので私はそっと近寄ってその肩を揉み解そうと手を添えた。

「まさか、アーシアが自ら私の肩を……。命令していないのに……」

 お兄様はそう言うと目元に指で押さえていた。それはどういうことかしらね?

 暫く揉み続けているとお茶もきたのでソファへと移った。

「そう言えば、さっき海岸で拾ったの。巻貝は耳を当てると海の音が聞こえると聞きましたけどどうなのでしょう?」

 それは日本で聞いたの話だけどこっちはどうなのかしら?

「海の音……」

 そうお兄様が仰ると黙り込んでしまった。私は耳に当ててみたけれど特に音も聞こえ無かったのでがっかりしてテーブルにそれを置いた。

「そんなものは聞こえない方が良い。それより、お前はここに来て遊んでばかりだが、日課もこなしているだろうな? マナーや気品は一日で成らずだ。日々精進することが重要なんだぞ」

 ――うひゃぁ、藪蛇だったわ。お兄様にも休んでもらおうと誘うつもりがとばっちりを受けてしまった。

「気を付けます。でも、ここには休暇で……」

 私の訴えは冷たい視線で黙らされた。

「そう言えば、ミーシャ商会のご令嬢は?」

「ああ、もう直ぐ来てくれる筈です。向こうも休暇に入ったみたいですわ」

 向こうは普通の学校だから、もう少し授業あったの。そう言えば『ゆるハー』に夏のバカンスに海辺のイベントもあったわよね。西瓜わりとか花火大会とか。どっちも出来そうにないけど。メロンぽいのはあるけれど西瓜は見たことないし。花火も無いわね。

 屋台の焼きそばイベントもいいんだけど。やはりあれは庶民のイベントね。町の屋台にはあるかも……。ここに来てこの屋敷以外から出て無いので軽い軟禁状態? でも、慣れてるちゃあ、慣れてるけどね。産まれた頃からあまり丈夫な方ではなかったから。外に出ると良く体調を崩していたので自然と外出はしなくなったの。

 そもそも、私はこの冬も命が危険だったのよ。覚醒してからはかなり元気になったけどね。今まで危険だからと外に出なかったものだから他のご令嬢のように王太子妃候補にも上がらずにこの歳まで来てしまったの。そのせいで今はとんでもないことになってしまった。

 もともと複数いた王太子の妃候補のご令嬢達は幼少期から競争して今やジョーゼットだけに淘汰されてしまっている状態だった。そこへ無菌状態の私の出現。どうやら王太子様には気に入られて、その兄とも親密な仲で、ゆくゆくは右腕となって大臣職へ就くと思われている。その上、面倒な縁戚も居ない。それは王家にとっても良い感じらしい。ジョーゼットのお家は王家の中でも対立関係にある勢力の一つなのよ。だから対抗勢力が私を取り込みたいといった宮廷勢力様相を今や呈しているのだった。

 覚醒前の私ならそこまでは気が付かなかったかもしれない。何たって私も就活のときは縁故関係に泣かされたからそれなりに分かるようになったわ。今の私はジョーゼット側から見たらかなり邪魔な存在。誘拐や抹殺もあり得るのよね。だーかーら、嫌だったのよ。お貴族様の生活なんて! 早く、庶民になりたい。気ままに外出して買い食いしたいのよ。

 私はやや大きめに溜息をつくとお兄様から、レディとして見苦しいと叱責されてこんこんと諭されてしまった。それでもルークお兄様の負担を少なくするべく何かできないかと考えながら、用意された大好きなビスケットとアイスショコラを食べていたらソファでうとうとして眠りこけてしまった。

「これでデビューしたのか……。まだまだ子どもだ。やれやれ、心配でやれんな」

 そんな優しそうなお兄様の声が聞こえて口元が何かで拭かれて体がふわりと浮いたけど夢ですよね? ふわふわして何だか良い気持ちで眠いの……。





 夕食で起こしてくれた時には自分のベッドで目覚めていた。そして、翌日になると威勢の良い掛け声と共にガブちゃんがやってきたのだ。

「おはようございます! ルーク様。ご招待いただきありがとうございました。暫くこちらに滞在させていただきます」

 朝から元気なガブちゃんを見ているとこっちも元気になるわ。お兄様はお貴族様にありがちな朝は弱い方だから、あのお兄様がやや押されていたわ。

「いらっしゃい。ガブちゃん。お待ちしていましたわ。ゆっくりなさってね」

「ありがとうございますわ。アーシア様。皆様にはいくつか心ばかりの品をお持ちいたしました。どうぞお納めくださいませ」

 ガブちゃんは意外とというのは失礼だけど商売人としてはやっていけそうだわ。早速ガブちゃんの部屋に案内してあげる。物珍しそうにきょろきょろするガブちゃんの姿は結構可愛かった。疲れただろうと部屋を出ようとしたら、流石ガブちゃん、館を見学したいというのよ。私は屋敷の中を案内することになったわ。そして、侍女たちは遠巻きでこの距離なら聞こえないだろうとガブちゃんに身を寄せて訊ねてみた。

「「それで、どこまでいってるの?」」

 同時に同じ言葉を発して思わず私達は顔を見合わせてしまうと次の瞬間盛大に吹きだしていた。
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