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私は家に帰ると両親に改めて話をすることにしました。
――そう、このネックレスの話からしましょう……。
おかしな娘だと思われるかもしれないと覚悟をして話しました。でも、執事や使用人にアルフレド様の行動を確認してもらったので、父にはどうやら薄々アルフレド様のことは耳に入っていたみたいです。
「――直ぐには信じられないことだが……」
お父様は困惑しつつ、頭ごなしに否定はなさりませんでした。
「でも、あなた。ジョン達がお相手を確認しているのよ」
ジョンとはうちの執事の名前です。
「ううむ。それでお前はどうしたい?」
「私は……、このまま比べられることには耐えられそうにありません。知らなかったら、気がつかなかったら我慢できたかもしれませんが……」
私がそう言って項垂れていると横からお母様が優しく肩を撫でてくださいました。
「それに我がベルモンド伯爵家は一人娘であるマーシャの子が継ぐのですよ。アルフレドはあくまでもメルビン伯爵家の三男です。そのよう下賤な女との間に子どもでも作って、よもや金銭でも強請ってこの家に乗り込んで来られるようなことがあったらとんでもない醜聞になりますわ」
「確かに、アルフレド自身が継承権があって貴族である状態で跡継ぎのためと言って妾を作るのとお前との婚姻によって貴族と認められるアルフレドとは訳が違う。アルフレドはあくまで我が家の入り婿という立場なのだ。彼はうちのマーシャと結婚しなければ貴族にはなりえない」
「そうだったのですか……」
女性の爵位継承はあまり前例は無いので私は聞かされていませんでした。実際私が女伯爵と認められることは今のところないそうです。あくまで次代、私が生む男児の中継ぎという立場になることが認められています。そんなことを初めて知りました。
「それに彼が愛人に血迷い、剰え子どもができて、後継者問題で揉めようものなら、うちの分家の者だって黙ってはいないだろう。私だって我が伯爵家でもない血を入れる訳にはいかないよ。それぐらいなら血族から養子を選ぶ方がましだ。……分かった。私からもこの件では然るべき調査しよう。そして、場合によっては婚約解消を考えねばならない」
お父様の言葉にお母様も深く肯きました。
貴族であるアルフレド様が愛妾を持つことは黙認されることかと思っていましたが、私とアルフレド様の場合は違うのだということでした。このことをグレイシー様は言いかけたのかもしれません。
「……お父様。良いのですか? ご迷惑をかけてしまいますが」
「なあに、あちらの方が弁えないのだから、それに婚姻前に分かって良かったかもしれないな」
「そうよ。マーシャは悪くないわ。向こうが婚前にそのようなことをしているからです。あなたは心配しなくていいのよ。あとはお父様にお任せしましょう」
「はい」
私は気が付けば大泣きしていました。こんなに泣くのは子ども頃以来でしょうか。お母さまが優しく慰めてくださいます。お父様はアルフレドを許さんなどど言ってくださいました。どうあっても、もう婚約解消をするおつもりなのかもしれません。
お父様の調査は迅速でした。ミーアさんの身の上からアルフレド様との金銭の流れまで洗い出し、不貞の証拠を集めてくださったのでした。やはりアルフレド様の不貞は間違いなかったのです。
私はそれから何度かアルフレド様からのお誘いがありました。
でも、正直、二回に一度は断るようになりました。本当はもうご一緒したくありませんが、家同士の話し合いが終わるまではと我慢しておりました。私はアルフレド様とお会いするときは必ずあのネックレスを着けています。毎回だとネックレスに気付かれて勘繰られてしまうので、衣服の下に隠して着けるようにしていました。
だけどアルフレド様も私が誘いを断ることで段々不審に思われていたようです。
今日は可愛い花束を片手にアルフレド様が家にやってきました。それは私の好みに近いのですが、どうやらこれもミーアさんの作っている物で、彼女の売り上げになるようです。花に罪はありませんが、私は正直目に入れたくありませんでした。
「どうしたんだい? 最近の君はなんだか様子がおかしいよ」
「そうですか? 少々ここのところ体調が良くないのでそのせいかも……」
「そうなのか。大事に休むといい」
(体調か……。いつもなら友人の結婚や婚約の話をして、僕達の結婚披露の式はいつにしましょうとか煩く言ってくるのにどうしたのだろう。それに今まで急な誘いでも断ることなどなかったのにな。この僕に対して生意気な態度をとってくるようなら少しお仕置きをすべきだな。なあにマーシャは僕に惚れこんでいる。それに次期ベルモンド伯爵になる僕の言うことを聞くように躾けないといけない。爵位は女には継げないのだから。ああ、ミーアなら僕を癒してくれるのに。この女は躾てご機嫌をとらないといけないので本当に面倒な女だ)
「……そんなっ」
「ん? どうしたんだい?」
「い、いいえ。このところ本当に体調がすぐれなくて……」
「そうか。それはいけない。もうゆっくり休んだ方がいいな」
(なんだ。本当に体調が悪かったのか。それでも、僕の言うことをきかないようなら、体調など関係なく言うことをきくように躾けないといけないな。マーシャは将来の伯爵夫人になるのだし厳しくしないと。いや、いっそ、結婚後、数年したら離縁して、ミーアを後妻に迎えるのも有りかもな。体調が悪いのが続くのならいっそのこと最初からミーアを正妻にできるように今のうちに考えなければ……)
「……」
もう私は何も言えませんでした。いえ、言いたくありませんでした。こんな考えの人だったのかと呆れてしまいました。
アルフレド様が帰られると、私はやっと決心が着きそうです。
――そう、このネックレスの話からしましょう……。
おかしな娘だと思われるかもしれないと覚悟をして話しました。でも、執事や使用人にアルフレド様の行動を確認してもらったので、父にはどうやら薄々アルフレド様のことは耳に入っていたみたいです。
「――直ぐには信じられないことだが……」
お父様は困惑しつつ、頭ごなしに否定はなさりませんでした。
「でも、あなた。ジョン達がお相手を確認しているのよ」
ジョンとはうちの執事の名前です。
「ううむ。それでお前はどうしたい?」
「私は……、このまま比べられることには耐えられそうにありません。知らなかったら、気がつかなかったら我慢できたかもしれませんが……」
私がそう言って項垂れていると横からお母様が優しく肩を撫でてくださいました。
「それに我がベルモンド伯爵家は一人娘であるマーシャの子が継ぐのですよ。アルフレドはあくまでもメルビン伯爵家の三男です。そのよう下賤な女との間に子どもでも作って、よもや金銭でも強請ってこの家に乗り込んで来られるようなことがあったらとんでもない醜聞になりますわ」
「確かに、アルフレド自身が継承権があって貴族である状態で跡継ぎのためと言って妾を作るのとお前との婚姻によって貴族と認められるアルフレドとは訳が違う。アルフレドはあくまで我が家の入り婿という立場なのだ。彼はうちのマーシャと結婚しなければ貴族にはなりえない」
「そうだったのですか……」
女性の爵位継承はあまり前例は無いので私は聞かされていませんでした。実際私が女伯爵と認められることは今のところないそうです。あくまで次代、私が生む男児の中継ぎという立場になることが認められています。そんなことを初めて知りました。
「それに彼が愛人に血迷い、剰え子どもができて、後継者問題で揉めようものなら、うちの分家の者だって黙ってはいないだろう。私だって我が伯爵家でもない血を入れる訳にはいかないよ。それぐらいなら血族から養子を選ぶ方がましだ。……分かった。私からもこの件では然るべき調査しよう。そして、場合によっては婚約解消を考えねばならない」
お父様の言葉にお母様も深く肯きました。
貴族であるアルフレド様が愛妾を持つことは黙認されることかと思っていましたが、私とアルフレド様の場合は違うのだということでした。このことをグレイシー様は言いかけたのかもしれません。
「……お父様。良いのですか? ご迷惑をかけてしまいますが」
「なあに、あちらの方が弁えないのだから、それに婚姻前に分かって良かったかもしれないな」
「そうよ。マーシャは悪くないわ。向こうが婚前にそのようなことをしているからです。あなたは心配しなくていいのよ。あとはお父様にお任せしましょう」
「はい」
私は気が付けば大泣きしていました。こんなに泣くのは子ども頃以来でしょうか。お母さまが優しく慰めてくださいます。お父様はアルフレドを許さんなどど言ってくださいました。どうあっても、もう婚約解消をするおつもりなのかもしれません。
お父様の調査は迅速でした。ミーアさんの身の上からアルフレド様との金銭の流れまで洗い出し、不貞の証拠を集めてくださったのでした。やはりアルフレド様の不貞は間違いなかったのです。
私はそれから何度かアルフレド様からのお誘いがありました。
でも、正直、二回に一度は断るようになりました。本当はもうご一緒したくありませんが、家同士の話し合いが終わるまではと我慢しておりました。私はアルフレド様とお会いするときは必ずあのネックレスを着けています。毎回だとネックレスに気付かれて勘繰られてしまうので、衣服の下に隠して着けるようにしていました。
だけどアルフレド様も私が誘いを断ることで段々不審に思われていたようです。
今日は可愛い花束を片手にアルフレド様が家にやってきました。それは私の好みに近いのですが、どうやらこれもミーアさんの作っている物で、彼女の売り上げになるようです。花に罪はありませんが、私は正直目に入れたくありませんでした。
「どうしたんだい? 最近の君はなんだか様子がおかしいよ」
「そうですか? 少々ここのところ体調が良くないのでそのせいかも……」
「そうなのか。大事に休むといい」
(体調か……。いつもなら友人の結婚や婚約の話をして、僕達の結婚披露の式はいつにしましょうとか煩く言ってくるのにどうしたのだろう。それに今まで急な誘いでも断ることなどなかったのにな。この僕に対して生意気な態度をとってくるようなら少しお仕置きをすべきだな。なあにマーシャは僕に惚れこんでいる。それに次期ベルモンド伯爵になる僕の言うことを聞くように躾けないといけない。爵位は女には継げないのだから。ああ、ミーアなら僕を癒してくれるのに。この女は躾てご機嫌をとらないといけないので本当に面倒な女だ)
「……そんなっ」
「ん? どうしたんだい?」
「い、いいえ。このところ本当に体調がすぐれなくて……」
「そうか。それはいけない。もうゆっくり休んだ方がいいな」
(なんだ。本当に体調が悪かったのか。それでも、僕の言うことをきかないようなら、体調など関係なく言うことをきくように躾けないといけないな。マーシャは将来の伯爵夫人になるのだし厳しくしないと。いや、いっそ、結婚後、数年したら離縁して、ミーアを後妻に迎えるのも有りかもな。体調が悪いのが続くのならいっそのこと最初からミーアを正妻にできるように今のうちに考えなければ……)
「……」
もう私は何も言えませんでした。いえ、言いたくありませんでした。こんな考えの人だったのかと呆れてしまいました。
アルフレド様が帰られると、私はやっと決心が着きそうです。
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