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がっこうにいこう!
66話「中級探索者」
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街に帰還した俺達は早速ラビの店へ戻り、ラビの母に出迎えられる。
「お母さん、ただいま!」
「おや、おかえり。随分綺麗な恰好で戻って来たね。」
行きはこの店に並んでるボロ服だったからな。
今着ている物はメイド服とはいえ、城に仕えるメイド達が着ていた物である。
その差は歴然というほかない。
「それに・・・・・・、そっちの人達はどちらさんだい?」
キシドーとメイを怪訝そうな瞳で捉える。
イベントの報酬で貰った魔物だが・・・・・・そのまま伝えても混乱しそうだ。
「迷宮で手に入れた人型の魔道具です。色々と仕事をしてくれるんですよ。」
「へぇ、そうなのかい。そんな物まで落ちてるんだねぇ。」
嘘も方便。
まぁ、似たようなもんだろう。
挨拶もそこそこに借りている部屋へ戻り、いそいそと制服に着替えた。
季節はまだ夏真っ盛り。
袖の長いメイド服を着ていては流石に滅入ってしまうのだ。
水筒に作った氷水を呷ったリーフが溜め息を漏らす。
「ふぅ~っ、生き返った気分ね。」
ずっと迷宮の中で落ち着けない生活をしてきたのだ、無理もない。
皆もうんうんと頷く。
最後の方はちゃんとした食事とベッドで過ごす事は出来たが、やはり外と迷宮では気分が違ってくる。
久しぶりの娑婆の空気は美味い、と言ったところか。
「そういえば、みんなはいつ帰るの?」
「ん~、明後日かな。随分長く潜ってたね。」
一月半近く。前回よりも10日ほど長い。
最後で丁度良くなるように調整したのもあるが。
考えてみれば、今回の夏休みもあっという間だった。
夏休みらしい事は何もしていなかった気がする。海水浴も、花火も。
・・・・・・いや、そういえばそれは去年の冬休みにやったな。常夏のリゾート地で。
そういう意味では冬休みらしいことをしていない、と言う方が正しいのかもしれない。
「そっか・・・・・・、もうお別れなんだね。」
「来年もまた来るよ。ね、みんな?」
「うむ、そうだな。」
「そうね、また来年会いましょう?」
他の皆も口々に再会の約束を交わした。
しんみりとした空気を追い払う様に少し大きな声を出す。
「そう言えばさ、ラビ。あの迷宮って何階まであるの?」
このペースで進める事が出来れば、在学中に40階層まで到達できる筈だが。
「50階まで・・・・・・っていうのは聞いた事あるよ。200年以上前の話だから本当かは分からないけど。」
「200年以上前?」
「最後に迷宮を踏破した人が出たのがそれくらいなんだって。」
「それ以降は居ないんだ?」
「うん、今は31階以降に挑戦する人も少ないから・・・・・・。」
「それはどうして?」
「割に合わないからって言ってたよ。11~30階が安定して稼げるんだって。」
確かにどれだけ準備しようが最悪の場合、稼ぎはマイナスになる。
しっかり武器や防具を整えればその分マイナスも大きくなるのだ。
リスクを考えれば当然の措置だろう。
稼ぐだけならクリアする必要もないのだから。
「なるほどねぇ。私達はその辺気にする必要ないし、挑戦してもいいかもね。」
「ほ、ホントに!?」
先程まで沈んでいたラビの瞳がキラキラと輝く。
そんなに行ってみたいのだろうか。
まぁ、一番お金の掛かる武具は無料(タダ)で賄えるのだ。
必要なのは宿代と携帯食のお金くらい。
迷宮産の装備を持ち込んだところで、元は拾った物だから懐は痛まない。
無くなったら少し残念だが。
そう考えれば挑戦してみる価値は十分にある。
「ふふ、今から楽しみになってきたな。」
「何言ってるのよ、ヒノカ。次は21階からなんだから、まだまだ先よ。」
「そう言えばそうだったな。」
「でも、50階だと私達はもう学院を卒業してしまっているわね・・・・・・。」
再び落ち込むラビ。
「そ、そんなぁ・・・・・・。」
「それなら、卒業旅行で来ればいいんじゃないかな。」
「そつぎょうりょこう? なにそれ?」
はてな顔のニーナに簡単に説明する。
「学院を卒業した記念にみんなで旅行するんだよ。」
「へぇ、おもしろそう!」
俺はやった事ないんだけど。
「とは言っても私達は結構旅行してるし、今とあまり変わらないと思うけどね。」
「でもそれなら、期間を気にする必要も無さそうだわ。」
「うん、どうせならみんなの故郷を回ったりしても良いかもね。」
「おぉ、それは良いな。」
ゆっくりとこの異世界を見て回る。
それも悪くない。
「・・・・・・リーフおねえちゃんの村に行ってみたい!」
「わ、私の所はその・・・・・・何も無いのだけれど。」
「ボクたちのところも何もないよね、アリス?」
「まぁ・・・・・・普通の村だしね。」
特産品でも無ければ、村なんて何処も似たり寄ったりなのだろう。
「おいしいものがあったらどこでも良いにゃ!」
「あはは、サーニャはいつもそれだね。」
*****
控え目な大きさのテーブルにでんと料理が山と盛られた大きな皿が置かれた。
「たんと食べなよ、アンタたち!」
空には太陽の代わりに月が光を放ち、黒いキャンバスを彩る星が散りばめられている。
暗い通りを照らす焚火の上には鉄板が設置され、肉や野菜がジュウジュウと音を立てて新たな客を呼ぶ。
近所の子供達は楽しそうに走り回り、おっさん達は酒を呑み交わし、おば・・・・・・お姉さん方は忙しそうに料理を捌いていた。
「去年より人が多くないかしら?」
「宴会というより、小さなお祭りみたいになっちゃったね。メイも忙しそうだよ。」
俺達が帰って来たのを見て、近所の人達もこのお祭りの準備を始めていたらしい。
その話が広まり、結果この騒ぎである。
メイド服をひらひらと躍らせながら獅子奮迅の活躍を見せるメイ。
迷宮でも随分とお世話になったのだが、メイドスキルは場所を問わず発揮されるようだ。
キシドーは荷物持ちとして扱き使われている。
文句も言わず寡黙に働く姿はお姉さん方に気に入られ、すっかり人気者だ。
一方で、「それに比べてウチの旦那は」と評価が下げられる者も居たが、その当人たちはすっかり出来上がってしまっている。
料理と酒の匂いが人を呼び、人が人を呼ぶ。
気付けば探索者まで参加してくる始末だ。一抱えの食材と酒瓶を担いで。
中にはお姉さん方に混じり、漢の料理を披露する者まで現れた。
更には新たに焚火が熾され、調理スペースが勝手に広げられていく。この暑い中ご苦労なことだ。
迷宮内では結構な食材を拾う事が出来る・・・・・・が、持ち帰られる分は非常に少ない。
そもそも俺達の様に、荷車を持って入る人間が少ないのだ。基本はボロの鞄。
そうなれば、より金になる物を残して食材は必要な分を除いて破棄、その中で余った物が持ち帰られる。
その余った分は二束三文にもならないので、実は結構処分に困る物なのだ。
まぁ、食べてしまえば良いんだけど、持ち帰れる食材にも限りがある。
そこで探索者達が持ち帰った食材を持ち寄り、こうして宴会が開催される事も少なくない。
複数人で色んな食材を持ち寄れば、その分レパートリーも増えるのだ。
ここまで大きなものはそう無いようだが、これ幸いにと余らせた食材を持って探索者たちが集まって来るのである。
夏の暑さと宴会の熱気で頬に汗が伝っていく。
沢山料理を出してくれるのは良いんだけど、そろそろ限界だ。
この身体でよく食べた方だと思う。
お腹を押さえながら隣のラビに話しかけた。
「うぷ・・・・・・もうお腹いっぱいだね。」
「あはは・・・・・・私も。」
「近所の子たちはどうしたの?」
「みんな、あそこにいるよ。」
ラビの指した方を見れば、子供たちに囲まれたキシドーの姿。
やはり物珍しいのだろう。
探索者の中にはキシドーの姿を見て悲鳴を上げる者もいる。
鎧の魔物と戦った事があるようだ。
「随分人気者になっちゃったね。」
「うん、お陰で楽になったけど。」
少し寂しそうにラビが笑った。
二人でお腹を休ませていると、青年から声を掛けられる。
「やぁ、ラビ。20階も行けたんだってね、おめでとう。」
「あっ、トムスさん。ありがとうございます。」
癖のある薄い緑の髪で、線の細い青年だ。
ラビの知り合いのようである。
「もう僕らを追い抜いちゃうなんて、凄いんだね。この間君に手伝って貰って、漸く15階まで行けたところなのに。」
「い、いえ、私は、その・・・・・・みんなのお陰なんです。」
見かけによらず探索者らしい。
15階まで行けたのなら、10階のボスを倒せる実力があるという事だ。
とてもそうは見えないが・・・・・・いや、人の事は言えないな。
ラビと話していた青年と目が合う。
「ごめんね、邪魔をしてしまって。君はこの辺では見掛けない顔だね。僕はトムスっていうんだ。」
「いえ、お気になさらず。私はアリューシャと言います。」
「ひょ、ひょっとして君がラビの言っていた子なのかい?」
「どういうお話かは分かりませんが、多分そうだと思います。」
「本当にこんな小さい女の子だったなんて・・・・・・僕、探索者向いてないのかな・・・・・・。」
「でも10階の魔物は倒せたんですよね? そんな事ないと思いますよ。」
「そ、それは・・・・・・その・・・・・・無我夢中で鞄の中の物を投げつけていたら、魔物が突然燃え上がって・・・・・・運が良かっただけなんだ。」
いわゆるラッキーパンチというやつである。
俺達も似たような顛末であったが。
「運も実力の内と言いますし・・・・・・。問題はそれをどう次に生かすかですよ。」
「次に・・・・・・生かす?」
「偶然拾った道具を、たまたま魔物に投げ付けて運良く倒せた。なら、次にその道具を手に入れればもっと上手く扱えますよね?」
あそこでアレを使ってれば・・・・・・なんて考え出せばキリがないが。
「で、でも、無我夢中だったから、どんな物だったか全く覚えてないんだ・・・・・・。」
「バザーを見てみたらどうです? それを見かけたら思い出すかもしれませんよ。」
「な、なるほど! 仲間と一緒に見に行ってみるよ! ありがとう、アリューシャさん!」
そう言ってトムスと名乗った青年は駆けて行った。
バザーはもう閉まってると思うが・・・・・・。
ラビがクスクスと小さく笑う。
「あはは、アリューシャさん、だって。」
その声は祭りの喧騒にすぐにかき消されてしまったが笑顔は絶えずに続いていた。
*****
じりじりと太陽が肌を焼く中、帰還の巻物が発動し、魔法陣が現れた。
今年の夏休みもこれで終わりだ。
見送りに来てくれていたラビが声を掛けてくる。
「本当に連れて行かないで良いの?」
「うん、二人ともラビを宜しくね。」
ラビの後ろに控えたキシドーとメイがコクリと頷いた。
結局、彼らの名前は仮称をそのまま使う事に。
呼び慣れてしまったのもあり、今更別の名前に変えるのも・・・・・・という訳だ。
この二人に関してはラビに預けることに決まった。迷宮に行くラビの護衛と世話役としてだ。
俺たちを手伝ってもらうよりは、戦闘の出来ないラビを守っていてくれた方がこちらとしても安心できる。
それに、連れて帰れば寮の部屋が狭くなるのだ。
立たせておけば良いのだが、廊下に立たせておけば苦情が来そうだし、部屋の中にずっと立たせておくのも気になる。
その点、ラビの所なら店舗スペースに番犬代わりに立ってもらえば良いのだ。
あんなのが居れば、悪さをしようなんて奴は寄ってこないだろう。
「そろそろ時間だわ。行きましょう、みんな。ラビ、また次の夏ね。」
リーフを筆頭に、みんなでラビと抱き合い別れの言葉を交わす。
またね、と。
別れを済ませた者から魔法陣へ乗り込み、その姿が光と共に消えていく。
最後は俺の番だ。
「次も一緒に行こうね、ラビ。だから・・・・・・怪我なんかはしないように気を付けて。」
「うん、ありがとう、アリス。・・・・・・またね!」
二人で手を振って笑い合う。
別れを済ませた俺は魔法陣の方へと向き直り、光が弱まってきている魔法陣へと慌てて飛び込んだ。
「お母さん、ただいま!」
「おや、おかえり。随分綺麗な恰好で戻って来たね。」
行きはこの店に並んでるボロ服だったからな。
今着ている物はメイド服とはいえ、城に仕えるメイド達が着ていた物である。
その差は歴然というほかない。
「それに・・・・・・、そっちの人達はどちらさんだい?」
キシドーとメイを怪訝そうな瞳で捉える。
イベントの報酬で貰った魔物だが・・・・・・そのまま伝えても混乱しそうだ。
「迷宮で手に入れた人型の魔道具です。色々と仕事をしてくれるんですよ。」
「へぇ、そうなのかい。そんな物まで落ちてるんだねぇ。」
嘘も方便。
まぁ、似たようなもんだろう。
挨拶もそこそこに借りている部屋へ戻り、いそいそと制服に着替えた。
季節はまだ夏真っ盛り。
袖の長いメイド服を着ていては流石に滅入ってしまうのだ。
水筒に作った氷水を呷ったリーフが溜め息を漏らす。
「ふぅ~っ、生き返った気分ね。」
ずっと迷宮の中で落ち着けない生活をしてきたのだ、無理もない。
皆もうんうんと頷く。
最後の方はちゃんとした食事とベッドで過ごす事は出来たが、やはり外と迷宮では気分が違ってくる。
久しぶりの娑婆の空気は美味い、と言ったところか。
「そういえば、みんなはいつ帰るの?」
「ん~、明後日かな。随分長く潜ってたね。」
一月半近く。前回よりも10日ほど長い。
最後で丁度良くなるように調整したのもあるが。
考えてみれば、今回の夏休みもあっという間だった。
夏休みらしい事は何もしていなかった気がする。海水浴も、花火も。
・・・・・・いや、そういえばそれは去年の冬休みにやったな。常夏のリゾート地で。
そういう意味では冬休みらしいことをしていない、と言う方が正しいのかもしれない。
「そっか・・・・・・、もうお別れなんだね。」
「来年もまた来るよ。ね、みんな?」
「うむ、そうだな。」
「そうね、また来年会いましょう?」
他の皆も口々に再会の約束を交わした。
しんみりとした空気を追い払う様に少し大きな声を出す。
「そう言えばさ、ラビ。あの迷宮って何階まであるの?」
このペースで進める事が出来れば、在学中に40階層まで到達できる筈だが。
「50階まで・・・・・・っていうのは聞いた事あるよ。200年以上前の話だから本当かは分からないけど。」
「200年以上前?」
「最後に迷宮を踏破した人が出たのがそれくらいなんだって。」
「それ以降は居ないんだ?」
「うん、今は31階以降に挑戦する人も少ないから・・・・・・。」
「それはどうして?」
「割に合わないからって言ってたよ。11~30階が安定して稼げるんだって。」
確かにどれだけ準備しようが最悪の場合、稼ぎはマイナスになる。
しっかり武器や防具を整えればその分マイナスも大きくなるのだ。
リスクを考えれば当然の措置だろう。
稼ぐだけならクリアする必要もないのだから。
「なるほどねぇ。私達はその辺気にする必要ないし、挑戦してもいいかもね。」
「ほ、ホントに!?」
先程まで沈んでいたラビの瞳がキラキラと輝く。
そんなに行ってみたいのだろうか。
まぁ、一番お金の掛かる武具は無料(タダ)で賄えるのだ。
必要なのは宿代と携帯食のお金くらい。
迷宮産の装備を持ち込んだところで、元は拾った物だから懐は痛まない。
無くなったら少し残念だが。
そう考えれば挑戦してみる価値は十分にある。
「ふふ、今から楽しみになってきたな。」
「何言ってるのよ、ヒノカ。次は21階からなんだから、まだまだ先よ。」
「そう言えばそうだったな。」
「でも、50階だと私達はもう学院を卒業してしまっているわね・・・・・・。」
再び落ち込むラビ。
「そ、そんなぁ・・・・・・。」
「それなら、卒業旅行で来ればいいんじゃないかな。」
「そつぎょうりょこう? なにそれ?」
はてな顔のニーナに簡単に説明する。
「学院を卒業した記念にみんなで旅行するんだよ。」
「へぇ、おもしろそう!」
俺はやった事ないんだけど。
「とは言っても私達は結構旅行してるし、今とあまり変わらないと思うけどね。」
「でもそれなら、期間を気にする必要も無さそうだわ。」
「うん、どうせならみんなの故郷を回ったりしても良いかもね。」
「おぉ、それは良いな。」
ゆっくりとこの異世界を見て回る。
それも悪くない。
「・・・・・・リーフおねえちゃんの村に行ってみたい!」
「わ、私の所はその・・・・・・何も無いのだけれど。」
「ボクたちのところも何もないよね、アリス?」
「まぁ・・・・・・普通の村だしね。」
特産品でも無ければ、村なんて何処も似たり寄ったりなのだろう。
「おいしいものがあったらどこでも良いにゃ!」
「あはは、サーニャはいつもそれだね。」
*****
控え目な大きさのテーブルにでんと料理が山と盛られた大きな皿が置かれた。
「たんと食べなよ、アンタたち!」
空には太陽の代わりに月が光を放ち、黒いキャンバスを彩る星が散りばめられている。
暗い通りを照らす焚火の上には鉄板が設置され、肉や野菜がジュウジュウと音を立てて新たな客を呼ぶ。
近所の子供達は楽しそうに走り回り、おっさん達は酒を呑み交わし、おば・・・・・・お姉さん方は忙しそうに料理を捌いていた。
「去年より人が多くないかしら?」
「宴会というより、小さなお祭りみたいになっちゃったね。メイも忙しそうだよ。」
俺達が帰って来たのを見て、近所の人達もこのお祭りの準備を始めていたらしい。
その話が広まり、結果この騒ぎである。
メイド服をひらひらと躍らせながら獅子奮迅の活躍を見せるメイ。
迷宮でも随分とお世話になったのだが、メイドスキルは場所を問わず発揮されるようだ。
キシドーは荷物持ちとして扱き使われている。
文句も言わず寡黙に働く姿はお姉さん方に気に入られ、すっかり人気者だ。
一方で、「それに比べてウチの旦那は」と評価が下げられる者も居たが、その当人たちはすっかり出来上がってしまっている。
料理と酒の匂いが人を呼び、人が人を呼ぶ。
気付けば探索者まで参加してくる始末だ。一抱えの食材と酒瓶を担いで。
中にはお姉さん方に混じり、漢の料理を披露する者まで現れた。
更には新たに焚火が熾され、調理スペースが勝手に広げられていく。この暑い中ご苦労なことだ。
迷宮内では結構な食材を拾う事が出来る・・・・・・が、持ち帰られる分は非常に少ない。
そもそも俺達の様に、荷車を持って入る人間が少ないのだ。基本はボロの鞄。
そうなれば、より金になる物を残して食材は必要な分を除いて破棄、その中で余った物が持ち帰られる。
その余った分は二束三文にもならないので、実は結構処分に困る物なのだ。
まぁ、食べてしまえば良いんだけど、持ち帰れる食材にも限りがある。
そこで探索者達が持ち帰った食材を持ち寄り、こうして宴会が開催される事も少なくない。
複数人で色んな食材を持ち寄れば、その分レパートリーも増えるのだ。
ここまで大きなものはそう無いようだが、これ幸いにと余らせた食材を持って探索者たちが集まって来るのである。
夏の暑さと宴会の熱気で頬に汗が伝っていく。
沢山料理を出してくれるのは良いんだけど、そろそろ限界だ。
この身体でよく食べた方だと思う。
お腹を押さえながら隣のラビに話しかけた。
「うぷ・・・・・・もうお腹いっぱいだね。」
「あはは・・・・・・私も。」
「近所の子たちはどうしたの?」
「みんな、あそこにいるよ。」
ラビの指した方を見れば、子供たちに囲まれたキシドーの姿。
やはり物珍しいのだろう。
探索者の中にはキシドーの姿を見て悲鳴を上げる者もいる。
鎧の魔物と戦った事があるようだ。
「随分人気者になっちゃったね。」
「うん、お陰で楽になったけど。」
少し寂しそうにラビが笑った。
二人でお腹を休ませていると、青年から声を掛けられる。
「やぁ、ラビ。20階も行けたんだってね、おめでとう。」
「あっ、トムスさん。ありがとうございます。」
癖のある薄い緑の髪で、線の細い青年だ。
ラビの知り合いのようである。
「もう僕らを追い抜いちゃうなんて、凄いんだね。この間君に手伝って貰って、漸く15階まで行けたところなのに。」
「い、いえ、私は、その・・・・・・みんなのお陰なんです。」
見かけによらず探索者らしい。
15階まで行けたのなら、10階のボスを倒せる実力があるという事だ。
とてもそうは見えないが・・・・・・いや、人の事は言えないな。
ラビと話していた青年と目が合う。
「ごめんね、邪魔をしてしまって。君はこの辺では見掛けない顔だね。僕はトムスっていうんだ。」
「いえ、お気になさらず。私はアリューシャと言います。」
「ひょ、ひょっとして君がラビの言っていた子なのかい?」
「どういうお話かは分かりませんが、多分そうだと思います。」
「本当にこんな小さい女の子だったなんて・・・・・・僕、探索者向いてないのかな・・・・・・。」
「でも10階の魔物は倒せたんですよね? そんな事ないと思いますよ。」
「そ、それは・・・・・・その・・・・・・無我夢中で鞄の中の物を投げつけていたら、魔物が突然燃え上がって・・・・・・運が良かっただけなんだ。」
いわゆるラッキーパンチというやつである。
俺達も似たような顛末であったが。
「運も実力の内と言いますし・・・・・・。問題はそれをどう次に生かすかですよ。」
「次に・・・・・・生かす?」
「偶然拾った道具を、たまたま魔物に投げ付けて運良く倒せた。なら、次にその道具を手に入れればもっと上手く扱えますよね?」
あそこでアレを使ってれば・・・・・・なんて考え出せばキリがないが。
「で、でも、無我夢中だったから、どんな物だったか全く覚えてないんだ・・・・・・。」
「バザーを見てみたらどうです? それを見かけたら思い出すかもしれませんよ。」
「な、なるほど! 仲間と一緒に見に行ってみるよ! ありがとう、アリューシャさん!」
そう言ってトムスと名乗った青年は駆けて行った。
バザーはもう閉まってると思うが・・・・・・。
ラビがクスクスと小さく笑う。
「あはは、アリューシャさん、だって。」
その声は祭りの喧騒にすぐにかき消されてしまったが笑顔は絶えずに続いていた。
*****
じりじりと太陽が肌を焼く中、帰還の巻物が発動し、魔法陣が現れた。
今年の夏休みもこれで終わりだ。
見送りに来てくれていたラビが声を掛けてくる。
「本当に連れて行かないで良いの?」
「うん、二人ともラビを宜しくね。」
ラビの後ろに控えたキシドーとメイがコクリと頷いた。
結局、彼らの名前は仮称をそのまま使う事に。
呼び慣れてしまったのもあり、今更別の名前に変えるのも・・・・・・という訳だ。
この二人に関してはラビに預けることに決まった。迷宮に行くラビの護衛と世話役としてだ。
俺たちを手伝ってもらうよりは、戦闘の出来ないラビを守っていてくれた方がこちらとしても安心できる。
それに、連れて帰れば寮の部屋が狭くなるのだ。
立たせておけば良いのだが、廊下に立たせておけば苦情が来そうだし、部屋の中にずっと立たせておくのも気になる。
その点、ラビの所なら店舗スペースに番犬代わりに立ってもらえば良いのだ。
あんなのが居れば、悪さをしようなんて奴は寄ってこないだろう。
「そろそろ時間だわ。行きましょう、みんな。ラビ、また次の夏ね。」
リーフを筆頭に、みんなでラビと抱き合い別れの言葉を交わす。
またね、と。
別れを済ませた者から魔法陣へ乗り込み、その姿が光と共に消えていく。
最後は俺の番だ。
「次も一緒に行こうね、ラビ。だから・・・・・・怪我なんかはしないように気を付けて。」
「うん、ありがとう、アリス。・・・・・・またね!」
二人で手を振って笑い合う。
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