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Prologue 二つ上の先輩
0ー03 やっと来た
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(そういえば)
ちらりと視線を横に向けると、まだサッカー部が試合をやっていた。
細く開けている窓からは、湿っぽい風が吹いている。
まだ幾分か過ごしやすい気温だが、そろそろ梅雨に入ろうかとしている時で、梅雨が明ければ蒸し暑い夏がやってくる。
昨年の今頃は常に周囲に気を配っていた節があり、満足に夏を楽しめなかった。
花火大会に夏祭り、何より楽しみにしている夏休みがある。
龍冴が在籍している草鹿学園は進学校ではないものの、来年からは受験生としての準備を少しずつしなければいけない時期だ。
まだどこへ行くか決めている訳ではないが、本格的に動き出す前に存分に遊び尽くしたかった。
「……や、気ぃ早いか」
はは、と誰にともなく笑うと、自分の声が教室に反響する。
それは虚しく、しかし確かな言葉となって空気に溶けていった。
「──雨宮っ」
すると引き戸を荒々しく開ける音と共に、息も絶え絶えな低いそれが鼓膜に届き、龍冴はゆっくりとそちらを向いた。
「え、っ……?」
そこには汗を滴らせた人間──椰一が立っていた。
どうやら急いで来てくれたようで、額から流れるいくつもの汗がそれを物語っている。
しかし龍冴が驚いたのは椰一の行動だった。
こちらがその名を呼ぶ隙もなく、真っ先に目の前にやってくると視界が黒く染まったのだ。
「は、ちょ……っ!?」
抱き締められていると気付いたのはすぐで、椰一自身の体臭と汗とが混じり合ったそれは、どうしてか不思議な匂いがした。
同性のクラスメイトとも、また異性ともまるきり違う匂いに、慌てて龍冴は引き剥がそうとする。
けれど、動くのは椰一の方がわずかに早かった。
ぎゅうと隙間なく抱き締められ、ますます密着させられる。
「っおい、離れろ……!」
さすがにこれ以上くっついているのは耐えられなくて、龍冴は堪らず声を張り上げた。
「うっ!」
それだけでは飽き足らず椰一の腹をドンと拳で殴り、くぐもった呻き声が聞こえると共に一瞬だけ腕の力が緩む。
「なっ、いきなり、何……するっ」
ほんの小さな隙を突いて、龍冴は座っていた椅子からほうぼうの体で逃げ出した。
「何って、これで分かんない?」
俺の気持ち、と椰一のやや厚みのある唇がゆっくりと弧を描く。
短く呻いたものの龍冴の力ではあまり効果はなかったのか、やがてニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべた。
その表情に苛立ち、なのに心臓が痛いほど跳ねている。
(なんだこれ、なんだこれ……!?)
ばくばくと響く鼓動は紛れもなく自分から出るもので、人ふたり分の距離を取った椰一からは当たり前だが何も聞こえてこない。
ちらりと視線を横に向けると、まだサッカー部が試合をやっていた。
細く開けている窓からは、湿っぽい風が吹いている。
まだ幾分か過ごしやすい気温だが、そろそろ梅雨に入ろうかとしている時で、梅雨が明ければ蒸し暑い夏がやってくる。
昨年の今頃は常に周囲に気を配っていた節があり、満足に夏を楽しめなかった。
花火大会に夏祭り、何より楽しみにしている夏休みがある。
龍冴が在籍している草鹿学園は進学校ではないものの、来年からは受験生としての準備を少しずつしなければいけない時期だ。
まだどこへ行くか決めている訳ではないが、本格的に動き出す前に存分に遊び尽くしたかった。
「……や、気ぃ早いか」
はは、と誰にともなく笑うと、自分の声が教室に反響する。
それは虚しく、しかし確かな言葉となって空気に溶けていった。
「──雨宮っ」
すると引き戸を荒々しく開ける音と共に、息も絶え絶えな低いそれが鼓膜に届き、龍冴はゆっくりとそちらを向いた。
「え、っ……?」
そこには汗を滴らせた人間──椰一が立っていた。
どうやら急いで来てくれたようで、額から流れるいくつもの汗がそれを物語っている。
しかし龍冴が驚いたのは椰一の行動だった。
こちらがその名を呼ぶ隙もなく、真っ先に目の前にやってくると視界が黒く染まったのだ。
「は、ちょ……っ!?」
抱き締められていると気付いたのはすぐで、椰一自身の体臭と汗とが混じり合ったそれは、どうしてか不思議な匂いがした。
同性のクラスメイトとも、また異性ともまるきり違う匂いに、慌てて龍冴は引き剥がそうとする。
けれど、動くのは椰一の方がわずかに早かった。
ぎゅうと隙間なく抱き締められ、ますます密着させられる。
「っおい、離れろ……!」
さすがにこれ以上くっついているのは耐えられなくて、龍冴は堪らず声を張り上げた。
「うっ!」
それだけでは飽き足らず椰一の腹をドンと拳で殴り、くぐもった呻き声が聞こえると共に一瞬だけ腕の力が緩む。
「なっ、いきなり、何……するっ」
ほんの小さな隙を突いて、龍冴は座っていた椅子からほうぼうの体で逃げ出した。
「何って、これで分かんない?」
俺の気持ち、と椰一のやや厚みのある唇がゆっくりと弧を描く。
短く呻いたものの龍冴の力ではあまり効果はなかったのか、やがてニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべた。
その表情に苛立ち、なのに心臓が痛いほど跳ねている。
(なんだこれ、なんだこれ……!?)
ばくばくと響く鼓動は紛れもなく自分から出るもので、人ふたり分の距離を取った椰一からは当たり前だが何も聞こえてこない。
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